第67話 対決


 移動系の魔法はレベルを上げると速度が速くなるけど、運べる人数も増えるんだよ。

 ということで……


「『転移魔法テレポート』」


 レベルMAXの『転移魔法』で俺たちが向かったのは、エルフの国シャンパルーナの第2都市シャトラ。ここに寄りたかった理由は、クエスに用があるからだ。


 魔族の転生者ジェリル・スレイアの一件が終わった後も、俺は結構な頻度でクエスに会っている。

 一応出資者だからな。『伝言メッセージ』で報告したいことがあると言われたら、無下に断る訳にもいかないだろ。


 だけど来るのは毎回夜だから、現場の状況がイマイチ良く解らなくて、1度昼間に来たいと思ってたんだよ。

 次の目的地のドワーフの国ギガンテはシャンパルーナの隣だからな。シャトラに『転移魔法』で移動すれば移動時間も稼げるから問題ないだろ。


「『転移魔法』で、これだけの人数と馬まで運べるのか……」


 魔術士のカイが唖然としている。俺は『転移魔法』で11人全員と風の馬ウインドホース、俺のグリフォンを同時に転移させた。

 カイも『転移魔法』を使えるようになったけど、普通の『転移魔法』じゃ自分以外は転移できないからな。


「『転移魔法』なんて初めての経験だけど。本当に一瞬で移動できるんだね」


「アレク、こんなに便利な魔法があるならもっと早く使いなさいよ。馬で移動するのが馬鹿らしくなるわ」


「一度行った場所にしか転移できないからな。そこまで便利には使えないんだよ」


 レイナは『転移魔法』が気に入ったみたいだな。だけど俺はタクシーじゃないからな。


「レイナも解っているわよね。アレクだから簡単そうに見えるけど、気楽に頼んで良いような魔法じゃないわよ」


「勿論、解ってるわよ……アレク、ごめん。ちょっと調子に乗ったわ」


 エリスは本当にリーダーって感じだよな。レイナも文句は言っても、結局は素直に従っている。

 エリスは悪いところを注意するけど、きちんと説明してフォローもする。だからみんなも納得して、エリスをリーダーとして信頼してるんだよ。


 シャルナの街を歩いてクエスの居城に着くと、クエスは直ぐに城の中から出て来た。


「アレク様……お待ちしておりました!」


 今日のクエスは水色のドレスを着ている。いつも寝間着姿しか見ていないから、ちょっと新鮮だな。

 だけど胸元が露出し過ぎてる気がするんだけど……

 そんなことを考えていたら、いきなりクエスが俺の胸に飛び込んで来た。


「おい、クエス。何をやってんだよ」


「アレク様、申し訳ございません。久しぶりにお会いできたことが嬉しくてつい」


 久しぶりってなあ。一昨日会ってるだろ。


「アレク……こいつ、誰よ?」


「この子、何なの? いきなりアレクに抱きついて……」


 レイナはいきなりこいつ呼ばわりしてるし。ソフィアも猫みたいに警戒してる。

 エリスは笑顔だけど……目が笑ってないな。


「みんなに紹介するよ。彼女はクエス・イルマーハ辺境伯。シャトラの領主だ」


「で……どうしてエルフの貴族が、アレクに馴れ馴れしくしてる訳?」


 今日のレイナはいつにも増して攻撃的だな。


「俺はウルキア公国でみんなと別れた後、シャンパルーナでシャトラを占領していた魔族軍と戦ったんだよ。クエスとはそのときに知り合いになったんだ」


「え……アレク様は私を唯の知り合いと仰るのですか? 毎晩のように私の部屋にいらして、色んなことを教えて下さったのに……」


「なあ、クエス。ちょっと黙ろうか」


 みんなの目が冷たい。レイナは思いきり睨んでるんだけど。


「みんな、誤解だからな。俺は訳ありでクエスに出資しているから、イルマーハ辺境伯領の復興と産業の発展について報告を受けてるだけだよ。

 夜に来たのは昼間はみんなと一緒にいるからで。クエスの部屋に行ったのも、夜は使用人が休んでるから直接部屋に来てくれって言われたからだ」


 俺は本当のことを言ってるんだけど。クエスの言葉の後だ言い訳にしか聞こえないかもな。


「ふーん……このエルフが妄想を言ってることは解ったわよ」


「そうだよね。アレクがそんなことする筈がないよ」


「クエスさん、悪ふざけが過ぎると思うわ」


 みんな、俺を信じてくれるのか。ありがとうな。


「でも原因を作ったのはアレクよね。あんたは女に甘いから」


「そうだよね……いきなり抱きつかれても、アレクなら避けられる筈だよ」


「それは……私も否定しないわ」


 おい、みんな……てのひら返しってこう言うことだよな。俺が何か悪いことをしたのか?


「皆さん、申し訳ありません。勝手にはしゃいでしまいまして。アレク様にもご迷惑をお掛けしました」


 助け舟を出してくれたのは、意外なことにクエスだった。

 殊勝な感じで俺から離れて、頭を下げる。


「改めまして、クエス・イルマーハと申します。シャトラの領主として、皆さんを歓迎させて頂きます」


 クエスは凛とした佇まいで笑みを浮かべる。

 美形揃いのエルフの中でも、クエスは一際目立つ美少女だ。その上、辺境伯としての自覚を持った彼女は、大人びた魅力も感じさせるけど……

 言葉は丁寧なのに、レイナたちを挑発しているように見えるのは何故だ?


 みんなも同じように感じているらしく。


「ふーん……良い度胸じゃない。受けて立つわよ」


「私だって、新キャラなんかに負けないからね」


「貴方がそういう態度なら、私にも考えがあるわ」


 レイナ、ソフィア、エリスの視線を受け止めて、クエスはクスリと笑う。


「皆さん、何を仰っているのですか? エリザベス様から伺っていますが。アプローチもできない皆さんでは、相手にもなりませんよ」


 おい。何でエリザベスの名前が出てくるんだ?

 グランたちは残念な奴を見るような目で見てるし……この状況、どういうことだよ?


「なあ、みんな。ちょっと落ち着つけよ」


「「「「アレク(様)は黙っていて(下さい)!」」」」


 え……俺の扱いって……

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