第89話 ダンジョンマスター ※? ? ?視点※
※綾辻翔太視点※
僕、
別に転生したいなんて思わなかったけど。好きだったゲームの世界だから少しは期待したんだ。
だけど僕の期待は直ぐに裏切られた。
しかも階層ごとに配置できるモンスターのレベルに上限があるし、配置できる場所にも数にも制限がある。
少ない選択肢の中から自分の趣味でモンスターを選べるだけ。これってダンジョンマスターじゃなくて、唯の雑用係じゃないかな。
ゲームのエボファンにダンジョンマスターなんていなかった筈だし。モンスターをリポップさせるだけならプログラムで十分だろう。僕って要らなくないか?
やる気のない僕は
ダンジョンマスターの僕はダンジョンの外に出れないからね。
DPで食べ物や生活に必要なモノは作れるから困らないけど。これって引き籠もりだよね。転生してまで引き籠もるとは思ってなかったよ。
冒険者たちの会話から、この世界でもゲームと同じようにエボファンの
ダンジョンマスターにとって冒険者が唯一の情報源だからね。
だけどゲームと同じようにイベントが展開している訳じゃないみたいだな。外に出られない僕には関係ないけど。
そんな僕にとって唯一の救いは、テストプレイ用のダンジョンの存在だった。
亜空間にある『ビステルタの霊廟』のコピーは、本物と違って僕が自由に構造を変えたり、制限なしでモンスターを配置できる。
所詮はコピーで冒険者はいないけど、僕の想い通りになるダンジョンだから。正にダンジョンマスターって気分だった。
だけど結局本物じゃなくて、偽物の閉ざされた世界でしかないんだ。それくらい僕も解ってるよ。
どうして本物の『ビステルタの霊廟』も僕の自由にさせてくれないんだ……前世と同じように引き籠もるだけの僕は、ダンジョンマスターに転生させた誰かを恨んだ。
だけど1週間前に変化が起きた。
管理画面に突然『実装』と書かれたアイコンが出現したんだ。試しにアイコンをクリックしてみると。
『『ビステルタの霊廟』に適用するテストプレイ用ダンジョンの範囲を指定してください』
そんなメッセージとともに、コピーのダンジョンの立体図が表示された。
別に何かを期待した訳じゃないけど。適当に範囲を指定してみた。
『指定した範囲を『ビステルタの霊廟』に適用しますか? YES/NO』
YESを選択した瞬間的。本物の『ビステルタの霊廟』の指定した部分が、コピーのダンジョンと同じ形に変化した。
管理画面で確認すると、出現するモンスターやトラップもコピーのダンジョンと同じだった。
つまり僕が望んでいたように、本物の『ビステルタの霊廟』を自由に
だけど弄れるようになって初めて気づいた。
モンスターを強くしたところで、結局ダンジョンマスターの僕は唯見ているだけだ。
凶悪なトラップを配置したり、大量のモンスターを配置して冒険者を殺すこともできるけど。そんなことを僕は望んでいない。
僕はダンジョンの外に出て、リアルエボファンの世界を楽しみたいんだ……
不意に管理画面にポップウインドが表示される。
他のダンジョンマスターからの着信だ。
僕たちダンジョンマスターは外に出れない代わりに、管理画面を使ってダンジョンマスター同士で話をすることができる。
「よう、翔太。おまえも冒険者を殺し撒ってるか?」
坊主頭で眼鏡のこいつは、僕と同じようにダンジョンマスターに転生した
転生する前のような姿をしてるけど、これが前世の徹の姿なのかは解らない。ダンジョンマスターは自分の姿もエディットできるからね。
「徹、何を言ってるんだよ。僕はそんなこと興味ないよ」
「嘘つけ。翔太、格好つけるなよ。これまで俺たちは強制的に引き籠もりにされてたんだぜ。
せっかく力を手に入れたんだ。溜まった鬱憤を冒険者を殺して晴らしたいって、おまえだって思ってる筈だ」
「いや、僕はそんなこと……」
全然思っていないと言えば嘘になる。
この世界にはプレイヤーキャラに転生した人もいるし。なんで僕だけがって思ったこともある。
だけど人を殺すなんて僕には……
「ふん! まあ、良いや。そんなことより、今おまえのダンジョンにメインキャラたちが潜ってるって話だよな?」
「ああ、そうだけど。この時期に100レベルを超えているし、たぶんメインキャラの誰かが転生者だと思うよ。
あとは魔王アレクに転生した奴が一緒にいて、そいつがヤバイかな。管理画面にレベルもステータスも表示されなかったけど、ソロでティアマットを殺し撒くってたからね」
ダンジョンの中にいる冒険者は、管理画面にレベルとステータスが表示される。
だけど表示できるモノには制限があるみたいで、アレクに転生した奴は名前も表示されなかった。
「マジかよ……魔王アレクに転生して無双とかマジでヤバイな。
だけどよ俺たちみたいに引き籠もりのダンマスに転生した奴がいるってのに。魔王に転生してレイナやエリスでハーレム作ってウハウハとか、ふざけるんじゃねえよな!
俺だったらダンジョンを強化し撒くって、絶対に邪魔してやるよ!」
「いや、そんなこと言っても僕たちはどうせ見てるだけだし。ハーレムとかそういうの僕は興味がないから」
羨ましくない訳じゃない。だけど仕方ないじゃないか。僕は外に出ることもできないんだから。
「それにアレクとメインキャラたちがティアマットを倒し捲ったお陰でDPが結構な貯まったけど。これ以上階層レベルを上げるには全然足りないからね」
ダンジョンは階層ごとにレベルがあって、さらに強いモンスターを配置するには、膨大なDPを使って階層レベルを上げる必要がある。
DPを増やす方法は幾つかあるけど、冒険者にモンスターを倒して貰うのが手っ取り早い。
冒険者がモンスターを倒すとモンスターを配置するときに使ったDPが何故か2倍になって返って来るから。
これまでの蓄積と魔王アレクがティアマットを殺し撒くってくれた分で、最下層のレベルを上げてモンスターを強化することができたけど。
さらにレベルを上げるにはDPがまだ全然足りない。
「いや、モンスターを強化しなくたって。邪魔する方法なら他に幾らでもあるだろう」
「え? 他の方法って……」
「翔太、おまえももっと頭を使えよ。例えばな……」
徹が言ったことは確かに可能だけど。でもそんなことをしたら……
「翔太、そんな大袈裟なことじゃねえって。ちょっと邪魔するだけだ。おまえだって少しはアレクに頭にきてるんだろう」
まあ、せっかく強くしたティアマットをアッサリ倒されたから。なんだこいつらって思ったけど……
「どうせレベルが高いんだから、死にはしねえって。ちょっと邪魔するだけだからよ」
このとき僕は徹がズルそうな笑みを浮かべていたことの意味を良く考えなかった。
「やり方は全部教えるから。おまえは言う通りにすれば良いんだよ」
「……ああ、そうだね。それくらいなら……」
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