第56話 一騎打ち
目から上を覆う例の仮面を付けた俺は、カスバル要塞の外壁から飛び降りた。
モンスターの大軍はクレーターをよじ登って、要塞に迫ろうとしていた。
比較的小型のモンスターが多いけど、キメラやマンティコア、ミノタウロスとかが混じってた。
上空のモンスターはワイバーンやハーピー、ガーゴイルなどの混成部隊だ。
ドラゴンやアンデッド系はいないけど、レベルの高い亜種が混じっている。
俺は
「『
そのまま正面に迫るモンスターの大軍の中に飛び込むと、2本の大剣を振り回して凪払いながら突き進んだ。
それでも冒険者アレクとして戦ってるから、仕止められる数には限界がある。
俺から離れた場所にいるモンスターたちは、そのまま進軍してカスバル要塞に迫った。
カスバル要塞は左右の侵入経路に投石器を集中して配備したから、モンスターが迫るクレーター側に投石器はない。
聖王国軍の兵士たちが矢の雨を浴びせるけど、モンスターは被害など無視して突っ込んで行く。
それでもカスバル要塞は高くて頑丈な外壁に囲まれてるからな。暫くは持つだろう。
問題なのは、空から攻めて来るモンスターの方だ。
「『
「『
2つの第6界層魔法が炸裂して、空から迫るモンスターを纏めて仕止める。
外壁の上から魔法を放ったのはカイとセリカだ。
「『
勇者専用スキルによって、レイナは聖なる力を纏うことができる。
普段のレイナはあまり勇者っぽくないけど、白い光を纏うと如何にも勇者って感じだ。
跳躍力を活かして華麗に空中に舞うと、モンスターを次々と切り裂いていく。
「おう。『
ガルドのスキルによって2本の大剣が強力な波動を帯びる。波動を飛ばして、レベルの高いモンスターを狙い撃ちにする。
「私だって……『
ソフィアはクラスが傭兵だからなのか、性格に反して実戦的なスキルを使う。
『剣舞』は同時に複数の剣を空中に飛ばして操ることができるスキルで、『武器破裂』は武器を破壊するのではなく、武器を爆発させて攻撃するスキルだ。
「てめえら、掛かって来いや! 『
グランのスキルはヘイトを集めると同時に、集めたヘイトを自分の力に変える。
「『
エリスの姫騎士専用スキルは攻防一体の巨大な光の壁を作るものだ。
ヘイトによってモンスターがエリス目掛けて突っ込んで行くと、攻撃力を持つ壁に激突して自爆してしまうのだ。
2人のタンクによって、空中からのモンスターの進撃が足止めされる。
神官のメアとカイとセリカの3人も広域防護魔法を展開してるから、カスバル要塞のかなりの部分がカバーできていた。
それでも迂回したり隙間を突くモンスターもいるから、そこは盗賊系の2人の出番だ。
「『
シーラの『幻影刃』はどこにでもナイフを出現させることができるスキルだ。
目の前にナイフを出現させれば回避不能で、相手が勝手に突っ込んでいく。
「シーラもやるニャ。『
ライラの『影走り』は影のあるところなら自由に瞬間移動できるスキルだ。モンスター自身の影に瞬間移動して、不意打ちで仕留めていく。
まあ、こんな感じで。みんなレベルが上がって本当に強くなったよな。
個々の戦闘能力だけじゃなくて、互いに連携してフォローしてるから全然隙がない。
これなら要塞の方はみんなに任せて大丈夫だな。
俺としての今回の勝利条件は、両軍の死者の数を最小限にして魔族軍を撤退させることだ。
そのためにバレスと共謀して、魔族軍はモンスターだけを先行させてるから魔族の死者はほとんど出ていない。
おかげで俺も何の気兼ねもなく無双できるよ。
群がるモンスターを蹴散らしながら俺は突き進む。
戦闘が始まってから1時間ほどで、すでに5,000体以上のモンスターを倒していた。
みんなも空中のモンスターを粗方倒してしまったから、魔族軍の敗戦は濃厚だ。
だけどこのままだとバレスの司令官としての無能さだけが目立ってしまう。
いや、バレスのことなんて知るかと言いたいところだけどさ。まだ役に立って貰いたいから、奴にも見せ場を作ってやらないとな。
『バレス、そろそろ始めて良いぞ』
『アレク様……憶えていたんですね。私のことなど忘れていると思っていましたよ』
『
槍は俺を掠めてカスバル要塞の外壁まで飛んで行くと、周りのモンスターを巻き込んで突き刺さった。
「ほう……私の槍を躱すとは、君は人間にしておくには惜しいほどの強者のようだね」
槍を投げたのは、紫色のフルプレートを纏う魔族。3つ目で2本の長い角を持つ見た目だけはイケメンのバレス・ロドニアだ。
「おまえは何者だよ? 今の槍はヤバかったな」
自分でも馬鹿っぽいと思うけど、芝居に付き合ってやるか。
俺とバレスの一騎討ち。これがバレスのために用意した見せ場だ。
だけどバレス、おまえは本気で当てるつもりだったろう。
「私はこの部隊を率いる指揮官のバレス・ロドニアだ。君が好きなように暴れてるから、格の違いというモノを教えに来たんだよ」
バレスはイケメンスマイルを浮かべながら、
今度の槍は灼熱の炎を放つ見るからに凶悪そうな奴だ……まあ、俺が貸した『始祖竜の遺跡』産のマジックアイテム『
今回バレスが上手くやったら、この槍をやるという話になってる。
「言っておくが、さっきのは本気じゃないからね。これから私の本気を見せてあげるよ」
バレスの台詞がウザい……ほら、さっさと投げろよ。
バレスは大きく振り被って、『獄炎の大槍』を放った。
炎の尾を引く槍はさっきの2倍以上の速度で俺に直撃する。
俺は槍の力に抗うことができずに吹き飛ばされて、背中からカスバル要塞の外壁に激突した。
「「「アレク!」」」
エリスとレイナとソフィアが同時に叫ぶ。
まあ、185レベルのバレスのステータスとスキルレベルが高いってのもあるけど。止める気がなかったとはいえ、俺を吹き飛ばすことができたのは『獄炎の大槍』の性能のおかげだな。うん。『始祖竜の遺跡』産のアイテムの性能は優秀だ。
だけどさ、何でエリスたちは心配そうな顔をしてるんだ?
俺がバレスと共謀していることはみんなにも話して……いや、待てよ。
魔族軍の指揮官としてバレスが参戦することは伝えたけど、裏で繋がってることまでは言ってないな。
さすがに、ちょっとヤバいな。後で謝っておくか。
「みんな、ごめん。心配する必要なんてないからさ」
俺は崩れた壁の中から立ち上がると、エリスたちに向けて笑みを浮かべる。
だけど何故か3人は外壁の上から飛び降りて来た。
「アレク……無理しないで。1人で全部背負い込まなくて良いわ」
「そうよ。あんたには私たちがいるんだから」
「そうだよ。今度は私たちがアレクを守る番だから」
エリスとレイナとソフィアは俺を庇うように立って、周りから押し寄せるモンスターを次々と仕留めていく。
だけど3人が敵意を向けるのは、後方に控えるバレスだ。
ナニこの状況……バレスは嫉妬して舌打ちしてるだろうな。
「みんな、ちょっと待ってくれよ。誤解なんだって……」
まあ、今の俺が何を言っても強がりにしか聞こえないか。
だったら、早く終わらせるしかないな。
『バレス、悪い。殺さないように手加減するからさ』
『え……アレク様、どういうことですか?』
元々の筋書きだと、俺とバレスが互角の戦いを暫く繰り広げた後、最後は俺が辛勝するという流れだった。
だけどこのままだと誤解と言うか、エリスたちを騙してるみたいだからな。
俺は『獄炎の大槍』を拾い上げると、エリスたちを巻き込まないように跳躍してバレスの方に投げ返す。
勿論手加減はしたけど槍系スキルもMAXだし、
元々炎を纏う『獄炎の大槍』は、空気を押し潰す熱で赤く光りながら、一瞬でバレスの足元に突き刺さる。
直撃はしなかったけどバレスは衝撃波で吹き飛ばされて、クレーターの中に新しい大穴ができた。
とりあえずバレスのHPは残ってるみたいだけど、周りのモンスターは全滅だな。
「アレク、今のってわざと……」
「悪いな、みんな。あとで全部説明するから」
3人がジト目で見てるけど、この場を収める方が先だな。
おい、バレス。まだ無事なんだから、さっさと動けよ。
さもないと……俺はバレスが最初に投げた槍を拾い上げる。
『ちょ、ちょっと待ってくださいよ、アレク様! もう1発喰らったら、確実に死にますから!』
バレスは慌てて立ち上がると、部下たちに撤退を指示した。
まだモンスターは2万体以上残ってるし、1万の魔族はほとんど無事だけど。今回の侵攻部隊で最強のバレスまでアッサリ破れたから、反対する部下はいなかった。
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