第1話

「ついにローズメリィ帝国上級高等学校ヴァウンド・ヴィレット対抗選手権の決勝戦が始まります!」


実況が遠くで聞こえる。やっと現実なのだと気づいた。

この瞬間がついに来たのだ。まさか自分がこの場所にたてるとは…。

夢のようだ。


ソール・デヴィロは興奮していた。

16年生きてきた中で一番の幸福を味わっている。

だが、非常に明るいオレンジ色の髪は汗でしっとりと湿っている。

興奮と緊張が入り混じっているようだ。


本番はまだ始まっていない。剣ダコが刻まれた手のひらで頬を叩いた。

よし、準備はできた。


力の入った肩に重みを感じて隣を振り返れば、緊張を滲ませる青年がいた。

「セオ…」

「やっとここまで来たな」


優男風の細身の体系をしたセオドア・アヴィリナは考え深そうに微笑んだ。

周囲に目を配れば、同じような表情を浮かべた仲間達がいた。


「ここですべてが決まる」

ソールよりも頭一つ分低い美少年は前に進み出た。

正規メンバーで3人しかいない同級生の一人だ。

ソールはメル・モンドにうなづいた。


そうさ…。

この場所にたどり着くために12歳からの4年間、血のにじむ努力に費やした。


時間が刻一刻と迫ってくる。

ずっと無言のまま、ロッカーの前に座っていたベナルティー・ガガリは重むろに立ち上がった。それだけでその場にいた選手たちは背筋を今まで以上に伸ばす。

我が校の栄えあるヴァウンド・ヴィレット部の部長にして学生会会長を兼任するベナルティー・ガガリに誰が歯向かえるというのか。

少なくともここに集っている者には無理だ。


常に後輩を引っ張て来た立役者。その体には猛者の風格が備わっている。

威圧感を放ったまま、円陣に加わるベナルの言葉を息をのんで待った。


「勝っても負けてもこの勝負にかけるぞ!」


誰よりも大きく、熱のこもった声があがった。それもそのはずだ。ベナルにとってはこれが最後の戦いになるのだ。


「ハルモニア学院に勝利を!」


ソールは仲間達と共に声を張り上げた!

体の中が沸騰するようだ。


薄暗い控室で青年達は叫び続ける。


自分を――


仲間を――


鼓舞するように!

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