第63話 戦後処理


 俺たちがカスバル要塞に戻ると、聖王国軍の兵士の反応が前回とは違った。

 兵士たちは俺たちに近づいて来るどころか、後退って化物を見るような顔をしている。


 まあ、敵のど真ん中を強行突破してモンスターと魔族を殺し捲ったし。こうなることは予想していたからな。


「ア、アレク殿……いや、他の冒険者の諸君もだ! 本当に良くやってくれた!」


 エルリックは王太子だからな。兵士たちの手前逃げる訳には行かないけど。俺は同情する気なんてないからな。


「諸君は聖王国を勝利に導いた最大の功労者だ。私は王太子として誇らしく思うよ……そうだ、諸君には報奨として爵位を与えよう!

 冒険者など・・いつまでも続けるものではなかろう? 騎士爵……いや、男爵だ。勿論、爵位に相応の所領も用意しよう!」


 さすがって言うか、エルリックは懲りないよな。今度はみんなを取り込もうってことだろ。エリスだけ無視してるのもマジでムカつくな。

 だけど爵位を貰うのは悪い話じゃない。みんなが望むなら俺が邪魔する権利はないけど……みんな呆れてるし。そんな雰囲気じゃないな。


「なあ、エルリック。勘違いするなよ。俺たちは聖王国のためじゃなくて、自分たちのために戦ったんだからな。報奨とかそんなのどうでも良いんだよ」


 出撃する前にエリスも言ったよな。それでも純粋な感謝なら受けても良いけど、おまえは体裁と利害しか頭にないだろ。


「……」


 面子を失ったエルリックは怒りで震えながら、引きつった笑みを浮かべてる。

 せっかく怒りの矛先を逸らしてくれたエリスには悪いけど、俺はこいつが嫌いなんだよ。


「話はそれで終わりか? だったら俺たちは帰るからな」


 カスバル要塞を出てから、隣にいるエリスに話し掛ける。


「エリス……さっきは悪かったな」


「何言ってるのよ、アレク。貴方が私のために怒ってくれたことくらい解ってるわ」


 エリスは嬉しそうな笑みを浮かべる。いやエリスを無視したことにはムカついたけど、エルリックに喧嘩を売ったのはそれだけが理由じゃないからな。


「それに王太子殿下・・・・・はアレクに喧嘩を売る度胸はないみたいだから、そこまで心配する必要はなさそうね」


 敬称に全然敬意が込もってないな。エリスは王家と縁を切ることで吹っ切れた感じがする。

 最初に会った頃は、エリスの役目を果たすとか言ってたけど。今のエリスはゲームとは違う生き方を自分で選んだんだよな。

 俺は仲間として、エリスが選んだ生き方を応援したい。


「でも、もしかして……アレクは私たちの力を王太子殿下に見せるために、一緒に連れて行ったの?」


「まあ……それも理由の1つだな」


 みんなの力を見せつければ、エルリックは手を出さないと思っていた。俺が近衛騎士を物理的に黙らせときも、子供みたいに怯えてたからな。

 俺の場合は怒りを買ったから、エルリックが恐怖を忘れた頃に陰湿な手を打って来る可能性はあるけど。

 みんなは喧嘩を売った訳じゃないからな。力の差を見せつければ、向こうから仕掛けて来ることはないと思う。


「だけど結局のところ、俺はみんなと一緒に戦いたかっただけだよ。一緒に戦うのが楽しいからな」

 

「ふーん……やっぱりね。あんたは何か企んでるって思ってたわよ」


 急に話に割り込んで来たレイナが、呆れた顔をする。

 だけど、ちょっと嬉しそうに見えるのは俺の気のせいか?


「そうなんだ……私はアレクが私のためにしてくれたことが嬉しいよ」


 おい、ソフィアまで……だから勘違いするなって。


「いや、だからさ。俺はまたエルリックに喧嘩を売ったからな。俺の仲間って理由で、みんなが狙われる可能もあるだろ。

 それにみんなには謝らないといけないよな。勝手に褒賞を断って悪かったよ」


「アレク、おまえなあ……おまえが俺たちの代わりに断ったことくらい解ってるって。冒険者など・・とか、何様のつもりだよ。アレクが言わなかったら、俺が喧嘩を売ってたぜ」


 グランの言葉にみんなが頷く。


「それによ。おまえが回収したドロップアイテムと金で報酬なら十分だろ」


 何だよ、気づいていたのか。俺は余裕があったから、みんなが倒した分も含めてモンスターからドロップしたアイテムと金は全部回収しておいた。

 あの状況で回収しないと、魔族軍の兵士にマジでネコババされるからな。


「そんなもので構わないなら、回収したアイテムと金は全部みんなで分けてくれよ」


「いや、そういうんじゃなくてよ……なあ、ガルドの旦那」


「ああ……なあ、アレク。その、なんだ……俺たちはおまえに感謝してるんだ。俺たちのために戦ってくれたことも、俺たちが精一杯戦えるようにフォローしてくれたこともな」


「おい、止めてくれよ……俺は自分がやりたいことをやっただけだからな」


 それは自分も同じだからと、みんなの笑みが語ってる……それくらい俺にも解るよ。


「普段はこれだけ察しが良いのに……恋愛関係には鈍感なアレクは残念過ぎるっす」


「そうね……ソフィアとエリスとレイナが可哀そうだわ」


 シーラとメアが小声で何か話していいるけど。ジト目で見てるのは、どういうことだ?


「な……何言ってんのよ。私はそんなんじゃないから!」


 レイナには聞こえてたのか。それにしてもレイナがツンデレっぽい理由が良く解らない。


「それは私だって……」


 エリスまで顔が赤いのは何でだよ?


「わ、私は……ほ、本気でアレクのことが……」


 いや、ソフィアの言いたいことは解るけどさ……だから勘違いだって。

 おまえが好きなのは魔王アレクで、転生した俺じゃないからな。


 それにしても……今回のイベントの展開は、ゲームと全く変わってしまったよな。

 ゲームのときは、エリスたちメインキャラはカスバル要塞の戦いに参加すらしなかった。

 魔族の大規模侵攻でカスバル要塞はアッサリと陥落して、その時点で司令官のグレゴリーは戦死する。

 エリスたちがこのイベントに絡むのは、城塞から脱出した生き残りを救出する依頼を請けるところからだ。


 その後も聖王国は防戦一方で、エリスたちは魔族軍が侵攻する先の村から人々を避難させたり。聖王国軍に物資を運ぶ隊商を守ったりと、地味に活躍する。

 まあ、この時点でエリスたちは30レベル台だからな。派手に活躍できる筈もないんだけど。


 魔族軍がクルセア付近まで侵攻したところで、聖王国軍はようやく反撃を開始する。

 聖王国軍は大きな被害を出しながらも、何とか魔族軍を撃退する。

 このイベントが引き金になって、魔族と諸種族連合の戦争が本格的に始まるんだよな。


 だけど今回は聖王国軍にも魔族軍にも大きな犠牲は出てない。俺たちはモンスターを結構倒したけど、魔族の被害はたかが知れてるからな。

 リアルエボファンの世界で、今回の大規模侵攻が戦争の引き金になるかは、正直に言って良く解らない。


 だから次のイベントがどうなるか解らないけど、まだ先の話だからな。俺たちはクラーナの街に戻って祝杯を上げることにした。


『アレク様……私も今回は頑張って活躍したと思いますわ。これからも下界でアレク様の御傍にいたいのですが……駄目でしょうか?』


『こんなことをサターニャが言ってますけど、アレク様は気にすることないですからね。僕がいればサターニャなんて必要ないですから』


『ねえ、エリザベス……余計なことを言わないでくれます? ぶっ殺しますわよ!』


 『伝言メッセージ』が延々と来るけど、おまえたち何やってんだよ。

 まあ、今回はエリザベスとサターニャにも世話になったからな。勿論、頑張ってくれたことには報いるけどさ……

 俺には面倒臭い未来しか想像できないんだよ。

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