第62話 観察者 ※???視点※
※???視点※
ほう……わずか11人で魔族軍の大規模侵攻を止めたのか。
まあ、転生者だったら不思議じゃないがな。
それよりも、あの仮面の男……仮面などしているから初めは気づかなかったが、人間に化けていても素顔は魔王アレク・クロネンワースそのものじゃないか。
だが……これで全てのピースが繋がったな。
『始祖竜の遺跡』に謎の侵入者が現れたこと。
魔王アレクが魔都グレイダラスから忽然と姿を消したこと。
魔族の地方貴族ガーランド・バッシュがメインキャラたちに最初のイベントで殺されたこと。
そして今回の魔族軍の大規模侵攻の阻止だ。
これらの全てが、魔王アレクに
最初に起きた事件は、2年半前の『始祖竜の遺跡』への侵入者だ。
しかし『始祖竜の遺跡』の扉は確かに開かれたが、侵入者の姿までは確認できなかった……用心深い侵入者が魔法で姿を隠していたからだ。
当時の俺たちには、侵入者の正体を確かめるために『始祖竜の遺跡』に潜れるレベルの戦力を割く余裕はなかった……今もそんな余裕はないがな。
それにセーブもリセットも出来ないこの世界で『始祖竜の遺跡』に侵入者した奴の末路なんて知れているからと、結局は放置することにした。
次に起きた事件は1年半ほど前。魔王アレクの突然の失踪だ。
ゲームでは起きなかった事件に、俺たちはアレクが転生者ではないかと疑った。
だがアレクの失踪は『始祖竜の遺跡』に侵入者が現れてから1年後だったから、当時の俺たちがアレクと転生者を結びつけて考えることはなかった。
そして今から半年ほど前。エボファンの最初のイベントでガーランドがメインキャラに殺された。
俺たちはメインキャラの誰か、あるいは複数人が転生者であると確証した。
最初のイベントの時点でメインキャラがガーランドを倒すなど、転生者の関与以外にあり得ないからだ。
しかしガーランドを殺したとはいえ、ガーランドが率いていた魔族軍まで全滅させた訳じゃない。
俺たちは警戒するほどの相手じゃないと思っていた。
だから確認するのを怠り、この時点で魔王アレクとメインキャラたちが手を組んでいることに気づくことができなかった。
俺たちが甘かったと言えばその通りだが……
魔王アレクとメインキャラが手を組むだけなら、そこまでの脅威じゃない。
魔族軍の大規模侵攻を阻止したことだって、俺たちなら同じことがもっと簡単にできる。
そんなことよりも、俺が脅威に感じるのは……カスバル要塞の前にできた巨大なクレーターの方だ。
モンスターを率いた魔族が突然現れて、宣戦布告ととも魔法を放ってクレーターを作ったという話だが……そいつは魔王アレクに間違いない。
現れたタイミングがあまりにも良過ぎるし、仮に別人だとしたら魔王アレクすら凌ぐ実力者だ。
そんな奴が実在したら、現魔王カストロ・オルスタッシュを退けて、とうに魔王になっているだろう。
クレーターを作った魔法はおそらく『
俺はスペルキャスターではないから詳しくないが、第10界層魔法をそこまで強化するだけのスキルポイントがあるということは……キャラレベルも1,000レベルどころじゃないのは確かだ。
ゲームの魔王アレクはラスボスと言っても、所詮は400レベル台だ。
そして1,000レベル超までレベルを上げられる場所は『始祖竜の遺跡』しかない。
全部状況証拠だが、これだけ証拠が揃えば……『始祖竜の遺跡』に侵入したのも、巨大なクレータを作ったのも、魔王アレクだと考えるのが妥当だろう。
『
だがそうなると、逆に解らないことがある。
1つは魔王アレクは
幾ら魔王アレクに転生したとしても、ソロで『始祖竜の遺跡』に挑むなど、どう考えても自殺行為だ。
アレクに転生した奴が
だが魔族軍の中に1,000レベル超の存在などいない。
つまりアレクのパーティーメンバーは魔族以外だったということだ。
一番可能性が高いのはメインキャラたちだが……そうなると奴らもレベルを偽装してることになる。
わずか5、60レベルのメインキャラたちが、10万を超える魔族軍を突破するのはおかしいと思ったが、それならば納得できる。
だがそれでも解らないのは、魔王アレクに転生した奴の目的だ。
1,000レベル超ならば、この世界を征服することも可能だろう。
勿論そんなことを本当にやるつもりなら、俺たちが全力で阻止するがな。
しかしアレクは世界征服を企むどころか、魔王の地位を捨てて魔族軍の侵攻を阻んだ。
こんなことをする理由は……まさか単純にエボファンの世界とメインキャラが好きだからか?
いや。そんな馬鹿なことを考えるなんて、さすがにあり得ないだろう。
とにかく、まだ情報が足りないから、判断を下すのは早計だ。
まずはこの情報を持ち帰って、
俺は『
※ ※ ※ ※
転移した先は、全てを黒曜石で作った俺の城……やはり、ここが一番落ち着く。
「キスダル、今帰ったぞ……控えているんだろう。今直ぐ姿を現わせ!」
「御意……『
俺を迎えたのは
これでもキスダル・パラミリは325レベルだ。
だが、そんなことよりも……
「ゴッ、ゴボン……キスダル、その名で呼ぶなと何度も言ってるだろう!」
「ですが……申し訳ありません。私にとっては『深淵の支配者』閣下は、『深淵の支配者』閣下以外のどなたでもございません!」
おい、連呼するなよ……確かに俺の自業自得だが。
前世で中学生で死んだ俺は、転生したばかりの頃真性の中二病だった。
ああ……過去の自分を呪いたい。
「……まあ、この際それはどうでも良い。キスダル、頼みたいことがある。魔王アレクに転生した奴を見つけたから、今後おまえが奴を監視してくれ」
「御意……必ずや『深淵の支配者』閣下のご期待に応えましょう」
おい、まだ言うか……
「だがな、魔王アレクを尾行するのは絶対に止めろ。おまえのレベルだと気づかれて、逆に尻尾を掴まれることになるからな。
監視なんかしなくても、派手なことばかりやる奴だからな。近くにいるだけで情報を掴める筈だ」
「それほどの相手なのですか……楽しみです」
キスダルは幼さが残る顔に、性格異常者のように狂気の混じった笑みを浮かべる……いや、実際に性格は歪んでいるがな。
「ああ。俺が本気で警戒するレベルの相手だ。俺はこれから、昔の仲間のところに行って来るよ。あいつらに会うのは面倒だが、背に腹は代えられないからな」
この世界に一緒に転生して、『始祖竜の遺跡』にも一緒に潜った仲間たちの
本当に面倒臭い奴らだが、久しぶりに会って、魔王アレクの対策を練らなければな。
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