第9話
いかにも高級なソファーに腰かけながら青春真っ最中のグラウンドを眺める少女達がいた。
「やあね。あんなに汗をかいてまでやなきゃいけないものなの?何が面白いのか私には分からないわ」
集まりの中心で優雅に紅茶を飲むアリサはダルそうに述べる。
同じ学院の生徒が出ている手前応援に来たのはいいが、ずっと座っているのは退屈でならない。その思いに気づいたのかどうかは分からないが、周囲の少女達は同意を込めて上品に笑った。絵に書いたような貴族令嬢の集まりだ。
この場で最も高貴なアリサに反論する者などいないだろう。なにせ帝国の主からミンスルを預かったキリュシュ公爵家のご令嬢なのだから。
「仲間同士で一つの目標に向かう。男の子が好きそうな事ですわよ」
落ち着いた青色のワンピースを着る少女がアリサの隣で発言した。
アリサに反論した事実に周りの友人達が青い顔をした。
だが、両者は意に返さず、ほほ笑んでいた。
「まあ、ミア様は彼らの事をよくご存じですのね」
アリサはあくまで褒めたつもりでいた。人にとっては皮肉とられるかもしれない言葉のやり取りを彼女は全く理解していなかった。
なぜなら、男心が分かるというのは恋愛方面の知識が豊富と言っているようなものだからである。それは貴族の子女にとってあまりよろしくないと思われてしまう。
故に目の前のミアシーヌ・ユーフェルト嬢の眉間にしわが寄った。
しかし、その事にアリサは全く気付かない。
「大したことではありませんわ。BBクラブには知り合いもおりますし…」
小さく頭を下げるミア。奥ゆかしいお嬢様を絵に書いたようなしぐさだ。
「そういえば、セオ様とはいかがです?」
「はい?」
「お付き合いされているんですのよね」
BBのレギュラーの一人である青年と政治家一家で伯爵の位を持つ彼女はビッグカップルとして知られている。
「嫌ですわ。彼とは良いお友達です。まあ、親たちはくっ付けたがっているようですけれど…」
まるで他人事のように語るミア。
セオドア・アヴィリナは代々裁判官を輩出する名門だ。
そこでようやくアリサはきな臭い大人の事情に行きつき、複雑な感情が湧き上がってくる。
「そう…」
それ以上追及することはできなかった。政略結婚の話など、アリサの周りには腐るほどある。もちろん彼女も当事者として含まれている。
「ご心配なく…。この件に関しては私たちの意志を尊重してくれているようです。むしろ破談になったところで痛くもかゆくもないのでしょう」
淡々と答えるミアに貴族令嬢の何たるかを見せられた気がして不愉快に感じた。
アリサが何を考えていたのかミアには分かっているようだ。十代にして自身よりも遥かに貴族として優れている彼女に尊敬と一抹の嫌悪感が広がっていく。
アリサはそれを覆い隠すように冷めてしまった紅茶を飲みほした。
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