第4話

どこを見ても人、人、人で埋め尽くされていた。

少女のブラウンの瞳は落胆の色を示した。


この中をかぎ分けろというの?


スタジアムの中央は遥か遠い。

しかも、瞳とほぼ同色の髪が突っ張って痛い。

どうやら髪の一部が誰かの荷物に挟まれたらしい。

幸い抜かれることはなく事なきを得た。脳の辺りがジンジンしている。

少女は仕方なく、肩まで伸びたそれをいつも通りポニーテールに結び直した。


やっぱりこっちの方が過ごしやすい。


気合を入れ直したのはいいが、熱気で気分が悪くなりそうだ。


本当に最悪!


待ち人の所にたどりついた時には試合が終わっているかもしれない。

そんな気持ちにさせられる。


まったくスター選手の凱旋試合でもないのにどうしてこんなに熱狂しているのか理解できない。ただ地元の上級学校が決勝にいっただけの話だ!


一番値段が高騰する一階にいるにも関わらず、どっちが勝ってるかもわからない。

思わずため息が出る。


げっ!冗談でしょ。


しかもこういう時に限って不審者に遭遇するのだ。


二つ分の人を挟んだ先にいるツルツルヘアーの男性。

中肉中背、年齢は中年の域に入ったころだろう。

靴はヨレヨレで機能していない。始めは路上生活者か?と思った。

だが、少し近づいても彼ら特有の腐った匂いはしない。無臭だ。

どちらかというと冴えない。そしてどこにでもいるようなおっさんだ。


様々な推測を繰り返している中で男は女性を凝視していた。

まるでターゲットを定めたように…。

ある程度、歳を召しているが綺麗な人だ。

そして、明らかにお金を持っていそうな、この階によくいるタイプのご婦人。

男は彼女の背後にゆっくりとたった。


やっぱりこの男、スリだ!


なんでこういう事に気づいてしまうのか?

やるならもう少しうまくやればいいのに。

ほとんどの人間がスタジアムに釘付けになっている中で目の前の男はまるで別の方を向いていた。獲物となりそうな女性ばかりを…。


確信した瞬間、エリカ・ワガナは男と視線が重なった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る