第87話 埋め合わせ
レヴィンのことはリスクを考えてみんなにも伝えておいた。まだどんな奴か良く解らないからな。
だけど細かいことまで言うとケイリヒトの悪口とか微妙な内容だから。俺たちを監視していたことだけに留めておく。
次の日はエリザベスとサターニャに埋め合わせをするためだとみんなに言って、1日休みを貰った。
みんなにジト目で見られたけど、早めに対処しないと面倒なことになるからな。
「えー……サターニャと一緒なんて聞いてませんよ。僕はアレク様と2人きりが良かったのに」
「アレク様、エリザベスは放置して私だけ御一緒させて頂きたいんですが……駄目でしょうか?」
3人で出掛けようと言ったら、エリザベスもサターニャも文句を言ったけど。こいつらは2人きりになると歯止めが効かなくなるし。室内とか夜だとガンガン攻めて来そうだからな。
いや、こんなことで埋め合わせになるか解らないけど。アギトに相談したら勧められたんだよ。
アギトは『
個性的過ぎる他の3人を束ねているせいなのか? そう考えると何かアギトが苦労人みたいで可哀そうだな。
俺たちが向かったのは聖王国クロムハートの聖都クラウディアだ。選んだ理由は街並みが奇麗で観光名所も多いからだ。
いや、正直に言うと、俺は前世でインドア派だったし。こっちの世界でも誰かと普通に出掛けたことなんてないからな。これくらいしか思いつかなかったんだよ。
「俺のプランは聖都の名所を回って飯を食べるくらいだけど。エリザベスもサターニャも他に行きたいところがあるなら遠慮なく言ってくれよ」
俺は『
聖都に拘ってる訳じゃないかららな。2人に行きたいところがあるなら変更しても全然構わない。
「アレク様。僕としては……アレク様と一緒ならどこにいても嬉しいですよ」
「私だって……アレク様と御一緒させて頂くだけで幸せです」
文句を言ってたのに一緒に街を歩いてみると、エリザベスもサターニャも満更でもない感じだ。
2人に両側から抱きつかれてるから物凄く目立つけどな。
いや、俺は別に気にしないけど。特に男の嫉妬の視線が凄い。
エリザベスは金色の髪と青い瞳で、豊満な胸で美しさと可愛さを併せ持っている。
サターニャは藍色の髪と金色の瞳で、スレンダーでミステリアスな雰囲気の美女だ。
2人はタイプが違うけど、人間のレベルを超えた美人だからな。目立つのは仕方ないよな。
「2人が構わないなら、街をゆっくり歩くか。俺たちは普通に歩くこと自体あまりしないからな。たまにはこういうのも良いだろ」
「「はい、アレク様!」」
聖都の整然とした街を歩きながら、大聖堂や凱旋広場といった観光名所を巡る。
エリザベスもサターニャも聖王国の歴史には疎いから、俺がガイド役になった。
俺もゲーム知識だけど、エボファンの設定資料集を散々読み込んだからな。聖王国についてはそれなりに詳しいんだよ。
「アレク様は何でも知っているんですね。さすがはアレク様です」
「人間風情の国のことまでお詳しいなんて……アレク様、素敵です!」
いや、何でも知ってる訳じゃないし。サターニャは街中で人間風情とか言うなよ。
まあ、2人とも楽しそうだから構わないけどな。アギトに今度お礼をしないとな。
テラス席のあるレストランで3人でランチを食べる。何故か3人で並んで座って両側から『あーん』ってされたから、ここでも目立ち捲ったけど。こんなものもたまに良いか。
午後は聖都の中央にある公園を散歩したり、商店が並ぶ区画を食べ歩きしながら周った。
宝飾店を覗くと2人に似合いそうなアクセサリーがあったからプレゼントした。
いや、いつも頑張ってくれているからという感謝の気持ちで。別に他意はないからな。
そもそも俺にはセンスがないし、アクセサリーに詳しくもないけど。女性と言えばアクセサリーって至極単純な理由だよ。
「アレク様……僕、凄く嬉しいですよ」
「アレク様、ありがとうございます。私の生涯の宝物にさせて頂きますわ」
2人に似合いそうなものとなると結構な金額だったけど、金なんて余ってるから構わない。
でもサターニャの台詞は重過ぎるからな。2人とも喜んでくれたみたいだから、まあ良いけど。
あとは夕暮れの街並みを歩いて、予約してあるレストランで夕食という流れだ。
だけど聖王宮の前を通って繁華街へ向かっているときに、城門から見覚えのある騎士が出て来た。
「何だ、ガレイじゃないか。久しぶりだな」
「これは……アレク殿ではないですか」
老騎士ガレイはエリスの
「その……エリ……ノエル様は、お元気でしょうか?」
「いや、ガレイも事情は知ってるだろ。偽名はもう良いんじゃないか。エリスなら元気だよ。俺たちのリーダーとして頑張ってるし、俺も散々世話になってるからな」
エリスは聖王国の王女だけど王家とは縁を切ったからな。もう偽名を使う必要はないだろ。
そのせいで王太子のエルリックと確執があるけど。諜報部隊に監視させてるから、エルリックがエリスのことに関して何も仕掛けてないことは解ってる。
「ほう、エリス様が……立派になられたようで何よりですな。ところでアレク殿……こちらのお2人は?」
「ああ。俺の部下で――」
俺はガレイと暫く立ち話をした。ガレイも一緒にエリスのお目付け役だったパメラも、それぞれ無事に宮廷騎士と宮廷魔術士に復帰して働いているそうだ。
魔族の大規模侵攻のことも軽く話したけど、みんな無事だと伝えたらガレイも喜んでいた。
今日はエリザベスとサターニャのためだけに時間を使うつもりだったけど。せっかくガレイに会ったからな。2人とも俺の腕に抱きついたまま文句を言わないから、これくらいなら大丈夫だと思ってたんだよ。
むしろガレイの方が変な気を遣い方をしないかなって心配してた。
だけど俺たちは城門の傍で話をしていたから、夕暮れ時ということもあって公務を終えた貴族の馬車が何台も近くを通っていた。
その中の1台が俺たちの前を通り過ぎた直後に、馬の手綱を引いて止まる。
「おい、そこの宮廷騎士。その美しい女たちは誰だ?」
馬車から降りて来たのは口髭を生やした如何にも貴族って感じの奴だ。
それにしても態度が悪いし、エリザベスとサターニャを見る目が厭らしいな。
「ラカスタ伯爵殿下。こちらは……」
「
この後どうなるか予想がついたからな。ガレイを面倒事に巻き込むつもりはない。
「何だと、貴様……平民風情が余計なことを言うな! 良い女を連れているからと調子づきおって! 貴様には勿体ないわ……おまえたちもそう思うだろう? そんな男など放っておいて、儂と一緒に来い。幾らでも贅沢をさせてやるぞ!」
こんな馬鹿が聖王国の貴族なんだな。リアルだと面倒なこともあるな。
「おまえたちは何もするなよ」
エリザベスとサターニャが俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど。こいつらだと殺意だけで殺してしまいそうだからな。
だけどさ……俺だって怒ってるんだよ。
「な、なんだ貴様は……」
「うるさいな。黙れよ」
俺が軽く殺意を放つだけで、ラカスタ伯爵は泡を吹いて倒れた。
御者が慌てて駆け寄って来るけど、面倒だから相手をする気はないからな。
「じゃあ、宮廷騎士さん。またな」
俺たちは『
※ ※ ※ ※
「エリザベス、サターニャ。城の前で立ち話なんかした俺が悪かったよ」
『始祖竜の遺跡』に戻ってから2人に謝る。騒ぎを起こしたし、念のためにレストランはキャンセルだな。
「アレク様は悪くないですよ。それよりも僕のために怒ってくれたことが嬉しいです」
「そうですわ、アレク様……アレク様が怒って頂いて、私は物凄く幸せです」
2人がギュッと抱きついて来る。なあ、思いきり胸が当たってるんだけど。
でも俺のせいで夕食をキャンセルしたし。今日のところは仕方ないか。
「なあ。レストランには行けないけど、俺の部屋で3人で夕食にするか」
「「はい、アレク様!」」
何だよ、その期待に満ちた眼差し……解ってるとは思うけど。本当に夕食を食べるだけだからな。
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