第91話 ギャリングの牢獄


 ジャスティンから依頼を受けて、ガスバル帝国のダンジョンを調査することになった。

 だけど俺としては夜のうちに調査して、昼間はみんなと『ビステルタの霊廟』に潜るつもりだったんだよ。


「アレク。是非俺も一緒に連れて行ってくれ。俺もガスライト帝国のダンジョンには散々潜ったからな」


 アレックスがこんなことを言うからさ。結局キスダルまで一緒に行くことになった。他の奴を連れていくなら、さすがに夜に潜る訳にも行かないだろ。


『エリス、悪いけどさ。あと何日かガスライト帝国に残ることになりそうだから。そっちのことはエリスに任せても良いか?』


『ええ、構わないわよ。だけど私だけに『伝言メッセージ』を送るとレイナとソフィアが気を悪くするから。2人にもアレクから伝えておいてね』


 ケイリヒトの件以来、レイナとソフィアは前よりもグイグイ来るようになったからな。

 こういうことにも気がつくエリスはやっぱり良いリーダーだよな。


 2人にも『伝言』を送ってからダンジョンに向かう。『転移魔法テレポート』を使ったから移動は一瞬だった。


 ガスライト帝国にはダンジョンが幾つかあるけど、今問題が起きてるのは『ギャリングの牢獄』だ。


 太古の魔獣を閉じ込めた場所という設定のダンジョンで、ガスライト帝国では最大の規模と難易度。全90階層と『ビステルタの霊廟』に次ぐレベルだな。


「一緒にパーティーを組むからって、馴れ馴れしくしないで貰えますか。何か勘違いしているみたいですが、貴方なんか全然怖くないですから。

 私は『深淵の支配者アビスルーラー』閣下以外に従うもりはないので。私に命令するなんて、脳味噌膿んでます?」


 今日のキスダルは強気だ。だけどアレックスの後ろに隠れながら言っても全然説得力がないからな。


「おい、キスダル。その呼び方もアレクに喧嘩を売るのも止めろ」


「『深淵の支配者』閣下は何を言ってるんですか。私にとって『深淵の支配者』閣下は『深淵の支配者』閣下以外の何者でもありませんし。私が『深淵の支配者』閣下以外の者に従う筈がありませんよ」


「おい……頼むから連呼しないでくれ」


 アレックスが自爆してる。まあ、放っておくと話が進まないからな。


「別に俺に従う必要はないよ。キスダルは勝手に動いてくれ。アレックスも俺のことは気にしないで良いからな。だけど『偽装の指輪フェイクリング』を使うことが条件だからな」


 俺は収納庫ストレージからレベルとステータスを設定済みの『偽装の指輪』を3個取り出す。

 『ギャリングの牢獄』で起きていることが人為的なものかまだ解らないけど。もし誰かが介入しているとしたら、レベルが高過ぎると警戒されるからな。

 まあ、『偽装の指輪』なんて通用しない相手かも知れないけどな。


「あとはこれも付けておいた方が良いな。特にアレックスは『ギャリング牢獄』を散々攻略したんだから、顔バレしてる可能性があるだろ」


 次に俺が取り出したのは例の顔の上半分を覆う仮面だ。予備があるからアレックスの分も用意した。


「アレク……おまえもそういう・・・・趣味なんだな」


 アレックスが遠い目をする。いや、俺は中二病じゃないからな。


「なあ、アレックス。俺をおまえと一緒にするなよ」


「ああ、そうだな。俺も経験したから気持ちは解るよ」


 いや、全然解ってないだろ。


「だけどキスダルの分はなくて良いのか? こいつも結構有名なNPCだから顔バレしている可能性はあるだろう」


 殺人人形マーダードールのキスダルはゲームでは人気のがあったからな。転生者が介入しているとしたら、ダンジョンにキスダルがいる時点で不審に思う可能性がある。


「それは俺も考えたけどさ。キスダルは絶対に嫌がるだろ」


 下手に強制して悪目立ちしたら意味がないからな。


「な、何を言ってるんですか? 『深淵の支配者』閣下が訳の解らないことをいつものことですけど。必要なら仕方ないですから、我慢して付けてあげますよ!」


 え……もしかしてキスダルも中二病なのか? まあ、素直に仮面を付けるなら詮索しないけどな。


 ダンジョンに入るとアレックスとキスダルが先行して、俺が後をついていく形になった。

 今回はダンジョンを攻略することが目的じゃないから、転移ポイントを使ってサクサク進む。


 転位ポイントが使えるのは『ギャリングの牢獄』を攻略したアレックスのお陰だ。まあ、俺1人なら一気に完全攻略するけどな。


 俺たちが最初に向かったのは、1番多く死者が1番出てる40階層だ。

 まずは冒険者の証言通りにトラップが突然出現するか。それを確かめるために『罠探知トラップサーチ』を発動した。


 俺のレベルMAXの『罠探知』は『ギャリング牢獄』の階層全体を余裕でカバーできるからな。これで40階層のどこにトラップが出現しても直ぐに解る。


 アレックスとキスダルがモンスターを殲滅しながら40階層を進む。

 他の冒険者をほとんど見掛けないのは、噂が広まって警戒してるからだろ。

 まあ、俺としては好都合だ。何が起きても他の冒険者を巻き込む心配がないからな。


 40階層の探索を始めてから20分くらい経った頃だ。トラップが突然出現した――モンスターを倒すために前進したキスダルの足元に。


「おい、キスダル」


 キスダルがトラップを踏む前に、抱き抱えて止める。

 俺のステータスなら、これくらいの動きはできる。なんかお姫様抱っこみたいな格好になったけどな。


「え……何をするんですか!」


「いや、俺が止めなかったら。おまえはトラップ踏んでたからな」


 キスダルの足元で光るテレポートトラップ。だけどこれで予想が確信に変わった。


 『ギャリングの牢獄』に突然トラップが出現するにしても。この1週間で死んだ100人以上の冒険者がトラップが出現した場所に偶然・・居合わせる確率って、どれくらいだよって思ってたんだ。

 そんな偶然が頻発するなら、相当な数のトラップが出現している筈だろ。


 だけど俺が『罠探知』を発動してから40階層に出現したトラップは、キスダルが踏みそうになったモノだけだ。

 まあ、出現の仕方からして、偶然とは思えないけどな。


「そんなことはどうでも良いですから! トラップを回避したんですから、さっさと放して下さい!」


「ああ、そうだったな。キスダル、悪かったよ」


 俺が降ろすとキスダルは一目散に走って行って、アレックスの背中に隠れた。


「ホ、ホント、脳味噌膿んでます? まったく何を考えてるんですか!」


 だけど何故かキスダルの顔が赤いのは、怒ってるからだよな。



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