第82話 挑発
「なあ、アレックス。おまえたちの関係に口を挟むつもりはないけどさ。このまま話を続けても俺は構わないよ。アレックスとトライアンフとは友好関係を結んだ前提で、今度はケイリヒトと話をするってのでどうだよ?」
俺の申し出にアレックスは逡巡してから頷く。
「アレク、すまない……君がそれで構わないなら話を続けさせてくれ」
「何言ってるんだよ、アレックス。俺たち
ケイリヒトとどんなことになっても、この2人とは敵対するつもりがないからな。
「アレク。貴方に感謝するつもりはないわよ」
ケイリヒトが馬鹿にするようにクスリと笑う。
だけどこいつの相手をするよりも先に、俺にはやることがあるんだよ。
「感謝なんてしなくて良いからさ。ちょっとだけ待っていてくれよ」
『アレク様。その生意気なエルフを僕が殺して良いですよね』
『アレク様。無礼で愚かなその女を殺したいんですが……駄目でしょうか?』
さっきからエリザベスとサターニャの『
『駄目に決まってるだろ。毎回言うけど絶対勝手に動くなよ。あと俺が許可するまで『伝言』を送るのも禁止だからな』
『『……』』
あのなあ。無言の『伝言』で抗議するのも禁止だからな。さてと次は……
「なあ、レイナ。ちょっと話がしたいんだけど、良いか?」
「え……何よ、いきなり?」
いや、思いきりケイリヒトを睨んでただろ。
(レイナが俺のために怒ってくれるのは嬉しいけど。喧嘩になるとややこしくなるからさ。悪いけど暫く我慢してくれないか)
レイナに小声で耳打ちする。
(私は別にあんたのために怒ってるんじゃ……解ったわよ。できるだけ我慢するから)
できるだけかよ。まあ、仕方ないか。
エリザベスとサターニャから何度も無言の『伝言』が届いてる。悪いけど無視するからな。
エリスとソフィアがジト目で見てるけど、そんな場合じゃないだろ。
「
ケイリヒトがまたクスリと笑う。もしかして『元』ってキチンと付けるのは、もう魔王でもない格下のくせにって馬鹿にしてるのか?
「ケイリヒト。下世話な話なんてしてないで、さっさと本題に入れよ」
「アレク、貴方ねえ……まあ、良いわ。何か勘違いしているみたいだけど、私たちが貴方と友好関係を結んで
貴方が私たちの力を利用したいなら、頭を下げて下に付きなさいよ」
「…………!」
「おい、ケイリヒト。さすがにそれはねえだろ」
真面目なアレックスは、ケイリヒトとの約束を守って口出しするのを我慢している。
マイペースなトライアンフは酒の時間を邪魔されたからか、怒ってるみたいだな。
「脳筋のトライアンフは黙っていなさいよ」
「てめえ……ふざけたことを抜かすと……」
「なあ、トライアンフ。庇ってくれたことはありがたいけど。身内の喧嘩なら後でやってくれよ。ケイリヒトが何を言おうと俺は構わないからさ」
「アレク……解ったぜ。好きにしろよ」
さてと。正直に言えば面倒臭いけどな。
「ケイリヒト、俺たちはおまえの配下になる気なんてないよ。話はこれで終わりだ。俺たちはアレックスとトライアンフの2人と友好関係を結んだんだ。おまえに用はないからな」
これで話がつけば楽なんだけどね。
「そんなことを私が許す筈がないでしょう? アレックスとトライアンフは私の仲間なんだから、私が駄目と言えば友好関係の話はなしよ」
「なのなあ、ケイリヒト。おまえが許すかどうかなんて関係ないだろ」
「あら、関係あるに決まってるじゃない。アレク、貴方がアレックスたちを利用しようとしているのは解っているんだから。仲間を守るために私が行動するのは当然でしょう」
「仲間を守るねえ……おまえさ、論点を摩り替えるなよ。
「私は権利の話をしてるんじゃないわ。貴方はそれくらいのことも解らないの?」
ケイリヒトがまたクスリと笑う。感情論だけで理屈が通ってないのはおまえの方だろ。
だけどこのまま話をしていても意味がないからな。さっさと切り上げて、ケイリヒトのことは放置するか……なんて俺が考えていると。
「アレク、貴方はもう1つ勘違いしているみたいだけど。なんで『俺たち』なのよ? 私は貴方と話をしているだけで、低レベルの連中なんて眼中にないわよ」
ああ、そういうことか。ケイリヒトは俺を説得しようなんて初めから思ってない。そもそも話し合う余地なんてないんだな。
ケイリヒトの狙いは俺を挑発して手を出さることなんだ。
だからここは大人しく聞き流すのが正解なんだけど……
「おい、ケイリヒト……ふざけるなよ。俺のことは何と言っても構わないけど。仲間を馬鹿にするなら絶対に許さないからな」
「貴方が許さないから、どうだって言うのよ? まさか『
「おい、ケイリヒト! 馬鹿なことを言うんじゃねえぞ!」
トライアンフが止めるが、ケイリヒトは無視して挑発を繰り返す。
「何なら他の魔法でも構わないわよ? 私に通用するレベルの魔法が使えるならね。だけど貴方は使えないわよね。『流星雨』なんかにスキルポイントを無駄遣いしたんだから」
「じゃあ、遠慮なく。『
ケイリヒトの時間だけが停止する。
「さてと、アレックスにトライアンフ。ケイリヒトの方から喧嘩を売ったんだから、俺が殺しても文句は言えないよな。
だけど何度も言ってるけど、俺はおまえたちと敵対する気はないからな。ケイリヒトのことは任せて構わないか?」
「アレク……重ね重ねすまない。それと……ケイリヒトを殺さないでくれたことに、心から感謝する。本当に、本当に、ありがとう……」
アレックスが深々と頭を下げる。
「だから、アレックス。おまえが謝ることじゃないだろ。だけどさ……」
俺は押さえていた殺意をケイリヒトに向けて放つ。
勿論、
「もしケイリヒトが俺の仲間に手を出したら、絶対に殺すからな」
たとえアレックスたちを敵に回すことになっても、これだけは譲れない。
「ああ、勿論解っている。俺も……ケイリヒトはこんな奴でも、俺の大切な仲間だからな」
アレックスには同情するよ。真面目にケイリヒトのことはどうするかな。
アレックスには
「なあ、アレックス。提案なんだけどさ。このままケイリヒトを『時間停止』を掛けたまま放置して、さっき言ってた親睦会をやらないか」
「いや、俺は構わないが……」
アレックスは俺の意図を測りかねてるみたいだな。
「レベルを上げてない『時間停止』の持続時間は1分だ。だけど俺の『時間停止』は丸1日以上持つんだよ。ケイリヒトならこの意味が解るだろうからな」
手の内はあまり晒したくないけど、ケイリヒトみたいな奴には力を見せつけるのが効果的だからな。
まあ、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます