第68話 良く解らない
レイナ、ソフィア、エリスとクエスの対決を、俺は暫く黙って見てた。
俺のことで揉めているみたいだけど、正直に言って揉める理由が良く解らない。
だってエリスたちは俺の仲間だけど。クエスには悪いが頑張ってるから応援しているだけで、クエスは唯の知り合いだからな。
「おまえらさ、いい加減にしろよ。喧嘩を売ったクエスも悪いけど、いつまでそうしてるつもりだ? クエスも俺の仲間に喧嘩を売るなら、シャトラにはもう来ないからな」
「「「「アレク(様)……」」」」
反応はそれぞれ違うけど、今度は黙れとは言わなかった。
いや、もう黙ってるつもりはないけどな。
「今日のクエスの行動はおかしいけど、おまえはそんな奴じゃないだろ。なあ、クエス。みんなに謝れよ。今謝ればみんなだって許してくれると思うから」
「アレク様……(格好良い!)」
え……なんかクエスの反応がおかしいんだけど。俺の話を聞いてるのか?
「アレク……ううん。みんな、ごめんさない。いきなり喧嘩してる私たちも自分勝手よね。反省してるわ。
クエスさん。貴方は私たちが気に入らないみたいだけど、こんなことをしてもアレクが困るだけよ」
エリスは諭すようにクエスに告げる。自分が悪いと思ったら直ぐに反省して前に進む。
こういうところがエリスらしいな。
「私も悪かったわよ。クエス、喧嘩を売るならいくらでも買うけど。あんたになんか絶対に負けないから!」
レイナはフンッと鼻で笑って胸を張る。レイナは喧嘩っ早いけど、いつでも本気だからな。
「私も……アレク、みんな、ゴメン。クエスさんの気持ちも解る気がするけど、こういうのは良くないよね」
ソフィアはたまに暴走するけど、ソフィアなりに頑張ってるだけだからな。
「アレク様……私が思い上がっていました。皆さんも、ご不快な発言をしてしまいまして、申し訳ありません」
クエスが深く頭を下げて謝ってる。さっきの様子は……俺の見間違いか?
※ ※ ※ ※
俺たちはクエスに案内して貰って、復興が行われている現場へと向かった。
数か月前は魔族軍に占領されていたとは思えないほど、シャトラの街は活気に満ちていた。
まだ物資は不足してるけど、シャンパルーナ各地から冒険者たちが隊商を護衛をして運んでいるから、生活に困るほどではないらしい。
ルミナス砦にも『
これで魔族軍が再び侵攻して来ても、相手がジェリルのような奴じゃなければ問題ないな。
新しい産業の方は魔法を利用した工具の開発と、荒地でも育つ作物の栽培を始めていた。発案はクエスだけど、具体的な物の選定は公募したそうだ。
こっちも現場を見せて貰ったけど、俺は素人だから良く解らない。
まあ、クエスは優秀だからな。俺の意見なんて要らないだろ。一応投資したことになってるから相談には乗るけど、こういう分野で俺が力になれるとは思えない。
クレスもその辺りは解ってるみたいで、報告を聞きに来たときも仕事の話より雑談の方が多かったからな。
だったら何で俺に報告するのかって話だけど、クエスは気兼ねなく話せる相手が欲しいんじゃないか。
シャンパルーナの王家と不仲だって話だし、爵位を継いだばかりで心労も多いだろう。だから話くらい聞いてやるよ。この国のしがらみと無縁な俺なら何を話しても問題ないからな。
さっき態度がおかしかったのも、ストレスが溜まってるからか? だったら悪いことをしたな。
もし王家が力ずくで来たら、そのときは俺がどうにかするよ。それくらいしか俺にはできないからな。
一通り視察が終わって夕方になると、俺たちはクエスの居城に向かった。
今夜はシャトラに泊ることになっていて、クエスから夕食にも招かれている。
先に風呂に入ればと言われたので、素直に従った。
お湯を贅沢に使った城の大浴場は気持ち良い。こっちの世界でもそれなりに風呂に入るけど、広い風呂なんて滅多にないからな。
『始祖竜の遺跡』にもアギトが造った豪華な浴場があるけど、エリザベスとサターニャが何かとやらかすから、ゆっくり入れないんだよ。
「なあ、アレク……クエスのことだけどよ」
一緒に風呂に入っていたグランが話し掛けて来た。
「ソフィアたちと会わせない方が良かったんじゃねえのか。喧嘩になるのは初めから解っていただろう」
「いつものクエスはあんな奴じゃないんだ。たぶんストレスのせいでおかしくなってたんだよ。クエスも反省してると思うから、許してやってくれよ」
「いや、そういう話じゃなくてよ……まあ、アレクが相手にしてないことはソフィアたちも解ったみたいだからな。これ以上抉れないだろうけどよ」
「俺がクエスを相手にしてない? そんなことはないぞ。あいつは領民のために頑張ってるからな。俺はできるだけ応援したいと思ってるよ」
「……アレク。おまえこそ、いい加減に自覚しろよな」
うん? グラン、何の話だよ。
「おい、グラン……止めておけ。男がそんなことに口を挟むもんじゃないだろ」
「でもよ、ガルドの旦那……」
「僕もガルドの意見に賛成だな」
え……驚いてるのは俺だけじゃなかった。
こういう会話にカイが参加するのは珍しいからな。
「自分の意見を押しつけない方が良い。グランはデリカシーがないから尚更ね」
「へー……カイも言うじゃねえか。なるほどな……おまえとメアのことも口出しするなってことかよ」
え……
「グラン! だから君はデリカシーが無いって言われるんだよ! 君だってシーラと付き合ってるじゃないか!」
えー!
「俺は別に隠してねえからな。
「マジか……それって、いつからだよ?」
「俺とシーラはアレクと会う前からな。カイとメアは、確か2週間くらい前にカイが告白したんだよな?」
「だからグラン! ……正確には12日前だ」
いつもクールなカイが真っ赤になってるのは、のぼせたせいじゃないよな。
「全然気づかなかったよ。カイ、おめでとう……で良いんだよな?」
「ああ、アレク。ありがとう……」
ソフィアの俺に対する態度があからさまなのも、周りがカップルばかりだからか。
だけどソフィアが気に入ってるのは俺じゃなくて、魔王アレクだからな。
ソフィアもそのうち気づくだろうし……
「アレク……これ以上は詮索しねえからよ。1つだけ訊いても良いか?」
「何だよ、グラン」
「おまえが調子に乗るような奴じゃねえことは解ってるけどよ。俺はパーティーの仲間として、ソフィアが可愛そうだって思っちまうんだ。あいつは天然だけど良い奴だからな。
だからおまえに気がないなら、ハッキリ言ってやった方が良いと思うんだが。何で言わねえんだ?」
グランは確かに不躾でお節介な奴だけど決して悪気はない。みんなのことを真剣に考えているんだ。
身体を張ってみんなを守るのも、タンクだからってだけじゃない。
「グランが言いたいことは解るけど、俺は『転生者』だからな。みんなとは感覚が違うんだ。
俺は2年半ほど前に突然前世の記憶に目覚めて、それまでのアレクの記憶は他人の記憶みたいに感じるんだ。他人の中に自分がいるような感覚だな。
だから誰かに好きって言われても、それが自分のことだって思えない。好きとか嫌いとかそういう話じゃないんだよ」
ソフィアに対してだけじゃない。エリザベスとサターニャも『遺跡の支配者』の強制力がもしないとしても、俺は2人の気持ちを受け入れることはできないだろう。
「アレク、それってよ……俺たちの仲間だって気持ちも信じられないってことか?」
グランが真剣な目で俺を見る。
「いや、俺だってそこまで馬鹿じゃないからな。俺が元魔王だって言っても受け入れてくれたグランたちの気持ちを疑ったりしないよ。だけどさ、俺は前世でも恋愛経験ゼロだからな。そもそも人を好きになるって感覚が解らないんだよ」
前世ではボッチだったけど、友達って感覚はなんとなく解ってきた。
たぶん子供の頃は遊び友達くらいいた筈だから、まだ感覚的に解るんだよ。
だけど恋愛になると全く経験がないからな。人を好きになったことのない俺には、相手の気持ちも本当のところは良く解らない。
だから今の状況を頭で考えて判断しているだけだ。
「そういうことか……解ったぜ、アレク。もう俺も余計なことはしねえ」
「ああ、グラン。助かるよ」
「だけど俺はソフィアのことをこれからも応援するぜ。まだ時間が必要ってだけで、ソフィアに芽がない訳じゃねえみたいだからな」
おい、グラン。それは余計なことじゃないのか?
まあ、こんな風に男だけで話をするのも悪くないな。
それにしてもグランとカイがねえ……前世で死んだ年齢に記憶に目覚めてからの2年半を足すと俺の方が年上だけど、恋愛経験じゃ完全に負けてるな。
だけどさ、メアとシーラに会ったら……俺はどんな顔をすれば良いんだよ?
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