第15話

ブヨブヨの男は鼻から血を流し項垂れていた。

「おっお前らただで済むと思っているのか!」

人差し指をヒロに向け、怒鳴った。

カインは男の首を絞めようとする。

だがそれを止めるマミ。

「ちょっとやめてよ。そのおっさん、一般スフィル人よ。万が一殺しちゃったら私達死刑ものじゃない!」

カインはパッと男の首から手を放す。

激しくせき込む男。

「見てろよ。お前ら学院に報告してやる!」

ヒロは無表情のまま、男に顔を寄せる。

その瞳は冷たく、無機質である。殺気を帯びた彼に男は恐怖で動けない。

「構わないが…いいのか?彼女も我々と同じ類の人間だ。“正常なるスフィル人”のアンタが準市民の少女といかがわしい事をしたと知られれば、困るだろ」

この男は典型的な中流の上ぐらいにうじゃうじゃいそうな見た目だ。


 たとえ未遂だとしても、彼の上司に当たるであろう保守層の多い上流階級の連中に準市民と関係を持ったなんてバレればすぐ首が飛んでもおかしくない

その証拠に少し脅しただけで、押し黙り落胆している。全く、この状況を作り出した先輩も人が悪い。自分の魅力をわかってやっている分本当にたちが悪い。

ヒロ達は奴を解放した。そのまま、フラフラと歩き始める男を眺めていた。


するとどこからか少女の、

「捕まえて!スリよ!」という高らかに宣言する声が聞こえてきた。

振り返ると、塀を素早くよじ登ったフードの人物が降り立った。

謎の人物はあろうことか気を落としている例のおっさんに直撃してその腹に収まるように倒れこんだ。

「うわ~痛そう…」とカインはつぶやく。

「たぶん、ふかふかだと思うが…」と返すヒロ。

最後に「そういう問題じゃない!」とマミは叫んだ。


 両者は気絶したまま、スロープを滑り落ち、人の波に埋もれていく。

運が良ければ、逃げられるだろう。

その場に残ったのは高そうな財布だ。

「何それ?売ったらいい金になりそう」だとテンションが上がるマミを制し、ヒロはスタンド下に放り投げた。こちらも運がよければ持ち主のもとに帰る事だろう。

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