第10話

「では、セオ様では結婚相手には不足ですか?」

そんな聞き方しかできない自分に腹が立つアリサ。

どこまでも最低な人にすら思えてくる。

「不足といわけではありません。ただ、彼は少し変わり者ですから…」

「あら、そうなのですか?セオ様は絵に書いたような優等生だという認識でしたが…」

「とんでもありません。顔をあわせればクラブの話ばかりで、私の話など一言も聞いてくださらないですのよ」


そこには、『身持ちの堅い貴方は男とそんな話をしたことすらないのでしょうね』という意味を含まれていた。


「えっ?そうなのですか?意外ですわ。紳士な方だと思っていましたのに…でもBBの話をするぐらいどうって事ないのでは?」

とアリサは彼女の言葉をそのまま鵜呑みにして返した。


「いえ、BB部ではなく、有志の集まりでの話です…」

真顔で返された事に動揺したのか肩をすくめるミア。


「まあ、彼はとても行動的でらっしゃるのね」

と何も考えていなさそうな笑みで答えるアリサ。

そんな様子の彼女にミアは言葉遊びをやめることにした。変わりに、

「気になるならご紹介しましょうか?」

と切り返した。その発言に他の令嬢方の視線が鋭くなる。

「それはおこがましいですわよ。ミア様」

「アリサ様は仮にも長主様のご親戚ですよ。そんな方に軽々しく男性を紹介するだなんて…」

と言ったのはミアと同格式の家の少女だ。

彼女が一方的にミアを敵視しているようにすら見える。


 長主とはローズメリィ帝国の王が拝命する称号だ。キリュシュ家と彼らの関係は数世紀前にさかのぼる。まだミンスル地方の少ない土地を管理する領主でしかなかったアリサの先祖は一攫千金を狙い、大陸統一に乗り出した当時の長主家にすり寄り、何世代にも渡って婚姻を結んだという。

その事実は500年以上前の文献にも記されている。

現在でもその良好な関係は続いており長主への発言権も大きい。

ミンスル全体の統治を任されているのもそのためであり、現キリュシュ家の当主、つまりアリサの父は限定的ではあるが王に近い権限を与えられているのである。

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