第95話 後始末
抵抗する暇さえ与えずに、残酷な殺し方をしたからな。
だけどみんなは俺を攻めるどころか、アレクは悪くないと優しい言葉を掛けてくれた。
まあ、俺はガーランドも殺したし、他にも沢山殺して来た。今さら速水徹を殺したところで、攻める理由はないか。
「アレク……私は人を殺しても構わないとは思わないわ。だけど貴方は私たちの代わりに殺したんでしょ」
エリスは俺を慰めるようにこんなことを言ったけど。
「みんなの代わりだとか、そんなんじゃないよ。俺はあいつを殺してやりたいと思っただけだ。それに俺は後悔してない。あんな奴を見逃せばまた同じことをやると思うからな」
俺は怒りを覚えるときも自分の中に冷めた部分がある。速水徹を殺したときも、生かしておけばどうなるか考えてから殺した。
ああいう奴は平気で人を裏切るからな。みんなを危険に晒すリスクを考えて、殺すと決めたんだ。
「アレク、貴方が言いたいことは解るわ。だけど貴方がいつもみんなことを考えていることも解ってるから。ねえ、アレク。私は貴方の傍にいるわよ」
エリスは俺の言葉を否定しないで寄り添ってくれる。
エリスの優しさ嬉しいけど、甘える訳にはいかないんだよ。俺はみんなを守るって決めたからな。
速水徹のことは一応解決したけど。他にも変化が起きたダンジョンはあるし、そもそも何でダンジョンに変化が起きたのか解っていない。
翔太に訊いても
俺たちをこの世界に転生させた黒幕の仕業か。それとも元々変化が起きることが予定されていたのか。
情報が少な過ぎて判断できないけど。ゲームと違うことが起きていることは事実だからな。他にも何か起きる可能性を想定しておくべきだな。
※ ※ ※ ※
速水徹を殺したことで『ギャリングの牢獄』に突然トラップが出現する事件は解決したと、ジャスティンに報告した。
ダンジョンマスターなんて存在がいることをジャスティンも知らなかったらしい。
速水徹がいなくなっても『ギャリングの牢獄』は普通に機能している。
俺が空けた穴もダンジョンの自動回復機能で徐々に塞がっていた。完全に塞がる前に誰かが
速水徹を殺してから、翔太は俺のことを恐れるようになった。目の前で惨殺したんだから仕方ないよな。
「僕は……今でも徹が許せないけど。死ねば良いとは思わなかった。だから……ごめんなさい。僕はアレクさんがしたことが正しいとは思えません」
俺だって人を殺すことが正しいとは思わない。殺す必要があると思うから殺すだけだ。
だけどそれを翔太に理解して欲しいとは思わない。考え方が違う奴がいるのは当然で、誰とでも理解し合えるなんて幻想だからな。
それにしても翔太も自分の考えをハッキリと言えるんだな。少し見直したよ。
翔太は『ビステルタの霊廟』のダンジョンマスターを辞めて、外の世界で生きると言った。
翔太が外の世界で1人で生きていくのは厳しいと思ったけど、アレックスが面倒を見るという話になった。
ダンジョンマスターの翔太は
だからレベル1はすでに20だけど、ダンジョンマスターのスキル以外持っていない。
それでもダンジョンマスターのスキルは
いや、本当は
まあ、とにかく翔太はスキルポイントが余っているから、そのスキルポイントを使ってクラスチェンジすることをアレックスに勧められた。
翔太が持ってるダンジョンマスターのスキルは外では役に立たないし。クラスチェンジしなくても他のスキルを習得できるけど、他のクラスのスキルは2~3倍のスキルポイントが必要だからな。
翔太は悩んだ末に
翔太のプレイヤースキルがどれくらいか俺は知らないけど。前世でそれなりにエボファンをプレイしてたみたいだからな。問題ないだろ。
「翔太、貴方は何をグズグズしてるんですか。ヒビりで根性無しの教育係を任された私の身になりなさい」
「キ、キスダルさん。待ってくださいよ」
キスダルのスパルタに翔太が辟易してる。だけどこの2人は意外と良いコンビになるかも知れないな。今はキスダルが飼い主で翔太が犬にしか見えないけどな。
「アレク。おまえにはまた世話になったな。改め『ギャリングの牢獄』の事件を解決してたことに感謝するよ」
アレックスはガスライト帝国の宰相として、帝国市民のためにできることを一生懸命やっている。その中に冒険者も含まれているってことだな。
翔太のことも自分が面倒を見ると直ぐに申し出た。アレックスのところには、そんな風に手を伸ばして救って来た奴らが沢山いるんだよな。
「そう言えば今回の件にケイリヒトは絡まなかったんだな」
「あいつは普段、魔族の領域のダンジョンにソロで潜ってるからな。アレクの件のときは、俺の方から何度も『伝言』を送って招集したんだよ」
ケイリヒトとアレックスはもっと頻繁に会ってると思ってたよ。
「アレックス、こんなところにいたの! もう、私と稽古をするって約束……」
「ああ、レイチェル殿下。紹介しますよ。彼が元魔王のアレク・クロネンワースです。アレク、こちらは皇帝陛下の妹君、レイチェル・ブレックス殿下だ」
俺とのレイチェルは互いに簡単な自己紹介をする。
「アレックス、レイチェルと稽古をする約束なのか。じゃあ、俺はもう帰るよ」
「いいえ、魔王陛下。せっかくお会いしたんですから、御もてなしもせずにお帰ししては皇帝陛下に叱られてしまいます。お茶を用意しますので、ゆっくりしていってください」
「いや、俺は元魔王だから陛下じゃないからな。お茶を入れてくれるなら貰うけど。そうだな。レイチェルの稽古をお茶を飲みながら見物させて貰うよ」
これなら邪魔にならないし、お茶を飲んだら適当に帰れば良いな。
「私は構いませんが……」
レイチェルがチラチラとアレックスの反応を伺う。
「ああ。アレク、悪いがそうさせて貰おう」
皇族専用の修練場でアレックスがレイチェルの相手をする。
俺はその傍らで紅茶を飲みながら、皇族御用達らしいチョコを摘まむ。結構美味いな。店を教えて貰ってソフィアたちに買って帰るか。
レイチェルはレイピア使いらしく、レベルは15だけどそれなりにサマになってる。
だけど練習熱心と言うか……俺でも気づくほどアレックスに向ける視線が熱いんだよ。
「アレクも気づいたようだな。妹のレイチェルは、アレックスに恋する乙女なんだよ」
突然現われたジャスティン。いや、俺は気づいてたけどな。
「ジャスティン、ガスライト帝国の皇帝は暇なのか?」
「ああ。面倒な仕事は全部アレックスに押しつけているからな。そんなことよりアレクに相談したいことがあってな」
公務がそんなことなのか。ジャスティンも大概だな。
「アレックスとケイリヒトの関係は俺も知っているがな。アレックスにはレイチェルの方が似合うと思うんだ」
「そんなことを言って。レイチェルを使ってアレックスを抱き込みたいだけじゃないのか?」
ジャスティンは悪い奴じゃないけど、抜け目がないからな。
アレックスはガスライト帝国の宰相だけど、いつまで続けるかは解らない。ケイリヒトは今も現役の冒険者でアレックスにも冒険者に戻らないかと誘ってるからな。
アレックスは義理堅い奴だけど、仲間思いだからな。あり得ない話じゃない。
「それは心外だな。
「ああ、そうかよ。だけど俺にそんな話をして何が目的なんだ?」
「アレックスはアレク殿のことを信頼してるからな。俺と一緒に外堀を埋めてくれないか」
「あのなあ。
「そうか? 俺はそう思わないが。アレクならモテるだろう」
ああ。ジャスティンも勘違いしてるのか。
「魔王の見た目だからみんな勝手に勘違いするけど。俺がモテる筈がないだろ」
みんなが俺のことを
エリザベスとサターニャには『遺跡の支配者』の強制力が働いてるだけだし。ソフィアが好きなのは俺じゃなくて
ジャスティンは皇帝だから奥さんが沢山いるし。アレックスもケイリヒトにレイチェルか。
別に羨ましいとは思わないけど。俺を面倒事に巻き込むならリア充爆発しろって言いたい気分だな。
ジャスティンが意味深な笑い方をしてるけど。やっぱり何か勘違いしてるな。
勝手に勘違いして俺に恋愛の話を振るなよ。
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