第22話
エリカは試合が早く終わらないかと思っていた。
チョコレートなるものをと巡り会えたのはよかったが、令嬢方との雑談は肩が凝って仕方がない。
隣を見れば、すでに数十個目のお菓子に手をつけるアリサがいた。
そんなに食べてどうして太らずにいられるのかエリカには謎である。
スラっとしたスタイルのアリサに多少イラっとさせられる。
「まあ、私達の学院はペガサスですの」
間の抜けた言葉をつぶやいた主を前にして、心に生まれた負の感情は一切出さない。
「美しいです…」
と変わりにもらせば、
「エリカはああいう乙女チックなものが好きね」と返される始末である。
乙女なのはむしろアリサの方だろうと思った。
しかし、やはり本音を言うほど馬鹿ではない。
「そうなのかもしれません」とほほ笑むだけである。
「ここまで来たら勝ってほしいですわ」とミアが言った。
まるで再現された蝋人形のごとく、よく聞き、笑い声をあげる令嬢達は試合の合否になんて興味はないのだ。けん制し合い、場を繕っている。それが分かってしまう自分に嫌気が指す。唯一そういった女同士のバトルな雰囲気に気づいてないのはアリサぐらいだろう。高貴すぎる故に純粋なのだ。そのバカな所がエリカは好きだ。
扱いやすいったらありゃしない。
まさか彼女の一番の使用人がそんな事思っているなんて目の前の主は考えもしていないだろう。エリカは再びチョコレートを口に含んだ。
何度食べても癖になる味だ。舌の上で溶けていくそれを感じていた。
しかし、すべてを味わい尽くす前に、爆音が響き渡り現実に引き戻される。
シュッン――
突風と共にこちらに向かってくる何か…。
あれはドラゴンの頭だ。その眼光と牙がこちらを捉えていた。
パニックになる令嬢達の様子がスローモーションのように映った。
「お嬢様!」
発した言葉は主を示すものだった。
つくづく使用人としての性が表に出てくるものだ。
エリカはアリサの上に覆いかぶさった。だが、いつまでたっても衝撃は訪れない。
恐る恐る目をあけるとドラゴンの頭部が凍り付いていた。
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