第54話 挨拶代わり


 カスバル要塞から少し離れた場所で、俺たちは風の馬ウインドホースを止めた。

 さすがに風の馬でもクラーナまで日帰りは無理だし、今日はここで夜営して今後のことを話し合うつもりだ。


 俺たち男がテントを張って、女子が食事の準備をする。

 いや、カイは力仕事じゃ全然役に立たないし、ライラは完全にサボってたけどな。

 ちなみにメニューは肉の串焼きにシチューとパンだ。


「あのグレゴリーっておっさん、本当に頭固かったな」


 焚火を囲んで食べ始めると、グランが顔をしかめた。


「いや、俺は普通の判断だと思うがな。態度は気に食わなかったが」


 グランとガルドは酒を飲み始めている。野営だから交代で見張りをするけど、普通に飲むくらいは2人なら問題ない。


「私もガルド師匠と同じ意見よ。ムカつくけど、軍人なんてあんなもんでしょ」


 意外とみんな冷静だな。もっと怒ってると思ってたよ。


「でも信じてくれないなら、どうすれば良いのかな?」


「アレクが魔王の姿で脅せば手っ取り早いけどニャ」


「ライラ、貴方ね……」


「冗談ニャ、冗談ニャ! エリスも怒ることないニャ」


 ライラも俺が何をしようとしたのか、気づいていたみたいだな。

 王女と聖女の威光が効かないとなると、後はエリスの父親の聖王に頼むしかない。

 だけどエリスが頼んでも動くか解らないし、聖都にエリスが行ったら連れ戻されるだろうからな。


「まあ、結局ライラの案しかないな」


「アレク、それは駄目よ」


 エリスに止められるのは解っていた。

 聖王国軍に冒険者アレク=元魔王アレクだとバレると、もうみんなと一緒にいることができなくなる。

 エリスはそれを心配してくれているんだよな。


「エリス、大丈夫だよ。目の前で魔王の姿にならなければ、人間の姿の俺が魔王アレクだなんて誰も思わないから。

 でも今回は念のために、別の魔族の姿になるよ。魔王の姿を見せなくても、グレゴリーを脅すことはできるからな」


 俺は収納庫ストレージから『変化の指輪』を出して、実際に使って見せる。

 俺が化けたのは身長2m超のゴリマッチョな魔族で、シャンパルーナで倒したジェリル・スレイアを男にした感じだ。

 いや、アレクが魔族に化けるってのも何か変な感じがするけど。


「これなら元魔王だってバレないだろ。俺は魔族軍のフリをして、グレゴリーに宣戦布告するよ。

 適当にモンスターを連れて行って、派手な魔法で脅せば信憑性が出るだろ」


「モンスターを連れて行くって、テイムするの? だけどアレク、グレゴリーを脅すにはそれなりの数が必要じゃない?」


「それも問題ないよ。今回は連れて行くだけだし、テイムじゃなくて支配するから。

 アレクは他の魔族と同じようにモンスターを支配できるんだよ」


 細かい指示を与えるならテイムした方が良いけど、単純な命令なら支配で問題ない。

 これまで俺が使わなかったのは、単純に趣味じゃないってことと、モンスターを連れ歩いても邪魔なだけだからだ。


「そういう訳で準備もあるから、俺はこれから出掛けるよ。

 みんなは俺が戻るまでここで待っていてくれ。たぶん明日中にはケリを付けて戻ると思うから」


「これからって……」


「ああ、これも言ってなかったけどアレクの身体は眠る必要がないんだよ」


「だけどアレク、1人で大丈夫なの?」


 心配そうなエリスに、俺は笑い掛ける。


「ああ、任せておけよ。俺はアレクだからな」


 それ以上は誰も引き留めなかった。

 まあ、他に手段はないし。みんなに信用されてるって、良い意味に解釈しておくか。


※ ※ ※ ※


 夜の闇の中を、俺は飛行魔法フライで飛んで魔族の領域に入る。

 グリフォンはグレゴリーたちに見られてるから、使えないんだよな。


 レベルMAXの『索敵サーチ』で適当にモンスターを探す。

 まあ、そこまで期待してる訳じゃないけど。一応魔族の領域だから、それなりのレベルのモンスターは確保できるだろう。


 夜のうちにモンスターを集めて、カスバル城塞へ向けて行軍を始めた。

 モンスターの速度に合わせたから時間が掛かったけど、昼前にはカスバル城塞に到着する。


 昼間の方が目立つから都合が良い。俺は投石器が届かない距離でモンスターの行軍を止めた。

 俺が集めた約1万体のモンスターの姿が、カスバル要塞からも見えているだろう。結構デカいモンスターがいるから、それなりに目立つ筈だ。


 まあ、1万体じゃカスバル要塞を落とせる戦力じゃないけど、脅しに使うには十分だろ。

 俺はモンスターを待機させたまま空中へ舞い上がり、レベルMAXの『拡声ラウドボイス』を発動する。


「聞け! 愚かな人間どもよ! 今日は貴様たちに宣戦布告に来た!

 7日後に我ら魔族軍の本隊がこの地に侵攻する!

 貴様たちの要塞を破壊し、聖王国を蹂躙してやろう!」


 うわー……何だよ、この説明的な台詞。自分で言ってて恥ずかしいな。

 だけど内容さえ伝われば十分だし、下手なことを言って誤解されるよりはマシだ。

 あとは魔法を使って脅しておくか。


「これは挨拶代わりだ……『流星雨メテオレイン』!」


 姿が似てるからって真似する訳じゃないけど、これはジェリル・スレイアが使った第10界層魔法だ。

 この魔法のせいでルミナス砦は半壊したけど、カスバル城塞は規模が5倍くらいある。


 だけど俺は『流星雨メテオレイン』は属性レベルも固有魔法レベルもMAXだからな。

 全ての隕石をカスバル要塞とモンスターの群れのちょうど中間地点に落とす。

 分散させると、破壊し過ぎてしまうからな。


 インパクトの瞬間大爆発が起きて、爆風でモンスターたちが吹き飛ばされる。

 だけど距離を計算したから、大したダメージじゃない。勿論、事前に練習して試したんだよ。


 カスバル城塞の方も外壁に傷ができた程度で、被害というほどのことはないだろ。

 兵士たちも建物に隠れる時間は十分あったからな。


 その代わり、要塞の前に直径1kmのクレーターができたけど。


「我々を楽しませるために、精々準備をしておけ!」


 兵士たちは隠れてるからイマイチ反応は解らないけど、こんなもんで十分だろ。

 最後も説明的な台詞を言ってから、俺はモンスターを連れてカスバル要塞を後にした。


 モンスターを残しておくと、後で魔族軍に利用される可能性があるからな。支配したモンスターは全部経験値に変えておくか。

 このくらいの経験値じゃ、アレクはどうせレベルアップしないけどな。

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