第8話

 隣からの圧をヒシヒシと感じていた。

褒めてほしい待ちをまつガタイのいい男の視線を…。


だが、ジンクスが正しいのかは別として万が一、エリート達の晴れ舞台を汚す結果になったら、俺たちに明日はない。それは分かる。


何も答えないヒロに不安になったのかカインの肩はみるみる落ちていった。

「お前、BB決勝戦見たいって言ってただろ。でも俺たちみたいな準市民にチケットなんて回ってこねえじゃん。だから…」

大きな背中が丸くなっていく先輩を前に、

なんだ?このピュアな生物は?とヒロはいたたまれなくなる。


「まあ…はい…」

しばし考えた末に無難な回答でやり過ごすことにした。

「よっしゃー!」

ガッツポーズをするカイン。

「先輩、声がでかい。ここにいるのバレたらヤバイから」

いつ掃除したのか分からない鉄の塊は鳥の糞だらけである。

「おう、そうだな」

野太い人差し指でシーっという形をとるカイン。


ホント、能天気な人だ。しかし、先輩には悪いが、それにならう気はない。


 準市民とは国の制度として定められている階級ではない。

主に汚点を持ったスフィル人の関係者が自らを皮肉る時に用いる言葉である。

ヒロもしかり、カインもそれに含まれる。

彼らは決して罪を犯したわけではない。ただ、親類が“特別”だっただけの話だ。


ヒロは試合に集中した。50対43でハルモニア学院がリードしている。


このまま逃げ切れればいいんだがな…。


そう思っていると視界の隅に何かがかすめた。

無意識のうちに身を乗り出した。

スタンド席をのぞき込むと、最上階の通路に見知った顔があった。

「あれ?マミ先輩だ」

ヒロは抑揚のない声を漏らす。

「そうだな。マミだ…。アイツよくチケット取れたな」

彼女もヒロ達と同じ分類である。ここに入るのは難しいはずだ。

しかし、その疑問にすぐ合点がいく。

マミ・シトラスは壁に寄り掛かり、男に媚を売っていた。


「なるほど。パトロンか…」とつぶやくヒロ。


彼女はその美しい容姿を最大限に生かしているようだ。

そう思い、再びグラウンドに視線を戻すも、その時にはカインの姿がなかった。


「お楽しみなんだから邪魔しないほうがいいのにな…」


どうせ、カイン先輩の事だ。同級生が襲われていると思って助けに行ったのだろう。

ヒロは溜息をつき、その後を追う事にした。

断じて面白そうだからではない。そうだ。面倒な事にならないために行くのだ。

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