第7話
「ハルモニア!ハルモニア!」
エース選手たちの連携プレーに観客の興奮は最高潮に達する様子をヒロは眺めていた。切りそろえられた藍色の髪と紫の瞳は下を向いている。
今まさに熱戦を繰り広げる同じ学院の生徒達、グラウンドが最もよく見えるであろう場所で談笑するVIPの連中。その周りを護衛する者達もくっきりと確認できた。
彼らが緊張の面持ちで守るのはミンスルを統治する公爵一族の一人だ。
まだ学生の彼女は今、この場所の中で最も重要人物といえるだろう。
とはいえ、ヒロには遠い世界の人々だ。交わる事はない。
それでもここからはすべてを見渡せる。
「確かにここは特等席だ…」
抑揚のない、蚊の鳴くような声を発すれば、
「だろ?」
と豪快かつ呑気そうな返しがヒロのつぶやきを塗りつぶした。
隣を見れば、しゃがみ込んでいるカイン・サモンフィーがおおざっぱに笑った。
男二人がいるのはスタンド席の約半分以上を覆い隠す屋根の上だ。
「よく思いついたな…」
「俺って天才だろ!」
褒めてくれと全身でアピールしてくるこの男に素直に従っていい物か考えあぐねていた。普通に考えれば、後輩であるヒロが先輩を褒めたたえる場面ではある。
しかし…。
ヒロはカインをまじまじと見た。
背伸びをして横に立った彼の顔はヒロより頭一つ分ほど高い所にある。
筋肉隆々で二の腕は肉を何枚詰め込んだのか想像したくないほど太い。
鍛えているとはいえ細身のヒロと並べば、屈強な男に捕まった子供のようにすら映る。
『いい。アイツを調子づかせちゃダメよ』
ここにはいない別の先輩の言葉が耳をかすめた。
カインという青年は外も中身も脳筋という言葉がよく似合う。
故に単純であり、人の言葉をそのまま理解することが多い。
そしてカインの特徴をあげるとすれば、
『有頂天になるとバカをやる』である。
最近の例をあげれば、下級生の女の子に告白されたと報告しに来た時は掃除中だった。注意散漫だったカインのせいでバケツは蹴られ水浸し、おまけに乙女モードで告白への返事を悩みだしたせいで雑巾は真っ二つに引き裂かれてしまった。
そして頭お花畑になった彼は壁に突っ込み、危うく学院の校舎は崩壊の危機を迎えた。幸いなことに壁には穴が開いただけだ。
今も学院側にバレる事なく過ごせているのは数メートル先にかけられた絵画を穴の上に置くというファインプレイをヒロが提案したからだ。
先輩の恋に関してはその後、二股騒動で幕を閉じたらしい。
これは別の先輩情報である。
そんなわけでなぜか彼を誉めるとトラブルが起きるという謎のジンクスが生まれたとかなんとか…。真偽のほどは謎であったが…。
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