第83話 昔の話


 俺は有言実行な男だからな。やるときはやるんだよ。

 『時間停止タイムストップ』を掛けたままのケイリヒトを放置した部屋・・・・・・で、俺たちは親睦会という名の宴会を始めた。


 アレックスは顔を引きつらせてたけど。トライアンフは全然気にしないどころか、ケイリヒトの顔に落書きして大笑いしてた。

 トライアンフ、俺のせいにするなよ。後でどうなっても知らないからな。


 みんなもケイリヒトのことを完全に無視して、普通に楽しんでいる。まあ、みんなもケイリヒトには頭に来ただろうからな。

 キスダルが何故か俺に怯えてるけど。これでみんなにも手を出さないだろうからな。一石二鳥ということで良しとしておこう。


「ねえ、アレク。私があんたのために怒ったって言ったけど。あんただって……」


「私は……アレクが怒ってくれて、物凄く嬉しいよ」


「アレク、ご苦労様。そして……ありがとう」


 レイナとソフィアとエリスが何故か俺から離れようとしない。

 いや、俺はみんなのことを馬鹿にされて俺は怒ったけどさ。そこまで感謝するほどのことじゃないだろ。

 マジで止めて欲しい……照れるから。


 それにエリザベスとサターニャから抗議の無言『伝言メッセージ』が止まらないんだよ。

 『伝言』禁止は解除しても良いけど、今解除すると面倒なことになりそうだからな。


『後で必ず埋め合わせするからさ。2人とも今は我慢してくれよ』


 そう『伝言』を送ったら、無言の『伝言』がピタリと止んだ。

 変な期待をしてないだろうな。過剰な要求は断固却下するからな。


 レイナたちに暫く付き合ってから、アレックスのところに向かう。

 トライアンフはガルドとグランと一緒に飲んでるし。ガシュベルに行けばいつでも会えるからな。


「なあ、アレックス。少し話をしないか」


 アレックスが変な気を遣って、俺とレイナたちのところに来なかったことは解ってる。だから誤解だって。呆れて避けられた訳じゃないよな?


 2人で城の屋上に出て風に当たる。屋上も黒尽くめなんだな。埃とか気にならないのか? 掃除が大変そうだけど。いや、そんなことはどうでも良いか。


「おまえたちは14年前にこの世界に転生したんだよな? 当時の転生者について、教えてくれないか」


 単刀直入過ぎる気もしたけど、アレックスに質問する。

 アレックスは頷いて、ゆっくりした口調で話し始めた。


「俺が知る限り14年前に転生したのは30人ってところだ。

 その大半はこの世界の住人と同じように普通に暮らしている。14年前に転生した奴の中で『始祖竜の遺跡』に挑んだのは俺たちだけだ」


 リセットもセーブも存在しないリアルエボファンの世界で、14年前の転生者たちはそこまで積極的にレベルアップを目指さなかったそうだ。


 エボファンの物語メインストーリーが始まるのはまだずっと先だからな。前日談とか細かい設定を知ってる奴じゃないとイベントに絡みようがない。


 普通にダンジョンに潜るか、冒険者として依頼を受けるだけなら、そこまでレベルを上げる必要はないからな。

 俺なら同じ条件でもレベルを上げ捲るけど。


 そんな中ダンジョンでレベルを上げ捲って『始祖竜の遺跡』に挑んだアレックスたちは、他の転生者から性格異常者扱いされたそうだ。

 だけどケイリヒトのプレイヤースキルとコアなゲーム知識のおかげで、『始祖竜の遺跡』第9階層までは順調に攻略が進んだ。

 ああ。ケイリヒトもエボファン廃人なんだな。


「俺たちだって油断した訳じゃない……いや、気づかないうちに油断していたのかも知れないな。

 10階層の攻略を始めて暫くした頃だ。戦闘中に別のモンスターの襲撃に気づくのが遅れた。気づいたときには仲間の1人が殺されて、もう1人も直ぐにな……」


 エボファンは戦闘中でもエンカウントが発生する。

 しかも10階層のモンスターは凶悪で『不可視インビジブル』や『認識阻害アンチパーセプション』を普通に使って来るからな。

 不意打ちされても仕方ないし、モンスターのレベルが高いから後手に回ると挽回できないんだよ。


「あのさ。俺には何て言えば良いかよく解らないけど……アレックスたちも頑張って来たんだな」


 仲間を失いたくない気持ちは俺にも解る。

 だけど実際に失った訳じゃないから、アレックスの気持ちが解るとか軽々しく言えない。


「ああ。アレク、ありがとう……だからってケイリヒトのことを許してくれとは言わない。

 あいつの性格の悪さは、俺たちが一番知っているからな。だがあいつも……いや、何でもない。忘れてくれ」


 アレックスが何を言おうとしたのか、俺にも想像できる。

 だけど言わなかったのは正解だな。俺はケイリヒトを許すつもりがないから。


「とりあえず『時間停止』は明日には解けるから、まずはケイリヒトと話し合ってくれよ。それでも駄目なら、俺がもう一度あいつと話をするからさ」


 アレックスには悪いけど、そこまで期待してない。仲間に説得されるような奴なら、とうに話がついているからな。

 結局はケイリヒトと対決するしかないだろう。放置しても良いことはないからな。


 だけどケイリヒトは俺を挑発しただけで、まだ実力行使に出た訳じゃないからな。

 あいつが過去に行ったことも、魔族軍の侵略を放置したくらいで、自分勝手な理由で人を殺した訳じゃない。


 同じエボファン廃人として解り合えるなら。絶対先にみんなに謝らせるけど、素直に謝れば許してやらないこともない。たぶん無理だけどな。


 それにしてもアレックスは、ここまで俺に話して良かったのか?

 俺を信用したと言うより、謝罪の意味があったんだろうけど。

 もしかして俺がケイリヒトを説得することを期待してるのか?

 いや、少なくとも意識的にそういうこと・・・・・・をやるような奴じゃないな。


 それからも色々話をして、アレックスたちが前世で死んだ時期が俺と大差ないことが解った。

 死んだ時期と転生した時期に相関関係はないってことだな。まあ、予想通りだけど。

 

 この世界に転生するのは、エボファンをプレイしたことがある奴だけみたいだからな。俺より11年以上前に転生したアレックスたちが、前世でも11年以上前に死んでいる筈がないんだよ。

 だってエボファンが発売されたのは、俺が前世で死ぬ3年前だからな。


 あとは14年経っても何故転生したのかも、誰が転生させたのかも全く解っていないらしい。

 この世界に俺たちを転生させた黒幕は、余程用心深いのか。それとも転生したのは偶然の産物で、そもそも黒幕なんかいないのか。

 俺は楽観視するつもりはないから、前者を前提に考えるけどな。


「何だよ、アレク。こんなところにいたのか」


 やって来たのはトライアンフだ。歩きながら酒瓶から直接酒を飲んでる。


「なあ、アレク。約束だからな。一緒に飲もうぜ」


「グランとガルドはどうしたんだよ? 一緒に飲んでたんだろ」


「あいつらは潰れちまったよ。なかなかの飲みっぷりだっけどよ。俺に言わせればまだまだだな」


 2人も酒に強いけど、トライアンフは蟒蛇うわばみだからな。


「ああ、解ったよ。じゃあ、3人で飲もうか」


「俺は構わねえけどよ。アレックスと飲んでも面白くねえぜ」


「そう言えばトライアンフは、アレックスが酒が弱いとは言わないよな。アレックスも強いのか?」


「まあ、弱くはないな。トライアンフと一緒に飲んでも酔ったことがないからな」


 何だよ、こいつも蟒蛇なのか。だけどアレクの身体はチートだからな。グランたちのリベンジをしてやるか。

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