第14話
エリカの一日は非常に速い。屋敷の掃除から洗濯、料理などてんやわんやである。
何より大変なのはお嬢様を起こすことだ。あの人は非常に寝相が悪く、中々起きない。起こしても30分以上は寝ぼけている。そんなお嬢様をシャキッとさせるべく、冷たい水を湿らせたタオルで毎朝、頬を洗って差し上げるのが日課なのである。
その後も仕事に追われるエリカとは異なりお嬢様は優雅な朝食をとる。
それでいい。私はただのメイドなのだから。
故になぜ今こんなに全力疾走しているのか謎だ。
遥か遠くを走るのはフードを被った…多分男。年齢は若いはず。
エリカは自分でもなぜ走るのか分からなかった。見知らぬ人の財布だ。
ほっておいてもよかったのに…。
体が動いてしまった。
今頃、お嬢様はBBの試合を観戦している。エリカもその場に呼ばれているのだ。
下働きの自分も同じ席で見ていいだなんて。お嬢様は人が良すぎる。
とはいえ内心喜んでいた。別にBBのファンというわけではない。スポーツは特に興味はない。けれど、お嬢様のご友人は華やかな方々なのだ。そこに並ぶ食べ物は珍しい物も多い。
エリカは食い意地が張っている事を自分で自覚していた。
食べ物のおこぼれを貰うのがこの仕事の最大の楽しみとなっているのだ。
折角、仕事を終わらせてきたっていうのに、スリを目撃するなんて。
エリカの意に反して観察力が優れてきた気がする。
たぶん、いい事なんだと思うのだが…。
なんだか複雑である。
この間にもスリはドンドン遠ざかっていく。しかも、なんで、スタンド場に設置され
たスロープを登っていくのかホント謎である。どんどん入口から遠ざかっている。
もしかしてあのスリ、ポンコツ?パニックになってるの?
「アイツ、捕まえて!スリよ!」
エリカは大きく叫んだ。最初からそうしておけばよかった。
彼女の可愛らしい声に観客たちが男の姿をとらえ、人が集まってくる。
その中には警備員も含まれている。
しかし、人の波が出来てしまいスリの姿は見えなくなる。
エリカは限界に来ていた。
息を切らして、蹲る。
しんどい。もうやめようかな。
そう思った矢先、天の恵みのごとく空から財布が降ってきた。
「えっ?」
真っ赤な高級財布だ。だが、エリカの趣味には合わない。
下品だ。
何がそうさせるのかと考えてみると、強い匂いがするからだ。
おそらく香水の…濃いツンした香りだ。そのはずだ。
どう見ても臭みの方が強いが…。
エリカは悪態をつきたくなった。
こんな趣味悪い財布のために走っていたと思うと何だかむなしくなった。
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