第5話

ソールは自身より遥かにガタイのいい青年と対峙していた。

こういう時、自分の体が随分貧相に関してしまう。

そこらの同年代よりは鍛えていると思う。

筋肉だってついているが、上には上がいるものだ。

どうしたものかと思案を巡らせる中、背後から飛び出したのはフワフワの綿あめだった。それがメル・モンドの髪だと直感する。

その瞬間、相手方の選手の額に水鉄砲が直撃、グラウンドの端まで飛ばされた。

アイツが得意とする水のマギアの神秘術だ。


BBの醍醐味はこのマギアによる攻防戦だ。


 太古よりスフィルに根付く不思議現象。

おとぎ話に登場する魔法によく似た技術を手にしてから何世紀も過ぎた。

かつては限られた人がもつ特別な力だったそれは奇跡鉱物マギアの普及と共に身近な物に変わった。火を出現させ、水を与え、植物を育てる。

さらには傷ついた者を癒す神秘まで見せるマギアはあらゆる場所で活用されている。

スポーツの分野に広く利用されるのも有名な話だ。


ソールは一点を見つめた。

試合が始まって数十分、未だ0対0の膠着状態が続いている。

この辺りで勝負をかけたいところだが、どうにも踏み込めない。


このグラウンドの上空に浮かぶ球体はまだ無傷だ。

マギアの技術で作られた無数のホログラム…。

この際、ポイント数の低い物をチョイスして地道に破壊するのが得策か、それとも最も高い位置に置かれた高点ポイントのホログラムを狙うべきか…。

後者が勝つための一手だろうが、あの高さまで行くにはソール一人では無理だ。


仲間達を見渡せば、皆、相手方に張り付かれている。

ソールは無難な方を選ぼうとした。


「ソール!やれ!」


ハッとして振り返ると風を纏ったベナルが腕組みをして立っていた。

「でも会長!」

思わず弱音を吐いてしまう。


「バカ野郎!お前はあの地獄の特訓を耐え抜いたんだ!臆するな」

ベナルの叱責で我に返る。


全く、部長はどこまでもリーダー気質なんだなと思った。

どうしてそう、ほしい言葉をくれるんだ。


視線をあげれば控えで応援してくれる部の皆が映った。

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