第75話 乱入者
「じゃあ、早速始めようぜ。アレク、てめえから掛かって来いや!」
観客席に帝国軍の騎士や兵士がいるのは、トライアンフが自分の勝利を微塵も疑ってないからだ。
余裕の態度もちょっとムカつくけど。怒ったら負けだからな。
みんなが観客席に着くのを待ってからスタートする。
「トライアンフ、遠慮はしないからな」
俺は一瞬で距離を詰めて2本の剣を叩き込む。
トライアンフは大剣を横凪にして軽々と受け止めた。
「おい。スキルをガンガン使えよ。こんな攻撃じゃ俺のHPは削れねえぜ」
まあ、手加減してるからな。
「じゃあ、遠慮なく。『
リクエストに応えて片手剣用最上位スキルを連発する。派手に見えるけどSTRで調整できるから、手加減しやすいんだよ。
「魔王だから最上位スキルが使えるのは当然だがよ。まるでパワー不足だな。そんなんじゃ最上位スキルが泣くぜ」
何なんだよ、この上から目線。面倒臭くなってきたから早く終わらせるか。
「おまえの方こそ、さっきから受けてるだけだろ。固いだけじゃアタッカーじゃなくてタンクだな。トライアンフ、おまえの本気って奴を見せてくれよ」
安っぽい挑発を言うのは恥ずかしいな。ほとんど某読みだし。だけど効果はあった。
「ああ……見せてやるぜ! 『
トライアンフが使ったのは両手剣用の最上位スキル。しかもスキルポイントを注ぎ込んでレベルMAXまで上げてるから本気も本気だ。
赤い焔を纏う一撃に、俺は闘技場の端まで吹き飛ばされる……勿論、自分で飛んだけど。
「「「アレク!」」」
エリスたちが本気で心配してる。演技するって言っておいたよな。
それよりもトライアンフ、おまえなあ……俺が『始祖竜の遺跡』で2階層止まりとか言ってたよな。
だったらせいぜい5、600レベル台だろ。そんな奴が今の攻撃食らった一撃死するからな。
まあ、挑発したのは俺だし。それっぽく見えたから勘弁してやるか。
俺は『
「俺の負けだ。トライアンフ……頼むから、殺さないでくれよ」
また台詞が棒読みだな。今度演技の練習をしないと。
「何だあ、アレク? 全然歯ごたえがねえな。まあ、俺の一撃で死ななかっただけでも褒めてやるぜ」
こんなことを言ってるけど、トライアンフは満足そうだ。
でもこれで話が収まるなら良いか……って、思ってたんだけど。
「いや、ちょっと待ってくれ! 魔王アレク、『偽装の指輪』を外してくれないか」
突然乱入して来たのは、藍色の髪と灰色の瞳の20代後半の男。こいつ、いきなり何言ってるんだよ。
後ろにいるのはキスダル・パラミリだし。
「アレックス、勝手に来るんじゃねえよ。俺がケリをつけるって言っただろうが」
トライアンフが文句を言ってる。さっき変なことを言ってたけど、こいつは昔の仲間と仲が悪いのか。
みんなにとってはキスダルも初見だな。いきなり『
「トライアンフ、悪いが魔王アレクと話をさせてくれ。なあ、アレク……『偽装の指輪』を付けているのだろう。外してステータスを見せてくれないか」
「嫌だよ。『
俺の一言でアレックスの顔色が変わる。
「キスダル、おまえ……余計なことまで喋ったな!」
「『深淵の支配者』閣下、余計なことではありません。私はお仕えしている『深淵の支配者』閣下を『深淵の支配者』閣下とお呼びしただけです」
「おい……頼むから、その名前を連呼するのは止めてくれよ!」
キスダルは絶対にわざとやってるよな。
だけど話が纏まりそうなところに乱入して、余計なことを言ったおまえが悪いんだよ。
「そ、そんなことよりだ。魔王アレク。ステータスを見せないなら、レベルを偽装してるって認めているようなものだろう」
「ちょっと、勝手なことを言わないでよ。アレクがステータスを見せる義理なんてないじゃない!」
「そうだよ! いきなり他人にステータスを見せろだなんて、デリカシーがないよね!」
今度はみんなが乱入して来た。
まあ、もう誤魔化すのは無理だし。このままじゃ収拾がつかないからな。
「なあ、『深淵の支配者』閣下。ステータスを見せるのは却下だけど、その代わりに一つ提案があるんだ。
王都の外までつき合えば、俺がどうやってクレーターを作ったか見せてやるよ。これ以上俺たちのことを詮索しないことが条件だけどな」
こいつは俺の力を知りたいようだから、それくらい見せても構わない。
どうせ『
「俺はその条件で構わない……いや、こちらにも条件がある。『深淵の支配者』閣下って2度と呼ばないでくれ。俺はアレックス・スティンガーだ」
ああ。
アレックス・スティンガーが『深淵の支配者』閣下で、ガスライト帝国の宰相だってことも。こいつに会う前に諜報部隊から聞いていたからな。
ついでに言えばアレックスが怪しい連中と会っていて、その中にトライアンフがいたこともね。
『深淵の支配者』閣下のレベルが解らないから、諜報部隊をベタ付けにすることはできなかった。
相手の方がレベルが高かったら『認識阻害』を使ってもバレるからな。
だから何を話したかまでは知らなかったけど。トライアンフが喋ってくれたから、だいたい解ったよ。
それにしてもアレックスって、『深淵の支配者』閣下って言われるのが本当に嫌なんだな。
「解ったよ、アレックス。俺の方は必要ないと思うけど一応名乗っておく。アレク・クロネンワース。
俺たちが何を話してるのか、トライアンフはイマイチ解ってないみたいだけど。
今はアレックスと話をつける方が優先だし。どうせ見れば解ることだからな。
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