第94話 殺意
『
セリカが殺されそうになったことも伝えたから、アレックスも仕方ないと納得してくれた。
『これから俺たちは
『ギャリングの牢獄』を完全攻略したアレックスがいた方が便利だし、今回の件はジャスティンの依頼だから一応声を掛けたけど。俺たちだけでも問題ない。
『おい、ちょっと待ってくれ。今から『ギャリングの牢獄』に行くのか……解った。ダンジョンの入口で待ち合わせしよう』
仲間が大切なのはアレックスも同じだからな。俺の気持ちを察したようだな。
俺たちが『ギャリングの牢獄』の前に転移すると、直ぐにアレックスとキスダルも転移で現れた。
「その少年が……ダンジョンマスターなのか?」
翔太を見てアレックスが驚いてる。まあ、日本人の中学生にしか見えないからな。
「その……あ、
「フン! 何をオドオド喋ってるんです? ヒビりなんですか? 小心者ですか? 男のくせに根性ないんですね」
キスダルのマシンガン口撃に翔太は目を反らして俯く。
「おい、キスダル。いきなり何を言うんだ。彼に失礼だろう」
「『
「だからその名前で呼ぶなと何度言ったら……」
2人のいつものやり取り。それが翔太のツボに嵌ったらしい。
「し、『深淵の支配者』閣下って……完全に中二病じゃないか……」
笑いが堪えきれない翔太を、キスダルが睨みつける。
「貴方、何を笑ってるんです? 失礼な奴ですね」
「ご、ごめんなさい………そんなつもりじゃ……」
「キスダル、仕方ないだろう。『深淵の支配者』閣下なんて呼んだら普通は笑うよな。これは俺の黒歴史だ。だからもう2度とその名前で呼ぶなよ」
アレックスは大人の態度で、自虐ネタに耐えながら翔太を庇った。やっぱりアレックスは良い奴だよな。
「おまえたちも遊んでないでさっさと行くぞ。アレックス、転移ポイントで最下層までショットカットしてくれ」
徹って奴の居場所に見当はついているからな。向こうから仕掛けて来るのを待つ必要はない。
「ここのダンジョンマスターは性格が悪くて、トラップやモンスターをガンガン仕掛けて来るからな。みんなもトラップを回避するために『
スペルキャスター以外が『飛行魔法』を習得するには余分にスキルポイントが掛かるけど。空から攻撃して来るモンスターや不測の事態に備えて俺たちは全員を習得済みだ。
移動するだけなら俺のレベルMAXの『飛行魔法』があれば十分だけど。戦闘や不測の事態のときは自分で動けないと不味いからな。
翔太は勝手に動かれると面倒だから、俺の『飛行魔法』で一緒に連れて行く。
この人数で行けば警戒されるのは仕方ないし、奴には逃げ場もないから今回は例の仮面は付けない。
転移ポイントに移動する間も、最下層の転移ポイントからラスボスの部屋へ行く間も、案の定トラップやモンスターがバンバン出現した。
『飛行魔法』対策として『
「なんか物凄く性格がねじ曲がった奴ね。絶対にぶん殴ってやるわ」
レイナが指の骨をボキボキと鳴らす。
「こんな舐めたことをして、絶対に脳味噌が膿んでますね。私が頭蓋骨に穴を開けて、汚い中身をぶちまけてあげます」
なんか変なことでキスダルと意気投合してるんだけど。こいつら仲が悪いんだよな。
トラップを回避しながら出現したモンスターを瞬殺して。俺たちはラスボスの部屋の前に辿り着いた。
両開きの扉を開けると、出現したラスボスは鎌のような無数の足を持つ巨大なムガデのような骸骨。サイデルは見た目に反してアンデッドじゃなく悪魔系モンスターだ。
ゲームのときは200レベルだったけど、サイデルも220レベルに強化されているな。
ティアマットよりレベルが高いけど、向こうは首の本数分のHPがあるし6体同時に相手にするようなものだからな。総合力で言えばティアマットの方が上だ。
「みんな、トラップに注意して。解除はライラとシーラに任せるわ!」
サイデルの相手はみんなに任せる。せっかく『ギャリングの牢獄』に来たんだから、ラスボスを倒すくらいの役得がないとな。
みんなのレベルはさらに上がってるからな。次々と出現するトラップを回避しながらでも10分くらいでサイデルを倒した。
「みんな、巻き込まれないように下がってくれよ」
みんなは俺の意図を察して部屋の外に退避する。だけどアレックスは『ビステルタの霊廟』で俺がやったことを見てないからな。
「アレク、何をするつもりだ?」
「床に穴を開けるんだよ。アレックスも邪魔だからこっちに来るなよ」
「穴って、アレクは何を言って……」
キスダルは本能で危険を察知したのか部屋の外に逃げる。アレックスもその位置なら問題ないか。
まだトラップが出現してるけどガン無視して、全力で床を殴りつける。
轟音とともに床が陥没して大穴が開いた。今回も床の下には闇に包まれた空間が広がっている。
『
「アレク、ダンジョンを壊す気か?」
「こうしないとダンジョンマスターのところに行けないんだよ。『索敵』で奴の居場所が解ったらさっさと行くぞ」
闇の中でみんなが迷わないように、今度は俺の『飛行魔法』で全員を連れて行く。
翔太を見つけたときと同じように闇の空間が突然途切れて、四方の壁にダンジョンの中を光景を映し出す
そこにいたのは坊主頭で眼鏡の高校生くらいの男だ。服装も翔太と違って派手なジャージだけど、こいつも日本人にしか見えないな。
「ま、魔王アレクにメインキャラ……翔太まで! どうしてここにいるんだよ?」
「ラスボスの部屋の床に穴を開けたのは、おまえも見ていただろ。物理的に破壊すれば管理室に入れるんだよ。まあ、そんなことより……おまえがセリカを殺そうとしたんだよな」
反応する前に一瞬で距離を詰めて速水徹の襟首を掴む。
「何だよ、今の動き……魔王アレクは化物なのか?」
「そんなことどうでも良いだろ。セリカを殺そうとしたおまえを俺が許す筈がないだろ」
殺さない程度に殺意を向ける。徹は恐怖心から必死に逃げ出そうとするけど、ステータスに差があり過ぎるから無駄なんだよ。
「おい。黙ってないで何とか言えよ」
「ち、違うんだ! 俺はちょっと邪魔しようと言っただけで……翔太の奴が調子に乗って勝手にやったんだよ」
ああ……こいつは屑だな。
「徹、そんな……君がやろうって誘ったんじゃないか……」
「ふざけんな、翔太! やったのはおまえだろ、俺のせいにするなよ! 俺は悪くない、全部翔太がやったんだ!」
「おまえさ……もう黙れよ」
殺意を抑えるのが難しいな。気を抜くとこいつを殺しそうになる。
徹も空気を察して翔太に罪を擦りつけるのを諦めたようだ。
「な、なあ、魔王アレク……あんたも転生者なんだろう。俺と手を組まないか? 俺はダンジョンマスターだから、魔王のあんたと俺が組めば無敵……い、いや、あんたの部下にしてくれよ! 絶対に役に立つからさ!」
戯言を聞くつもりはない。このとき、俺は冷徹な決断をした。
「なあ、みんな……先に謝っておくよ。ごめん」
「あ、あんたは何を言って……ちょ、ちょっと待――」
俺は速水徹を床に叩きつけて殺した。
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