第99話 11年前
「エイジとマリアは……俺が
唇を噛み締めるアレックスを、トライアンフは冷めた顔で眺める。
「アレックス、てめえなあ……いつまで昔のことをグチグチ言ってやがる。あいつらが死んだのは誰のせいでもねえ。強いて言えば俺たち全員のせいだろうが!」
「いや、そうじゃないだろう。リーダーの俺がもっとしっかりしていれば、2人を死なせることもなかった筈だ」
「またその話かよ……何度も言ってるだろう。確かにてめえはリーダーだったけどよ。作戦を立ててたのはケイリヒトとレヴィンだし。みんな状況を考えて動けるから、てめえが指揮を取ってた訳じゃねえだろう。
なのに
プレイヤースキルが高い奴が集まったパーティーなら、細かい指示なんてしなくても阿吽の呼吸で動けるからな。
だけどプレイヤースキルに自信がある奴はどんな状況でも対応できるって思ってるからな。自分のせいで仲間が死んだ。そう思ってしまっても仕方ないだろ。
「トライアンフ……」
トライアンフのやり切れなさもアレックスは解ってるんだろ。トライアンフだって自分の責任を感じていない訳じゃなくて、仲間のことを思って『誰のせいでもない』って言ってるんじゃないかな。
「チッ! 興が冷めちまったな……アレク、悪いが後は勝手に飲み食いしてくれ。ここの払いは全部俺が持つからよ」
トライアンフは帰ってしまったけど、アレックスは止めなかった。
俺たちも2人のことに口を挟むことはできないからな。その日はこれで解散という感じで帰ることにした。
※ ※ ※ ※
「ねえ、アレク。アレックスさんたちのことだけど……」
宿屋に帰るとエリスが声に掛けて来た。
俺たちは結構長くガシュベルに滞在してるけど、気楽だからずっと宿屋暮らしだ。
人数が多いから、宿屋というよりホテルみたいな建物のフロア1つを丸ごと借りてる。
それなりの料金だけど、俺たちはラスボスを狩り捲って金には余裕があるからな。
フロアには共有のフリースペースがあって、テーブルとソファーが置いてある。
俺たちはここをリビングのように使っていた。
「何も知らない私たちが勝手なことを言うのは違うと思うけど。私たちにできることはないかしら」
アレックスもトライアンフも気さくな奴だからな。みんなとも気心が知れた感じになった。エリスは真面目だからな。2人のために何かしたいと思ってるんだろ。
「ああ。俺も何かしたいとは思ってるけど。余計なことをすると却ってこじれそうだからな」
レヴィンもアレックスたちのことなん知ったことじゃいって言ってたけど。仲間内のことだからな。本当はどう思ってるかなんて俺には解らない。
「私はそう思わないわよ。アレク、あんたなら何とかできるんじゃないの」
話を聞いていたレイナが口を挟む。
「アレクの言うことならアレックスやトライアンフも聞くんじゃない。ケイリヒトのときだって、あんたのおかげで丸く収まったんだし」
「いや、レイナ。あのときはケイリヒトの方から絡んできたけど。今回は俺には関係ない話だからな」
「でも私もアレクならどうにかできるって思うよ」
ソフィアまで口を挟んで来るし。まあ、ソフィアもアレックスたちのことが心配なんだろうな。
「アレクは私たちのことだけじゃなくて、アレックスさんたちのことも真剣に考えてるよね。その気持ちは伝わる筈だよ。だから私素直に聞いてくれると思うけどな」
なんか変な期待を感じるんだけど。ソフィアは俺を買い被ってるだろ。
だけどみんなの気持ちも解るし、俺だってできるならアレックスたちの力になりたいと思ってる。レヴィンにはお節介が過ぎるとか言われたけどな。
「そうだな……今度あいつらと話をしてみるよ。だけど仲間が死んだことに関わる話だからな。向こうが話したくないなら、こっちから訊くつもりはないよ」
何も知らない奴に知った風なことを言われるのは頭に来るからな。あくまでも向こうに話す気があるなら、俺にできることをやるだけの話だ。
「ええ。
エリスはそんなことを言うけど。俺のことを良く考えてくれるエリスなら、アレックスたちも信頼すると思うよ。
まあ、今の時点だと俺の方がアレックスたちとの距離が近いのは確かだけどな。
(4人で何か話してるから修羅場になるかって思ってたんすけどね……)
(真面目な話は詰まらないニャ)
(あの4人が急に進展する筈がないわよ。何しろアレクだから)
シーラとメアとライラがチラチラこっちを見てるけど。何を喋ってるんだよ。
※ ※ ※ ※
翌日。トライアンフから『
いつもなら断るけど、今回は状況が違うからな。
場所は昨日と同じ『バッカスの箱庭』で、部屋にいたのはトライアンフ1人だ。
「まあ、何だ……アレク、昨日の詫びだ。とりあえず飲めよ」
俺とトライアンフは無言のままアルコール度の高い酒を3本空ける。
「今日は全然酔えねえな……なあ、アレク。変なことを訊くがよ。おまえは仲間に死なれたことかあるか?」
トライアンフらしいストレートな訊き方だな。
「俺は前世でボッチだったからな。友だちなんていなかったし。こっちの世界に来てからできた仲間はみんな無事だよ」
トライアンフは俺が仲間と『始祖竜の遺跡』に挑んだと思ってるからな。エリスたちに限定すると話がおかしくなるから曖昧な言い方にする。
まあ、エリザベスたち『始祖竜の遺跡』の戦士も自我に目覚めてから1人も死んでないからな。嘘は言ってない。
「そうか……誰も死んでねえってのは何よりだ。さすがはアレクってところだな」
トライアンフはグラスの酒を一気に飲み干す。
「仲間が死ぬのは最悪だけどよ。誰のせいとか言っても始まらねえだろ。だけどアレックスの馬鹿は……ケイリヒトもレヴィンもそうだ。みんな自分のせいだって言いやがって、いまだに自分を責めてやがる」
トライアンフは昨日名前が出たエイジとマリアの2人について語り始めた。
エイジとマリアを含めたトライアンフたち6人はほとんど同じ時期に前世の記憶に目覚めた。
前世では6人全員がコアなゲーマーで。比較的近い場所に転生したこともあって、自然とパーティーを組むようになった。
エイジは前世で14歳で死んだ魔術士系クラス。仲間の中で1番年下だから、みんなから弟のように想われていた。
マリアは前世で15歳で死んだ神官系クラス。アレックスも同じ年齢で死んでるし、性格も似ていたから2人は仲が良かった。
俺はエリスとソフィアが死んだ年齢なんて知らないけど。そんなことまで話してるんだな。ちなみにトライアンフが死んだのは16歳で、ケイリヒトとレヴィンは17歳だそうだ。
6人が自我に目覚めた14年前はエボファンの
ゲームじゃないからリセットもセーブポイントもないし。生きていくだけなら危険を冒してまでレベルを上げる必要はないからな。
そんな中でトライアンフたちだけは違った。パーティーを組んでから3年間でガンガンレベルを上げて『始祖竜の遺跡』に挑めるレベルになった。
『始祖竜の遺跡』の攻略もエボファン廃人のケイリヒトのゲーム知識とプレイヤースキルもあって、順調に進んでいた。9階層までは……
「エイジとマリアも魔術士や神官って言っても1,000レベル超えだからな。普通に物理攻撃もできたし、9階層までは何の問題もなかったんだ」
エボファンはクラスによる装備の制限はないし。スキルポイントが2~3倍になるけど他のクラスのスキルや魔法も習得することができるからな。
1,000レベルにもなればどんなクラスでも簡単に1撃死しない防御力になる。しかも9階層まで攻略済みなら『始祖竜の遺跡』産の装備で固めてるからな。特殊効果耐性もほとんど完璧だっただろ。
「だが10階層は別格だった。俺たちだって解っているつもりだったんだがよ……」
確かに10階層のモンスターはレベルが跳ね上がるし、『
アレックスに聞いた話だとモンスターと戦っているときに、別のモンスターに不意打ちされたんだよな。
「マリアは即死だった。エイジはHP全損だがまだ死んじゃいなかったが……ケイリヒトが『
『
モンスターに襲われてるエイジを転移させたら、一緒にモンスターまで転移させることになるからエイジは救えなかった。それは解るけど……
「今、
「ああ。ケイリヒトが転移させたのは俺たち3人だけだ。あいつは1人で残ってエイジを助けようとしたと思うぜ。
だけど直後にケイリヒトの奴も1人で転移して来たんだよ……あのケイリヒトが泣きながらな。
あいつは何も教えねえから、ここからは俺の勝手な想像だけどよ……エイジの奴がケイリヒトを転移させたんだと思うぜ」
自分が救おうとした相手に逆に救われて、その相手が命を落としたら……
俺には想像することしかできないけど。自分を責めても仕方ないよな。
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