第81話 友好関係


 アレックスと会う約束をして、俺たちが向かった先はガスライト帝国の帝都から少し離れたところにあるアレックスの城だ。

 黒曜石を金属で補強した真っ黒な城は異様で、さすが『深淵の支配者アビスルーラー』閣下の城だよなって思ってしまう。


 いや、そんなことよりも。アレックスが会う場所に自分の城を指定したのは、俺が来たことがあるって前提だよな。

 大陸の反対側にあるガスライト帝国まで呼びつけるなんて『転移魔法テレポート』が使えない奴には無茶ぶりだし。来たことがないと『転移魔法』は使えないからな。


 まあ、1週間後の指定だったから、『飛行魔法フライ』で来れないこともないけど。そういう言い訳・・・・・・をさせるために1週間後を指定したのか?

 手の内はあまり晒したくないけど、乗り掛かった舟だからみんなも連れて来た。念のためにエリザベスとサターニャが偶然・・ガスライト帝国に来ていることも黙認する。

 

 城の周囲にはガスライト帝国が誇る殺人人形マーダードール部隊が待機している。

 俺の『索敵サーチ』に反応する前に、諜報部隊から報告があったから知ってたけどね。

 まあ、俺を警戒したにしては戦力が足りないよな。

 アレックスには他の意図があるのか?


「なんか……趣味の悪い城よね」


 いきなりレイナが喧嘩を売る。おい、止めてくれよ。


「はあー? 『深淵の支配者』閣下の趣味が悪いことは認めますが。随分と失礼な奴ですね」


 キスダルが受けて立って、視線がバチバチとぶつかる。

 だけど趣味が悪いのは認めるんだな。アレックスも可哀そうな奴だな。


 アレックスの城には他にも部下がいる。傭兵や冒険者上がりから貴族の子弟や元犯罪者まで。経歴はバラバラだけど、全員それなりの実力者だ。


 こいつらはアレックスを慕って集まって来た連中で、あいつのために働こうと実力を磨いている。

 そう言えばキスダルもあの性格のせいで干されていたところを、アレックスに拾われたんだよ。

 全部諜報部隊からの情報だけどな。


「よう、アレク。こんな僻地までよく来たな」


 主のアレックスじゃなくて、トライアンフが言う。ホント、アレックスの扱いが悪いよな。


「トライアンフ。幾らおまえでもガスライト帝国を侮辱するのは許さないぞ」


「何だよ、アレックス。いちいち目くじら立てるんじゃねえよ。こんなところまで呼び出さなくても、俺の城で良かったんじゃねえかって思ってるだけだぜ」


 まあ、その通りなんだけどさ。自分の城じゃないと殺人人形部隊を配備できないからな。

 トライアンフの性格から言って、こいつは関わってないんだろうな。


 ガシュベルで会ったときはそういう・・・・雰囲気じゃなかったからな。みんなは改めてアレックスに自己紹介する。

 アレックスは1人1人に対して名乗って、先日の非礼を詫びる。

 こっちが恐縮するくらい本当に真面目な奴だよな。


「アレク、『伝言メッセージ』では伝えたが。今回はこちらも俺のもう1人の仲間が同席する。まずは紹介しよう……」


「アレックス、自分で言うから良いわ。S級冒険者のケイリヒト・ブリュンヒルデよ。魔王のアレク・クロネンワース。貴方の噂は色々と聞いているわ。

 魔族軍の大規模侵攻を防いだこととか。私たちエルフの国シャンパルーナでイルマーハ辺境伯領を救った話とかね」


「ケイリヒト……その話は初耳だぞ」


 アレックスが訝しそうな顔をすると、ケイリヒトはクスリと笑う。


「あら、アレックスには話していなかったかしら?

 アレクは色々なところで派手な活躍をしているのよ。自分の力を見せつけるようにね。

 他にもウルキア公国と獣人の国ギスペルでも暗躍したみたいだけど。何を企んでいるのかしら……ねえ、アレク?」


 完全に俺のことを挑発してるな。

 まあ、こいつのことは調べはついているし。『鑑定』で手の内は解ったからな。

 挑発を無視するのも手だけど、俺が喧嘩を買わないとレイナが買うからな。


「俺は何もない企んでないけどさ。シャンパルーナの件を知ってるってことは、ケイリヒトはイルマーハ辺境伯領が魔族軍に占領されたのを知りながら放置したのか? おまえのレベルなら魔族軍の指揮官だったジェリル・スレイアなんて一捻りだろ」


「あのとき私は魔族の領域のダンジョンにいたから、魔族軍の襲撃を知ったのは貴方が撃退した後よ。私だって自分たちの国が魔族軍に襲われるのを放置したりしないわ」


「ああ、そうだったのか。ケイリヒト、すまない。失礼なことを言ったな」


「別に構わないわよ。私の代わりに辺境伯領を救ってくれた英雄に文句を言うつもりはないわ」


 お互いに上辺だけの謝罪をする。ケイリヒトがどこまで本当のことを言っているのか、知れたモノじゃないからな。

 こいつが過去に魔族軍のシャンパルーナ侵攻を放置したことは調べがついてるんだよ。そのときはシャンパルーナ軍が何とか撃退したけどな。


「じゃあ……早速話を始めたいんだが。みんな席について貰えるか」


 とりあえず俺とケイリヒトの応酬が終わったタイミングで、アレックスが促す。

 大きな円卓を囲むように椅子が置かれていて、俺たち11人の椅子は1ヵ所に集まっていた。俺たちの対面にアレックス、左右の席にトライアンフとケイリヒトが座る。


 みんなにお茶を出したのはキスダルだ。レイナとまたバチバチやってるんだけど。

 お茶を出し終わったキスダルがアレックスの後ろに立つと、今度はケイリヒトとバチバチやってる。こいつらも仲が悪いのか。


「まずはアレク、そしてみんな、今日は遠いところをわざわざ来てくれたことに感謝する」


「どうせ『転移魔法』を使ったのよね? アレク、貴方は私たちのことを嗅ぎまわっていたんでしょ。だからアレックスの城にも来たことがあるわよね」


 おい、ケイリヒト。また挑発するのか。話が進まないだろ。レイナもお願いだから喧嘩を買うなよ。


「ケイリヒト……同席は許したが、俺はアレクと話をしているんだ。邪魔をするなら出て行って貰うぞ」


 アレックスの強い口調に、ケイリヒトは驚いている。こいつらの関係が何となく解った気がするな。

 ケイリヒトは直ぐにクスリと笑って。


「あら、邪魔なんてしないわよ。アレックス、続けて良いわ」


「……アレク、すまない」


「いや、アレックス。おまえが謝ることじゃないだろ。それより話を続けてくれよ」


「ああ。早速本題に入るが、先日アレクから申し出でのあった友好関係の話だが。俺も是非君たちと友好関係を結びたいと思っている。だが友好関係と言っても色々とあるだろう?」


 まずは相手の出方を見たいからな。俺は黙って頷く。


「俺の提案は対等な関係だ。それも条約を結んで互いを縛るのではなく、あくまでも互いを信頼して付き合っていく。そういう形が望ましいと思うんだ」


「ああ、アレックス。俺も同じ意見だな。堅苦しいことなんて言わないで、普通に付き合っていけば良いんじゃないか」


 敵対する可能性があったから友好関係なんて言い方をしたけど。知り合いってレベルで付き合えれば、それで自由分なんだよ。


「アレク、そう言ってくれると助かる。これからは魔族軍などの情報などを共有して、この世界を一緒に守っていこう」


「ああ。世界を守るとか大袈裟な気はするけど、俺も異存はないよ」


「アレックス、俺も大袈裟だと思うぜ。なあ、アレク。これで堅苦しい話は終わりだろう。だったら一緒に飲もうぜ。アレックスは真面目過ぎて、一緒に飲んでも詰まらねえんだよ」


 別に酒くらい付き合っても構わないけど。トライアンフはホント、マイペースだよな。


「じゃあ、そういうことで。これから親睦を深めるために一緒に食事をしないか。料理も酒も用意しているんだ」


「おお。アレックスにしては気が効くじゃねえか! 勿論酒はたんまりあるんだろうな? こいつらも結構飲むぜ」


 そのまま親睦会に移る――なんて雰囲気じゃないことは解っていた。


「アレックス、何を勝手に話を終わらせようとしてるのよ。まだ話は終わってないわ。私には異存が沢山あるから」


「おい、ケイリヒト。さっきも言っただろう。邪魔をするなら……」


「あら、私も当事者よ。だから邪魔じゃないわ。アレックスが話しているときは黙っていたんだから、今度は貴方が黙っていなさいよ」


 まあ、正論だけどさ。アレックスもこのまま終わるなんて思ってなかっただろ。


「ケイリヒト。おまえが言いたいことも解るが、今度改めて俺たち4人では話をしないか。今日のところは俺とトライアンフがアレクたちと友好関係を結ぶ。それで良いだろう?」


「ねえ、アレックス。そんな勝手なことを言って良いと思っているの?」


 ケイリヒトが馬鹿にしたようにクスリと笑う。だけどアレックスも譲らなかった。

 仲間内のゴタゴタは勝手にやってくれって言いたいけど。このままじゃ埒が明かないからな。


「なあ、アレックス。俺はこのまま話を続けても構わないよ。2人とは友好関係を結んだ前提で、今度はケイリヒトと話をするってことで良いよな」


 アレックスは俺たちとの関係を真剣に考えてるけど、ケイリヒトのことも無視できないのは解るからさ。

 どうせケイリヒトのターゲットは俺なんだからさ。白黒つけるには良い機会だろ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る