第12話

 アリサはありえない噂に動揺しつつ、ソールのプレイを見守っていた。

彼が観客席の女性達に手を振る様子を観察する。

そこになんの感情も抱かない。ただのチャラい男だ。


「やめてくださいな。同じ歳と言えど、彼は兄弟みたいなもの。恋の相手なんてとんでもない。私としてはソールの女遊びをどうにかしたいぐらいです。家族としてね」


そう一喝すれば誰も反論しないだろう。

「そうですわね。彼、プレイボーイだって有名ですもの。学院の女の子のほとんどに手をつけたんじゃありません?」

とある令嬢が口走る。

「それは私も聞きましたわ。遊ぶだけ遊んでポイですって…」

と別の令嬢は悪態をつく。

「まあ、最低!」

と令嬢達は盛り上がっていた。自身の火の粉を振り払うつもりが、ソールの悪口合戦になってしまい、少し罪悪感が湧き上がってくる。

アリサはテーブルに並べられていた手のひらサイズの黒いお菓子を口に入れた。

甘さと苦みが広がった。

「あら、美味しい…」

思わず漏れる感想。ミアはその反応を見逃さなかった。

「さすがはアリサ様。お目が高い。それはチョコレートというものです」

「チョコレート?」

「ナーベルン菓子店の新作ですわ」

「まあ、あそこの…」

アリサは驚いた。ナーベルン菓子店は100年以上の歴史を持つ名店だ。だが、ここ最近は低迷の一途をたどり、倒産したと思っていた。

「このお店まだあったのね」

素直な言葉だった。

「代表が変わって持ち返したんですわ」

「代表?もしかして先代のご子息ですか?」

「ええ、よくご存じですわね。アリサ様」

「当然よ。彼はうちの学院の卒業生でしょう。確か私達が入学した年の5年生でしたわね」

「そうですわ。学院にいたころから優秀でしたけれど、才覚にも恵まれておられるなんて、後輩として誇らしい限りです」

「本当にね。こんな画期的なお菓子を編み出すなんて、どんな頭の構造をしているのかしら」

アリサは再び、チョコレートを頬張り、頬を染める。

退屈だった時間に少し潤いがもたらされたようだ。

「そういえば、エリカさんは遅いですわね」

「そうなのよ。あの子、どこで何しているのかしら」

アリサは辺りを見渡した。目当ての少女の姿はまだない。

彼女が来たらチョコレートなるお菓子を食べさせてあげようとアリサは思った。

きっと喜ぶに違いない。彼女も甘い物には目がないのだから。

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