第74話 誤解


「おい、早合点するな。喧嘩を売るのは今日じゃねえ。戦う前に一緒にメシを食って、てめえらを見極めてえって思ったんだよ」


 トライアンフの言葉を警戒しながら聞く。何だよ、結局そういうことか。


俺の昔の仲間・・・・・・が、アレクがカスバル要塞の前に作ったクレーターを見てな。てめえらが『始祖竜の遺跡』に潜って余裕で1,000レベル超えとか言うからよ。

 俺より強い奴がいるとか勘違いされるのはムカつくからな。俺がボコって、てめえらの化けの皮を剥がしてやるよ」


 昔の仲間って奴はたぶん『深淵の支配者アビスルーラー』閣下で、クレーターの大きさから俺のレベルを推測したんだろう。

 『始祖竜の遺跡』のこともレベルから推測と思うけど。見張り・・・からの報告って線もアリだな。


 最初に『始祖竜の遺跡』を訪れたとき。アレクは『索敵サーチ』を常時発動してるから、『始祖竜の遺跡』を見張ってた奴に気づいてた。

 だけど俺は姿を隠してたし、見張りを倒すと余計に面倒なことになるから放置したんだよ。


 今は配下も含めて『始祖竜の遺跡』に行くときは直接的中に転移するし。外に出るときも転移してから移動するからな。見張りを放置すれば、誰も出入りしてないと思わせることができる。


 だけどそれにしてもさ、こいつ……自分からペラペラ喋って馬鹿じゃないのか。


「まあ、てめえらの装備を見れば『始祖竜の遺跡』に潜ったのは本当みたいだけどよ。その程度の装備じゃ、せいぜい2階層止まりってところだな」


 だからさ。下手に喋ると手の内がバレるだろ。

 トライアンフはレイナたちの装備で判断してるけど、こいつは『始祖竜の遺跡』のアイテムにそこまで詳しくない。

 アイテムデータを詳細まで知ってれば、俺がレイナたちのレベルに合わせて装備を選んだことくらい解るからな。


 トライアンフが言ってることが全部ブラフって可能性も一応あるけど。こっちは必要以上の情報を出さないから問題ない。


「『始祖竜の遺跡』に潜ったのは俺だけだ。みんなの装備は俺が渡したんだよ。何なら『鑑定』できる奴を連れて来て、みんなのレベルを調べても構わないけど」


 これについては誤解されたままだとみんなを巻き込みそうだから正直に話す。

 『鑑定』の件は完全に俺の独断だけど、トライアンフは強い奴にしか興味がないからな。こいつの興味を反らすためだから許してくれよ。


 いや、敵なら倒してしまった方が手っ取り早いんだけど。トライアンフはガーランドやジェリルとは違うんだよな。

 トライアンフは自分が1番じゃないと気が済まないから、それを証明するために喧嘩を売ってるだけだ。


 何考えてるんだよってレベルで子供ガキっぽいし。馬鹿には違いないんだけどさ。俺はこういう奴が、そこまで嫌いじゃないんだよ。


 それにトライアンフのレベルを考えれば、俺より先に『始祖竜の遺跡』に潜った奴に間違いない。

 せっかくペラペラ喋ってくれるんだし。敵対するよりも友好関係を築いて、情報を聞き出す方が得だろ。


「てことはレイナたちはレベルが低いのか? 何だ、詰まらねえな。だったらてめえと一緒に『始祖竜の遺跡』に潜った奴を連れて来いよ」


 ソロで潜ったとは思わないか。まあ、普通はそう考えるよな。


「他の奴のことはそっちで勝手に調べろよ。俺だけで良いなら直ぐに相手になるけど」


「なるほどな……アレク、てめえも仲間と仲が悪いんだろ。腐れ縁って奴だよな……仕方ねえな。今回はてめえだけで勘弁してやるぜ」


 また勝手に誤解してるし。思い込みが激しい奴だな。

 俺にとって都合の良い誤解だから今度は放置するけど。


「日時は明日の正午。場所は俺の城だ。アレク、逃げるんじゃねえぞ」


 トライアンフは勝手に決めると、何事もなかったように再び酒を飲み始める。いや、喋ってる最中も飲んでたけどな。

 グランとガルドも酒に強いけど、こいつは本当に水みたいに飲むよな。


 まあ、そんなことはどうでも良いけど。とりあえずみんなを巻き込まずに済んだから良いか。

 あとはどうやってトライアンフを納得させるかだけど……幾つか考えがあるから試してみるか。


※ ※ ※ ※


 翌日。トライアンフとの約束通りに城に向かう。

 と言っても、時間ギリギリまで『ビステルタの霊廟』に潜ってたけどな。

 いや、別に準備することなんてないし。時間があればダンジョンに潜るのが俺のモットーだからな。


 みんなを連れて行く必要はないけど、一緒に行くと言うから止めなかった。

 面倒なことになりそうだから本当は連れて行きたくないんだけど。最悪の場合はエリザベスとサターニャに介入して貰うしかないな。


 トライアンフのレベルやステータス、スキルなどのデータはみんなにも教えておいた。知らないと対処の仕方を間違えるからな。

 みんなが唖然としてたから、俺なら勝てるから問題ないとも伝えておいた。


 トライアンフの城に行くと普通に中に通された。鋼鉄騎士団の奴らもいたけど、そこまで警戒してされてないみたいだ。

 いや、俺が元魔王だって知ってるなら、もっと警戒しろよって言いたいけどな。


 天井が高い回廊を歩いて中庭にある闘技場に向かう。

 おい、城の中に闘技場なんて普通は作るか? ゲームのときはなかったよな。

 ツッコミどころ満載だけど、全部トライアンフのせいだろうな。


「アレク、待っていたぜ。さすがに逃げなかったか」


 今日のトライアンフは完全装備だ。金色のフルプレートに、鉄板のように太くてゴツい大剣。

 全部『始祖竜の遺跡』産だな。

 こいつのレベルを考えると妥当な装備ってところだな。


「てめえは『イビルスレイヤー』の二刀流に『ミラーアーマー』か。なかなか良い趣味してるじゃねえか」


 俺が『始祖竜の遺跡』に潜ったことはバレてるからな。レイナたちに渡したモノより少し上の装備を用意した。

 『始祖竜の遺跡』の第3階層までにドロップするアイテムの定番で、名前の割に特殊効果がない分だけ性能が高い。

 いや、装備なんてどうでも良いんだけど。弱過ぎると変に勘ぐられるし。強過ぎると『始祖竜の遺跡』を完全攻略したことまでバレる可能性があるからな。


「てめえは魔王なんだからよ、魔法も好きに使って構わねえぜ。そのためにここを選んだんだからな」


 闘技場なら余計なものを壊すことはないって思ってるのか。

 『深淵の支配者』閣下はクレーターの大きさから俺が1,000レベル超えだと推測したみたいけど、トライアンフは信じてないからな。


 さすがに『流星雨メテオレイン』は大惨事になるから使わないけど。他の攻撃魔法も手加減するのが難しいからな。

 文句を言われるまで使うつもりはないんだけど。

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