第19話
「あっ!やっと来た」
艶のある銀色の長い髪をなびかせて振り向いた少女は澄んだサファイアのような瞳をエリカに向けた。
「申し訳ありません。お嬢様」
エリカはひざ丈まで伸びたスカートの裾を握り、丁寧にお辞儀をした。
「もう、本当に真面目なんだから。私の事は普通にアリサって呼ぶように言ってるのに!」
アリサは同意を求めて他の令嬢達に笑いかければ、その場に和やかな雰囲気が漂う。
「ご勘弁ください。私は下働きの身です…」
恐れ多いとワタワタと慌てると彼女たちはさらにほほ笑んだ。
「もう、可愛いわね」
そう言ったのはミアだった。エリカはハッとして、頭を再び下げる。
「ご機嫌麗しゅうございます。ユーフェルト伯爵令嬢様」
「そんな固くならないで。貴方の主もそう言ってるのだから従わないのは逆に失礼よ」
「確かにそうですね。私の浅はかな気遣いを指摘いただきありがとうございます」
エリカは直立不動に戻る。
「こっちに来てよ」
アリサは自身の隣の席が空いているという意図を込めて、ポンポンとソファーを叩いた。
「恐れ入ります…」
エリカは肩をすくめて恐る恐るその場所に腰をおろした。
「この子いつもこんな感じなのよ。同級生なのに寂しいわ」
「そんな同級生だなんて勿体ないです。私は旦那様…いえお嬢様のお慈悲で学院の門をくぐらせていただいている身なのですから…」
顔を真っ赤にして恥じらうように俯くエリカ。アリサは新しい紅茶をカップに注ぐ。
その一連の動作に青白い表情を浮かべるエリカ。
「申し訳ありません。私が入れなければならないのに…」
慌てて立ち上がろうとするエリカを制止すアリサ。
「貴方、今朝も屋敷で仕事をしてきたのでしょう。私のように遊んでばかりの人間ではないんだもの。これぐらいさせて…」
優しく微笑むアリサに何も言えず、再び小さく腰をかけて座り直す。
彼女の前にカップに注いだ紅茶を差し出すアリサ。
「恐縮です…」と小さく呟くエリカ。
「本当に殊勝な方ね。さすがはアリサ様のお気に入りですわね」と誰かが言った。
学院に通う歳になったアリサがエリカも一緒に教育をと駄々をこねた頃が昔のように感じる。
その動機は同年代のエリカから離れたくないという子供らしいものだった。
エリカはその時の事を思い出して小さく笑った。
ハルモニア学院はエリート校だ。お金持ちや由緒ある家の子息、子女がほとんどだ。
しかしここ数世紀で平民の学生も増えた。最近では本来学院に通えるはずもない出の者達も多い。ある意味でエリカもついているのだ。
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