第25話
「ヒロ・クロスギーだ…」
小さい声が言った青年はアリサを見据えた。そして再び背を向けた。
グラウンドでは特殊憲兵隊の姿が確認できる。
どうやら、異世界人を追いかけてきたらしい。
だが、すでにこと切れている。処刑されたのだ。
誰もがホッとした様子を見せていた。
しかし、アリサの近くにいた観客たちはヒロが去るのを訝しむ様子で眺めている。
「転生系も異世界人同様の処理をすればいいのに」
と誰かが吐き捨てる。
「やめろよ。彼らはスフィル人だ」
と別の誰かが反論する。
「でも転生者を生み出した恥さらしじゃない!」
と年配の女性が言った。
「バカ言え。そんな現種惑星人主義者みたいな事いうものじゃないよ」
とおそらく女性の孫と思われる若い男性が答えた。そして、
「彼らは可哀そうな人達なんだ。優しくしてあげなくては」と続けた。
“転生系”――
それは惑星スフィルに存在する負の側面の一つ。
異世界人の存在が確認されてから数世紀。呼応するかのように表れたのが前世の記憶、もしくは他人の記憶を持つと発言する人々が登場した。彼らの症状は“転生症候群”と名付けられる。そして人々は発症者を“転生者”と呼び蔑んだ。原因の一つは人格形成が変わってしまう例が多い事があげられる。年相応だった10歳の少女が何年も後にならうはずの数式を解いたり、言葉もろくに話せなかった者が理論的に解説を行った。またある者は運動能力が格段に上がったのだ。人々は不気味がった。
ある親は、
『息子はあんな性格ではない!あの子の中にいるのは誰なのか?』と嘆いた。
そして思ったのだ。
『そうだ。きっと異世界人が意識を乗っ取ったのだ。奴らを隔離しなければ…そうしなければ、この星は乗っ取られる!』
スフィルの民は選択した。
『治療法が確立されるまであの哀れな同胞達を収容しようと』
そうして各地に転生者専用の隔離治療施設が誕生したのだ。
そして、その激しい差別意識は転生者を輩出した一族やその血をひくスフィル人にも向けられている。彼らは隔離処置はなされてはいないが、不遇な扱いをよぎなくされている。
ヒロは見ず知らずの観客たちの心無い一言を耳にかすめながらも決して表情は変えなかった。ただ、静かにその場を離れるだけでだ。
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