第88話 変化


 エリザベスとサターニャの埋め合わせの件は……俺としては頑張ったよ。

 あれから色々と言えないこともあったけど。過剰な要求は断固として拒否したからな。

 おかげで精神的には滅茶苦茶疲れたけど。

 あとはガレイと会ったときのことをエリスに話したら呆れられた。


 翌日から俺たちは再び『ビステルタの霊廟』に潜ることにした。目的はラスボスのティアマットを狩り捲ることだ。

 一度倒したモンスターだから攻略方法は解っているし、現状では一番経験値が稼げる。それにラスボスだから直ぐにリポップするからな。


 余裕ができたら人数を減らしたり、チームに分けたりと色々試す。そうすればプレイヤースキルも上がるからな。

 なんてことを考えてたんだけど……違和感と言うか明らかな変化があった。

 ティアマットの首の数が増えていたんだよ。


 これまで5本だった首が6本に。しかも増えたの上位種のゴールドドラゴンの首で、レベルも180レベルから200レベルにアップしている。

 こんなことはゲームでもなかった。


「みんな、ティアマットが強くなってるけど。決して倒せない相手じゃないからな」


 みんなのレベルも上がっているし、『始祖竜の遺跡』産のアイテムでレベルの底上げもしてるんだ。

 いつも通りの戦い方をすれば十分勝てる。


「アレク、解ってるわよ!」


「アレク、私も頑張るからね」


「みんな、スキルと魔法を発動するタイミングは前回と同じで問題ないわ。攻撃回数が増えることだけ頭に入れて!」


 エリスの的確な指示で、みんなは200レベルのティアマットを無事に倒した。

 リポップさせるときはまたレベルが上がる可能性を考えて、俺もいつでも参戦できるように待機してた。

 だけど次からは同じ200レベルのティアマットが出現するだけだった。


 とりあえずみんなに倒せる相手だし、敵のレベルが上がれば経験値も上がるからな。

 俺たちはラスボス戦を継続して、ティアマットを倒し捲った。


※ ※ ※ ※


 夜になると俺は1人で『ビステルタの霊廟』に戻った。目的はダンジョンに他にも変化がないか確認するためだ。結果としては、結構色々なところが変化していた。


 まずはダンジョンの構造そのものが変わってる。

 新しい通路と玄室が増えて、階層が外側に広がってた。新しいトラップも配置されてるな。

 あとは出現するモンスターの種類が増えているし、数も増えていた。総じて難易度が上がる方向に修正さた感じだな。


 ダンジョンの難易度が上がると、初心者の冒険者は困るだろう。だけどそれ以外の冒険者にとっては悪いことばかりじゃない。

 獲得できる経験値が増えるし、ドロップするアイテムのレベルも上がるからな。


 だけど俺は別の意味で違和感を感じるんだよ。難易度が上がったことでダンジョンの洗練さが失われたと言うか。ゲームバランスが崩れた感じだな。


 エボファンのダンジョンは絶妙なゲームバランスで作られていた。『始祖竜の遺跡』は例外だと言われるけど、あれも廃人仕様のバランスと考えれば悪くないんだよ。


 だけど今の『ビステルタの霊廟』はそんな感じじゃない。何と言うか……ダンジョンの構造やモンスターの配置に素人臭さを感じるんだよ。

 いや、俺も偉そうなことを言うつもりはないけど。これが素直な感想だ。


 その日のうちに他のダンジョンにも行ってみたけど、同じように変化しているダンジョンが幾つかあった。

 冒険者ギルドにティアマットの件はすでに報告済みだけど。夜に解ったことも報告して、冒険者たちに注意勧告して貰うことにする。


 勿論、俺が短期間で調べたことがバレると面倒なことになるからな。諜報部隊を使って上手く情報を流したよ。

 変化のあったダンジョンは全てピックアップしたけど、細かい調査は他の冒険者に任せれば良いか。

 諜報部隊に監視させて、時間があるときは俺も調べるけどな。


※ ※ ※ ※


 さらに1週間が経って、みんなのレベリングは順調に進んでいた。

 ダンジョンの変化についても冒険者たちに知れ渡って、他の冒険者たちも慎重に行動してるようだ。

 冒険者ギルドとしては冒険者が売るアイテムのレベルが上がって、ダンジョンの新しいマップを売ることもできるから美味しいよな。


 今日、俺は別件があるからみんなとは別行動だ。

 みんなには念のために諜報部隊を『認識阻害アンチパーセプション』状態で同行させる。


「君が元魔王のアレク・クロネンワースか。俺がガスライト帝国皇帝ジャスティン・ブレックスだ」


 金属製の建物が立ち並ぶ帝都ガスパーラ。その中心にある鋼鉄の宮殿ガリアレス。

 俺は何故か謁見の間ではなく皇帝の私室に通されて、ジャスティン・ブレックスに会っている。

 ことの発端は、この前のトライアンフたちとの宴会の席だ。


「俺がアレクたちと友好関係を結ぼうと決意したのは、実は親友の助言があったからなんだ。そいつも良い奴だから、アレクに紹介したいんだ」


 アレックスに言われて俺は確かに承諾したよ。それに相手が誰か訊かなかったけど……相手が皇帝なら普通は言うだろ。


「おい、アレックス。俺は敬語なんて使うつもりはないからな」


 隣にいるアレックスを睨む。皇帝だからって俺には関係ないからな。


「ああ、構わない。公式の場じゃないんだからな。気楽にジャスティンと呼んでくれ」


 応えたのアレックスじゃなくてジャスティン本人だ。全然偉そうな感じじゃなくて、気さくな笑みを浮かべてる。


「解った。アレク・クロネンワースだ。ジャスティン、よろしくな」


 言われた通りに普通に話しても、ジャスティンは嫌な顔一つしなかった。

 確かにアレックスが言ったように良い奴かもな。


「それにしても元魔王の俺を、いきなり私室に入れるとか。無防備過ぎるだろ」


 常時発動している『索敵サーチ』と『千里眼クレアボヤンス』で、城内の兵士の位置は確認済みだ。特に俺を警戒してる様子はない。


「アレックスは俺の親友だからな。アレックスの恩人のアレクは、俺にとっても恩人だ。恩人のことを疑ったりはしないだろう」


 どこかで聞いたような理屈だけど、全然信憑性がないだろ。俺はアレックスを裏切るつもりはないけど、ジャスティンは関係ないからな。


「俺は元だけど魔王だからな。もっと疑えよ」


「悪意がある奴なら、そんなことは言わないだろう」


 うーん。さすがはアレックスの親友ってところか。

 ジャスティンの肝が据わってるのは確かだな。


「それで。あんたは俺に何の用があるんだよ」


 俺に興味があるからとか、まさかそんな馬鹿なことは言わないよな。


「大した理由じゃないと言うと、アレクに失礼かもしれないが。俺はアレックスの恩人のアレクに会いたかったんだ」


 おい、マジか……いや、別に良いんだけどさ。

 ゲームのときもジャスティンには会ったことはないし。特に警戒する相手じゃないから、情報収集は諜報部隊に任せてたけど。

 ガスライト帝国の皇帝が、こんな奴だとは思わなかったよ。

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