第96話 その後の1ヶ月


 速水徹はやみとおるの件が片づいてから1ヶ月が経った。

 俺たちは『ビステルタの霊廟』のティアマットと『ギャリングの牢獄』のサイデルを倒し捲ってレベリングを続けている。

 ティアマットの方が経験値が高いけど、サイデルもタイプが違うからプレイヤースキルを上げるには有効なんだよ。


 おかげでみんなは全員180レベルを超えた。ラスボス戦は効率が良いし、俺が『魔力貸与MPトランスファー』を使って連戦したんだよ。

 今回も途中から人数を絞ったりチームを分けたりとか色々試した。


 夜には俺も1人で来てラスボスを倒し捲ったことで、2つのダンジョンのDPダンジョンポイントが結構貯まった。だから最終階層の階層レベルを上げてティアマットとサイデルをさらに強化することにしたよ。

 俺はダンジョンマスターのスキルも習得済みだからな。ダンジョンをいじることもできるんだよ。


 ティアマットはさらに首を増やした。今度の首はプラチナドラゴンだ。

 サイデルの方は攻防両方パワーアップして、2体同時に出現するようにした。

 レベルはティアマットが220でサイデルが240だ。

 このままレベリングを続ければ1ヶ月も掛からないで、ゲームだと魔王アレクを倒せる適正レベルの200レベル台に到達するな。


 だけどエボファンの物語メインストーリーに絡むイベントの方は全然進展してないんだよ。

 情報収集は当然続けてるけど、大規模侵攻を防いだせいか魔族軍の動きは大人しい。

 だけどダンジョンに起きた変化について調査したことで、次に何が起きるのか大体予想できたけどな。


 翔太は習得レベルに達していなかったら、存在自体を知らなかったけど。ダンジョンマスターは400レベルになると『真のトゥルー迷宮の支配者・ダンジョンマスター』ってスキルを習得することができるんだよ。


 『真の迷宮の支配者』はダンジョンの全モンスターを支配して、自分の現身うつしみを創り出すことでダンジョンの外に引き連れて行くことができるスキルだ。

 支配したモンスターはバフで強化されるし、魔族がモンスターを支配するのとは違って細かい指示をすることができる。

 だからモンスターを軍隊のように使って国や街を攻めることも可能なんだよ。


 変化が起きたダンジョンの中に、すでに400レベルを超えたダンジョンマスターがいると俺は確信してる。

 そいつがいるのは魔族の領域にある『闇の魔神の大迷宮』。『始祖竜の遺跡』の次に難易度が高いダンジョンだ。まあ、『始祖竜の遺跡』は別格だから全然レベルが違うけどな。


 『闇の魔神の大迷宮』で起きてる変化は『ビステルタの霊廟』や『ギャリングの牢獄』の比じゃない。全ての階層が強化されて新しい階層まで追加された。

 それだけDPが貯まっていたってことだけど。


 原因は普通に攻略が可能なダンジョンとしては最難関だから、昔から上位の魔族が挑んでいたことが1つ。

 もう1つは10年以上前からケイリヒトがレベルを上げるために『闇の魔神の大迷宮』のラスボスを狩り捲ってるからだ。


 『管理画面コントロールパネル』に『実装』アイコンが出現したことで、『闇の魔神の大迷宮』のダンジョンマスターは『真の迷宮の支配者』のスキルを行使できるようになった筈だ。

 『闇の魔神の大迷宮』の全モンスターを支配すれば、その戦力は魔族軍全軍すら凌駕するだろうな。


 だけど『闇の魔神の大迷宮』のダンジョンマスターがまだ行動を起こさないのは、今もダンジョンに潜ってるケイリヒトを警戒してるからだろうな。

 1,000レベル超えのケイリヒトが相手だと『闇の魔神の大迷宮』のモンスターの軍勢も殲滅されるから。


 俺はこのことをまだ誰にも話していない。ケイリヒトがいるから『闇の魔神の大迷宮』のラスボスの部屋に穴を開けて実際に確かめた訳じゃないからな。

 ダンジョンマスターは『管理画面コントロールパネル』で互いにコミュニケーションが取れるから。『闇の魔神の大迷宮』のダンジョンマスターの話を聞こうと試したけど反応はなかった。


 『闇の魔神の大迷宮』の変化から俺の予想は間違ってないだろうけど。諜報部隊に監視させてるし、動き出してからでも止められるからな。今は静観してても問題ないだろ。

 それよりも俺が気になるのは、誰が何の目的でダンジョンに変化を起こしたかってことだな。


 大規模侵攻に失敗した魔族軍の戦力を増強するためだという仮説は立てられる。

 だけどそうだとしても、戦力を補強する理由は魔族軍を勝たせるためか。それともエボファンの物語メインストーリーを進めるためなのか。

 結局情報が少な過ぎるからな。肝心なことは何も解らないんだよ。


「ねえ、アレク。私も相当強くなった思うけど、あんたに勝てる気が全然しないわ。アレクは一体何レベルなのよ?」


 新しい武器を試すためにした模擬戦の後。レイナが不満げに言った。

 みんなのレベルが上がったからな。装備を一新したんだよ。

 キャラレベルによって装備制限があるから、『始祖竜の遺跡』産の装備の中ではそれなり・・・・ってレベルだけど。


 レベルが200を超えれば大抵のアイテムが装備できるようになる。だからそういう意味でも、みんなを200レベル超にすることが当面の目標だな。


「俺のレベルなんてどうでも良いだろ。それよりラスボスをさらに強くしたからな。これまでと同じ感覚で戦うなよ」


「それくらい解ってるわよ。アレクのおかげで、私だってそれなりに場数を踏んでるんだからね」


 レベルが上がるほど力の差を実感するからな。レイナは別に詮索するとかじゃなくて、普通に俺のレベルを知りたいんだろ。

 だけど前にも言ったけど、余計なこと知るとみんなのリスクになる。

 情報は何処から漏れるか解らないし。俺を利用するためにみんなが人質にされる可能性があるからな。


 ケイリヒトの件で俺のレベルが2,000を超えていることはみんなにバレてる。だけど俺の本当のレベルは桁が違うからな。知らない方が良いだろ。

 人質として狙われたときの対策としても、みんなのレベルを上げておきたいんだよな。

 だけどさ、それは置いておいて……


※ ※ ※ ※


「凄い……ねえ、アレク。こっちの世界の海って、本当に綺麗だね!」


 白いのビキニ姿のソフィアが言う。

 絵に描いたような眩しい太陽と白い砂浜。今俺たちは常夏の島カクテルに来ている。


 ゲームのときはサービスカット用とか言わたイベントで使った島だけど。俺はみんなの水着が見るために連れてきた訳じゃないからな。

 俺としてはレベリングをしてるだけで楽しいけど。みんなも同じとは思わない。だから息抜きも必要だって思ったんだよ。


「アレク、この服って……見た目からして全然防御力がないわよね」


 レイナは生まれて初めて水着を着たんだろうな。スポーティータイプなのに恥ずかしそうだ。

 ちなみに正確に言えば水着じゃなくて水着型の鎧だ。カクテルの鎧屋で普通に売ってる。


「レイナ。泳ぐための服だから防御力が低いのは仕方ないわよ。ねえ、アレク……私の水着、おかしくないかしら……」


 エリスの水着は布面積が多いセパレートタイプだ。ピンクと水色のツートーンで、エリスの髪と瞳の色と同じだ。


「ああ、エリス。似合ってるよ」


 エリスが真っ赤になるけど。本当に似合ってるし、俺は他に何て言えば良いんだよ。

 ガルドとグランは海なんか関係なしに飲んでるし。

 カイはパラソルの下で汗を掻きながら本を読んでる。

 俺もそっちに参加しようかな。


「アレクがよこしまな考えで連れて来たと思ったんだけどニャ。全然そういう感じゃないから詰まんないニャ」


「そうっすね。ソフィアがはしゃいでるのに放置プレイっすか」


「ホント、アレクはヘタレよね」


 ライラたちが呆れた顔で見てるけど。俺は何か悪いことをしたのか?

 息抜きのためならテーマパークが良いと思ったけど。リアルエボファンの世界にはさすがにないからな。

 あとは海とかベタなことしか思いつかないんだよ。俺は前世でボッチのインドア派だったからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る