第85話 何となく
アレックスからケイリヒトを説得できなかったことを『
まあ、予想通りの結果だし。ケイリヒトとは対決するしかないって思ってたからな。
時間を掛ける理由もないから、翌日にケイリヒトと再び会うことにする。場所はこっちで指定したけどメンバーは前回と一緒だ。向こうはケイリヒトにアレックスにトライアンフとキスダル。俺は仲間たち全員を連れて行った。
「それで……こんな場所で話をするなんて呆れるわ。
俺が指定した場所はギガンテの王都ガシュベルから50kmほど離れた荒野だ。他に人がいないなら場所なんてどこでも良いんだけど、目印になる巨大な岩があるからここを指定したんだよ。
「ケイリヒト、何言ってるんだよ。おまえはどうせ話し合うつもりなんてないだろ。それとも俺と友好関係を結ぶ気になったのか?」
「まさか、そんな筈がないわよ。貴方のような腹黒い奴にアレックスたちを利用させるつもりはないわ」
腹黒いことを否定するつもりはないけどな。俺にとっては仲間たちと『始祖竜の遺跡』の配下が1番で、アレックスやトライアンフと友好関係を結ぶのはみんなの安全を確保するためでもあるからな。
「だったら、ここで俺と戦って白黒つけないか。俺が勝ったら今後俺たちとアレックス、トライアンフの関係に一切口を挟まないこと。俺の仲間たちに干渉しないこと。あとはこれが一番重要なことだけど、俺の仲間たちを馬鹿にしたことを謝れよ」
みんなにとっても乗り掛かった舟だし、今回の結末を見る権利があると思って連れて来たんだけど。一番の目的はケイリヒトに謝らせることだ。
「良いわよ、その条件で構わないわ。万が一にも貴方が勝てたらね。私が出す条件は解っているわよね。友好関係の話はなかったことにして、今後一切アレックスとトライアンフに近づかないこと。勿論フレンド登録も解除して貰うわよ……私に負けた後も貴方が生きていればね」
ケイリヒトが奢ったような台詞を吐くのは、俺を挑発してミスを誘うためだな。
だけど悪いが安い挑発なんて意味がないんだよ。俺は自分のことをどう言われても構わないからな。
「じゃあ、条件は決まったけど。始める前に……トライアンフ、おまえに謝まらないといけないことがあるんだ」
戦闘好きのトライアンフは、俺とケイリヒトの対決を理由なんか関係無いって感じでニヤリと笑いながら眺めていた。
「おい、アレク。いきなり何だ?」
「おまえと戦ったとき、俺は手を抜いてたんだよ」
今回は俺も
「何だと、てめえ……ふざけるんじゃねえぞ!」
トライアンフは激昂して俺を睨みつける。
「ああ、本当に悪かったよ。だから今度おまえと戦うときは本気を出すからさ」
「……そう言うことか。解った、楽しみにしてるぜ!」
やる気満々って感じだけど、怒りは収まったようだな。ホント、扱い易い奴で助かるよ。
「どうせ私が勝つんだから、トライアンフとの再戦の約束なんて意味がないわよ」
「ケイリヒト、そういう台詞は勝ってから言えよ」
俺はスキル『
「……貴方も本気ってことね。良いわよ、そうでないと面白くないから」
ケイリヒトの殺意が増したのは俺の装備の性能を知ってるからだ。
『
俺としては装備なんてどうでも良いんだけど。探りを入れるためと装備のせいにするためにこの装備を選んだ。
俺が『太古の神の騎士団』からドロップするを持っていないと暗に示すことでどんな反応をするかと思ったけど、ケイリヒトは疑ってないみたいだな。
2つの第10階層魔法をレベルMAXまで上げるスキルポイントを獲得できるレベルでパーティーを組めば、『太古の神の騎士団』を倒すことも可能だ。
だけど勝てたとしてもパーティーの誰かが殺される確率が高いから、リセットもセーブポイントもないこの世界で『太古の神の騎士団』に挑もうだなんて普通は考えない……って、『始祖竜の遺跡』のことをエリスに話したときにジト目で指摘されたんだよ。
ケイリヒトもそう思っているなら、多少力を見せたところで俺の本当のレベルを疑われる心配はないな。『太古の神の騎士団』の経験値は破格だし、倒すと経験値増幅アイテムが確定ドロップするから。倒すと倒さないとじゃ到達できるレベルが全然違うんだよ。
「ケイリヒト、この前は俺が一方的に魔法を使ったからな。今回はおまえから先に攻撃しろよ」
「あら、随分と自信があるのね。さすがは2,000レベル超えってことかしら。じゃあ、そうさせて貰うけど、後で言訳なんてしないわよね。『身体強化』『魔力強化』『全耐性強化』『加速』……」
ケイリヒトは攻撃を始める前にあらゆるバフを発動する。まあ、時間があるなら当然やるよな。
「『
ケイリヒトは戦闘開始の予告なしで俺の後方に転移する。当然ながら『
「『
黒い焔が俺を飲み込む。『暗黒の獄焔』は第10異界魔法で攻撃力も強いけどデバフのオンパレードの如何にもケイリヒトが選びそうな魔法だ。
個別魔法レベルじゃなくて属性レベルだけ上げてるのもスキルポイントの効率を考えたからだな。
「『転移魔法』『
デバフで俺の反応速度が落ちた隙を狙ってのヒット・アンド・アウェイだ。
ケイリヒトの剣はエストック。所謂刺突武器だ。パワータイプではないケイリヒトでも高確率でクリティカルによる大ダメージを狙える。
使ったスキルは当然最上位でレベルも上げてる。見た目は地味だけどクリティカルの確率を極限まで上げた攻撃を1秒間に10発放つことができる。
「「「アレク!」」」
トライアンフとの戦いを見た後だし、みんなには心配は要らないって言っておいたけどさすがに心配するか。デバフだらけの状態でこんな攻撃を受けたら一溜りもないからな……
「これくらいじゃ倒し切れないみたいね。だけど終わりじゃないわよ!」
ケイリヒトは俺に反撃する隙を与えないで、魔法と物理を織り交ぜた攻撃を繰り返す。
ケイリヒトのクラスは魔道剣士。スキルも魔法も通常の1.2倍のスキルポイントで全て習得できる。
普通は自分のクラス以外のスキルや魔法を習得するには2倍から3倍のスキルポイントが必要だからな。最初はスキルを習得するのが遅いけど、レベルが上がれば万能型になれる。
10分ほど攻撃を続けたところで、ケイリヒトは俺から距離を置いて動きを止める。第10異界魔法と最上位スキルを使いまくったからな。さすがにMPが尽きて来たか。
「ケイリヒト、おまえだって知っているだろ。
「そんな感じじゃ……でも、まさか……」
レベル差があるからケイリヒトは『鑑定』を使っても俺のHPを見ることができないけど、これだけ攻撃を当てれば違和感に気づいたか。
俺のHPが回復してるんじゃなくてVITとREGが高過ぎるから、そもそもダメージが通ってないんだよ。
だけどケイリヒトはプライドが高いからな。認めることができないんだろ。
「じゃあ、そろそろ俺も攻撃するか。『転移魔法』」
俺はケイリヒトの目の前に転移して首元に剣を寸止めする。ケイリヒトは直ぐに跳び退くが、俺が止めなければ剣が当たったことは解っただろ。
「『転移魔法』」
今度はケイリヒトの背後に転移して背中に剣を押し当てる。
「チッ! 『
ケイリヒトは振り向きざまに最上位スキルを発動したけど、その前に俺は再び転移した。ケイリヒトの上から頭にコツンと剣を当てる。これで3回だな。
「アレク、どういうつもり? 私を舐めてるの!」
「いや、そうじゃなくてさ」
俺は巨大な岩の上に転移するとスキルを使わずに剣を振り下ろす。それだけで直径500mはある巨大な岩が粉々になった。
「攻撃を当てるとおまえが死ぬからな」
「今のスキルは……」
ケイリヒトの顔が真っ青になる。
「そんなこと教える筈がないだろ」
まあ、スキル無しの攻撃とは思わないよな。だけど効果はあったし、勘違いしてくれた方が都合が良いからな。
「ケイリヒト、俺の勝ちってことで良いよな」
「そんなこと……私は絶対に……」
唇を噛み締めてケイリヒトが俺を睨む。ああ、
「なあ、ケイリヒト。俺は仲間が大切だからさ。絶対に守るって決めたんだよ。アレックスもトライアンフも良い奴だからな。俺はあいつらを裏切るつもりはないよ」
「そんな言葉……信じられる筈がないでしょ!」
「俺が勝手に思ってることだからな。別に信じなくても良よ。
さっき俺が勝ったらアレックスとトライアンフの関係に口を挟むなって言ったけどさ、あれはなしで良いや。俺に文句があるならいつでも掛かって来いよ。
だけど俺の仲間を巻き込んだら、絶対に許さないからな」
「アレク……今の言葉に二言わないわね」
ケイリヒトはまだ俺を睨んでいる。
「ああ。仲間たちの前で宣言するよ」
アレックスから『始祖竜の遺跡』で仲間を失ったことを聞いているからな。ケイリヒトの気持ちは俺にも想像できる。
こいつのやり方とか考え方とか俺は嫌いだけどさ……俺の考えを押しつけるつもりはないってことだよ。
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