第84話 ケイリヒトの理由 ※ケイリヒト視点※


※ケイリヒト視点 ※ 


 魔王のアレクが私に『時間停止タイムストップ』を放った。

 なるほどね。『時間停止』なら『流星雨メテオレイン』の弱点であるタイムラグを解消できるわ。

 それに『時間停止』をレジストするにはキャラレベルの差とステータスの差が影響するから。魔法のレベルを上げてなくてもゴリ押しできると思ったのね。


 だけど甘いわよ。『時間停止』対策は基本だから、当然対策は打っているわ。

 『始祖竜の遺跡』産のマジックアイテム『時間超越者の指輪』を使えば、レジスト時に計算されるレベルとステータスが1.5倍になる。

 1,758レベルの私なら、2,000レベル台の『時間停止』だって余裕でレジスト……


※ ※ ※ ※


「うっ……さすがに俺も限界だぜ……アレックス、生きてるか?」


「ああ……何とかな。天井がぐるぐる回っているが……」


 俺たちの周りには大量の酒瓶と樽が転がっている。

 他のみんなが飲んだ分はキスダルが片付けたから、全部俺たちが飲んだ分だ。


 蟒蛇うわばみのトライアンフとアレックスがひっくり返ってる傍で、俺は高アルコール度の透明な酒を一気に空ける。全特殊効果耐性のあるアレクにとっては、少し味があるだけの水だけどな。


「アレク……考えてみりゃ、おまえは魔王の耐性のせいで酔わねえんだよな。完全にチートじゃねえか」


「何だはこっちの台詞だよ。トライアンフ、今頃気づいたのか」


「いや、俺は飲むときはいつも耐性強化アイテムを全部外すからよ。おまえもそうだって何となく思い込んでいたんだ」


アレクの耐性はアイテムじゃないからな。キャンセルできないんだよ」


 酒を飲むのは完全に付き合いだからな。美味いとは思わないし、飲み比べで勝っても全然嬉しくない。


「なあ、トライアンフ。こんな俺と飲んでも、それこそ面白くないだろ」


「次からは……アレクとは勝負しねえからな……zzz……」


「zzz……zzz……」


 何だよ。トライアンフもアレックスも寝ちゃったのか。

 もう午前2時だからな。14時間以上も飲み続けたんだから仕方ないか。


 だけどトライアンフは次も俺と飲むつもりなのか。

 付き合うくらいは構わないけど。こいつらと喋るのは嫌じゃないし、情報も聞けるからな。


 みんなも酔って寝てしまったし、今夜はアレックスの城に泊るしかないな。

 明日の朝、二日酔いの奴らに『解毒キュアポイズン』を掛けてから帰るか。


※ ※ ※ ※


 翌朝。アレックスとトライアンフは二日酔いどころかケロっとしてた。

 トライアンフに酔い潰されて青い顔のグランとガルドに、セリカとメアが『解毒』を掛ける。

 他のみんなはそこまで飲んでないから、朝食が食べられるくらいは元気だった。


「なあ、アレク。ケイリヒトに掛けた『時間停止』は本当に解けるんだな?」


 今も止まったままのケイリヒトを見て、アレックスが心配そうに言う。


「まあ、万が一解けなかったら解除ディスペルしに来るからさ。『伝言メッセージ』で教えてくれよ」


 ケイリヒトのこととは別に、俺にはもう1つ気になることがある。


「なあ、アレックス。今さらだけど、外の殺人人形マーダードール部隊は何のために用意したんだよ」


「アレク、気づいていたのか……いや、俺の方から言うべきだったな。信じてくれないかも知れないが、アレクたちを警戒したんじゃない。

 ケイリヒトが暴走したら止めるために用意したんだ。あいつもガスライト帝国を敵に回すつもりはないからな」


 殺人人形じゃケイリヒトを止められないけど。殺人人形を殺したらガスライト帝国と敵対することは避けられない。

 俺なら戦う必要があれば相手が強国だろうと躊躇ためらわないけどな。


 ケイリヒトもそういう奴だと思うけど、ガスライト帝国の宰相はアレックスだからな。さすがにアレックスとは敵対したくないんだろ。

 アレックスはそれ・・が解った上で殺人人形部隊を用意したのか。意外としたたかなんだな。


「アレックス、気にするなよ。おまえの意図は解ったし、むしろ俺のことをもっと警戒しろよって思ってるからさ。

 ケイリヒトを抑えるにはそういう・・・・手段が有効なんだな。憶えておくよ」


 そう言って俺たちはアレックスの城を後にした。

 とりあえずケイリヒトのことはアレックスに任せることにしたからな。

 『時間停止』が解ける前にいなくなるのが正解だろ。


※ ※ ※ ※


※ケイリヒト視点※


 アレクの『時間停止』をレジストした筈なのに。次の瞬間アレクの姿が消えていた。

 メインキャラたちの姿もない。ということは……私はレジストに失敗したってこと?


 だけど私は無傷だ。時間停止中はダメージを一切受けないけど、その間に仕掛けた魔法は『時間停止』が切れた瞬間に一気に発動する。

 『時間停止』は相手の動きを止めて、攻撃を纏めて叩き込むための魔法だから。

 

「ケイリヒト、気がついたんだな」


 アレックスがほっとしている。アレックスがアレクを止めたのかしら。


「アレックス。アレクはどこにいるのよ?」


「あいつはもう帰ったよ。トライアンフもな」


「え……それって、私が動けない間に話がついたってこと?」


「ああ。ケイリヒトにはすまないと思うが。俺の判断は間違っていないと思う」


 嘘でしょ……私の時間が止まっていたわずかな時間・・・・・・に全部終わらせてしまうなんて。


「ねえ、アレックス。貴方が私を無視したのは、無様にアレクに負けたから?」


「いや、そういうことじゃ……」


「でも次は絶対に私が勝つわよ。私がレジストできないくらいだから、アレクは『時間停止』のレベルも上げているみたいね。

 だけど『時間停止』にまでスキルポイントを注ぎ込んだら、それこそ他の魔法やスキルに回す余裕なんてない筈だわ。

 今回みたいに先に魔法を撃たせるような真似をしなければ、勝つのは私よ」


 捲し立てるように言った私を、アレックスは何故か申し訳なさそうな顔で見ている。


「ケイリヒトは気づいていないみたいだが。アレクが『時間停止』を発動してから、もう1日以上経っているんだ」


「アレックス、つまらない冗談は止めてよ。1日以上も持続する『時間停止』なんて、属性レベルも固有魔法レベルもMAXってことじゃない」


 2つの第10界層魔法を限界まで強化するのに、どれだけのスキルポイントが必要だと思っているのよ。


「ケイリヒトがどう思おうと勝手だが、これは事実なんだ」


 アレックスが真剣で言う。嘘が苦手なことは私が1番解っているけど……


「なあ、ケイリヒト。おまえだって本当は解っているんだろう?

 アレクのスキルポイントの使い方は確かに偏っているかも知れない。だけど俺たちよりも遥かにレベルが上で、本気になれば俺たちは誰も敵わない。それをあいつは証明したんだ。

 そんなアレクが俺たちを利用する必要なんてないだろう」


 アレクの実力に関してアレックスが言っていることは間違いではないわ。

 24時間以上持続する『時間停止』があれば、どれだけの魔法を仕掛けられるか。それだけで私を確実に殺すことができる。

 『流星雨』の欠点も埋められるから『時間停止』を使われた時点で私の敗けが確定する。

 だけどあくまでも使われたらの話で、要は『時間停止』の射程内に入らなれば良いのよ。


「2つの第10界層魔法を限界まで強化できるキャラレベルだったら、私ならもっとバランス良く魔法やスキルのレベルを上げるわ。その方が強くなれるから。

 アレクのやり方は全然理に適っていないのよ。そんな奴がたとえ私よりずっとレベルが上だとしても、私は認めないわ」


「だがケイリヒト、アレクは俺たちを利用するつもりじゃ……」


「レベルが高いから利用する必要がないって? だからアレックスは馬鹿なのよ。対等な関係とか最初は甘いことを言っても、貴方たちを顎で使うつもりに決まっているじゃない」


 真面目なアレックスは解っていないみたいだけど、この世界は力が全てなのよ。

 個人の強さだけじゃなくて、権力とか財力とかもあるけど。力があれば何をしても良いと思っている奴ばかりじゃない。

 そんな奴らから私がアレックスたちを守らないと……あのコ・・・に約束したんだから。


「つまりケイリヒトはアレクとの友好関係を受け入れるつもりがないってことか?」


「ええ、その通りよ。良いわ、アレックス。私がアレクの化けの皮を剥がしてみせるわ」


 レベルが高いだけの奴になんて、私は絶対に負けないから。


「解った……アレクにそう伝えておくよ。実を言うとアレクも俺がケイリヒトを説得できないと思ったらしく、もう一度話をしたいと言っていたんだ」


「へー……良いわよ。私も話がしたいって伝えておいて」


 勿論、話だけで済む筈がないじゃない。今度こそ私の実力を思い知らせてあげるわ。


「あと……ケイリヒト、先に謝っておくが。その……タイミングが悪くて言いそびれただけで、決してわざとじゃないんだ」


 今度は何故かアレックスがオドオドしている。


「どうしたのよ、アレックス。他にも悪い話があるの?」


「いや、悪い話には違いないが……言っておくが、これはアレクのせいじゃない。全部トライアンフの仕業だからな」


「だから何の話よ? アレックス、はっきり言いなさいよ」


「ケイリヒト、すまない!」


 アレックスは私の前に鏡を差し出す。

 そこに映っていたのは、左右の頬に3本ずつの髭を描かれて、真っ黒な鼻の私だった。


「ねえ……トライアンフはどこにいるの? この私にこんなことをしたんだから……1回殺される覚悟くらいできているわよね!」


「な、なあ、ケイリヒト。落ち着けよ。この世界に蘇生魔法なんて存在しないんだから、殺すのは駄目だろう」


「はあ? じゃあ半殺しで勘弁してあげるから、さっさとトライアンフを連れてきなさいよ!」


 トライアンフの馬鹿は絶対に許さないんだから。

 だけどこんな馬鹿な2人でも、私が絶対に守ってみせるわ。

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