第24話
アリサが最初に視界にとらえたのはエリカの顔面だった。
近くでみると結構可愛い顔をしているわ。
次に気づいたのは氷漬けになったドラゴンの頭部だった。それをガシッと掴むのは同年代の青年だ。彼がいなければあの立派なドラゴンの下敷きになっていただろう。そう思うだけで全身が震えた。
思わず肩を両手で包み込む。手のぬくもりを感じて少しばかり冷静になる。
会場を見渡せば、スタンドの最上階から一本の線をのばすように氷の柱が形作られている。
目の前の青年の仕業だろう。どうやら滑ってここまで来たらしい。
そう思っている間に頭部が氷の塊となり、崩れ去っていった。
アリサは彼から目が反らせなかった。羽の閉じたカワセミのエンブレム。
後期入学の生徒だ。
この一瞬の隙にこれほど大量の氷を発生させられるなんて、暗闇の森を出歩く
彼は物思いにふける様子で踵を反した。まるで何かに苦悩しているようだ。
その姿がどうしてか気になって仕方がない。絵を切り取ったような美しさがあったからかもしれない。彼の何かに惹かれるのだ。
アリサはハッとして、立ち上がった。
隣ではエリカが何か言いたげに佇んでいたが今は気にしている暇はなかった。
「あの…助けていただいてありがとうございます」
胸の鼓動が一段と大きくなる。
青年は振り返る。その紫の瞳はどこまでも冷たくアリサを映さない
「名乗るような者ではない…」
完成された青年によく似合うハイトーンが体中をめぐっていく。
血行がよくなるようだ。
青年は背を向け、去ろうとした。
「まあ、アリサ様が話しかけられているのに失礼極まりないわ。さすがは転生系。野蛮人気周りないわ」と心底軽蔑するようにミアは言った。
「おやめなさい。恩人に向かって…」
いつも以上に強い口調のアリサにミアは驚いたように固まった。
それは他の令嬢同じようであった。
エリカが青年の前に立ちふさがる。
「お嬢様が名をご所望です。言いなさい」
強い口調で語るエリカ。青年とにらみ合っていた。
だが、先に折れたのは青年だった。
彼はゆっくりと顔だけをアリサに向けた。
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