第20話

考え深くなり頭を下げる角度も大きくなるエリカ。

「すべてはお嬢様のお力あってこそ。行き倒れていた私を助けていただき、さらには職と教育の機会を与えてくださったのです。本当に素晴らしい方です…」


「もう、褒めすぎ。すべてはエリカの努力の賜物じゃない。勉学だけならソールにもひけをとらないし…もう少し自信を持ちなさい」

「お嬢様…」

肩を優しく触れて、頬を赤く染めるエリカ。

その姿に周りの令嬢達は「素敵…」と理想の主従関係を見ているようにうっとりしていた。


アリサはフッと口元を緩めて、

「さあ、エリカ好きな物食べていいわよ。これなんてどう?」

と手のひらサイズのチョコレートを差し出す。

「ありがとうございます」

口の中に広がる甘さを堪能しながらエリカはそのおいしさに浸っていた。

「気に入った?ナーベルン菓子店の新作なんですって」

そう言い、グラウンドに視線を移すアリサ。エリカもそれに続く。


試合は100対80で予想通りハルモニア学院がリードしていた。

「これはハルモニア学院の勝利は確実ですね」と紅茶に口をつけるエリカ。

「油断は大敵よ。相手は首都の強豪校でしょう。追い詰められたらアレをやるんじゃない?」

足を組み替えるアリサ。

「あれ?とは…」

と首を傾げるエリカ。

「噂をすればほら…」と右隣りにいるミアが指し示す。


グラウンドに現れたのは巨大な青いドラゴンだった。

長いしっぽに鋭い爪、固い皮膚とワニによく似た顔面。実によく再現されている。

会場中がその瞬間を目撃するとワ―ッと湧いた。

「あれは?」

観客の盛り上がりに反して実に冷静に聞き返すエリカ。

「BB公式ルールの一つよ。選手たちの神秘力を合わせて作り出すキセキ。息を合わせるのは難しいけれど完成すれば大量ポイントゲットの可能性が高まるわね」

と淡々と説明するミア。


よく見るとドラゴンの中に体を懸命に動かす相手方の選手たちの姿が確認できた。

その光景はかなり地味である。

だが、その覇気に似た懸命な姿に胸はうたれなくはない。


「でもドラゴンって安易よね。架空の生き物だし。ここは暗闇の森に住むモンスターぐらいリアルな物を持ってきてほしかったわ」

「まあ、アリサ様。それはさすがにユーモアが過ぎますわよ。それに男の子はああいうのがお好きですから」

一生懸命プレイしている彼らには決して聞かせてはいけない話だなとエリカは思った。まさかご令嬢方にディスられているなんて夢にも思っていないだろう。

この間にもよくできたドラゴンはグラウンド場に配備された球体を吸い込んでいく。

さて、あれに対峙した我が校の選手たちがどうするのか実に楽しみである。

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