第50話 何でそうなる?
「アレク、久しぶりね。ところで……その
密着する俺とサターニャを見てエリスは微笑んでいるけど、目が全然笑っていなかった。
「ああ、エリス。久しぶりだな……ところで何か勘違いしてるみたいだけど、こいつは俺の部下だからな」
「ふーん……アレク、あんたは部下とベタベタするんだ?」
「そ、そうだよ。部下とイチャイチャするのはおかしいよ!」
レイナとソフィアが俺を睨んでいる。まあ、言いたいことは解るけどさ。
「いや、だから誤解だって。サターニャは……」
俺が言い掛けると、サターニャは何を思ったのか、さらに身体を密着させる。
エリザベスほどボリュームはないけど、やわらかい感触……おい、完全に当たってるって。
「なあ、サターニャ。何してるんだよ?」
「アレク様が困っていらっしゃるようですので、私からキチンと説明させて頂きたのですが……駄目でしょうか?」
サターニャは甘えるように、上目遣いで見る。
うん? 俺のことを心配しているのか?
「ああ、構わないけど」
「アレク様、ありがとうございます!」
サターニャは嬉しそうに笑みを浮かべると、レイナたちに向き直る。
だけど俺から離れようとしないのは、どういうことだ?
「皆さん、お初にお目に掛かります。私はサターニャ・ヘルスカイア。アレク様の配下を纏める副統括の1人で……世界中の誰よりもアレク様をお慕いしています」
「おい、サターニャ!」
おまえは何を言い出すんだよ? 余計に話がややこしくなるじゃないか。
「アレク様、どうか致しましたでしょうか? 私は本当のことしか言っておりません。それとも……アレク様は私の心を疑われるのですか?」
「いや、そういう意味じゃ……おまえなあ」
この世の終わりのような悲しそうな顔をするサターニャを見て、俺は文句を続けることが出来なかった。
いや、こいつが考えていることは解ってるけど……
「ふーん……良く解ったわ」
レイナがサターニャを見据えて不適に笑う。完全に喧嘩を売る顔だ。
「あんたがアレクを騙そうとする性悪だってことがね」
この瞬間、サターニャが放つ空気が変わる。
表情が消えて、俺と同じ金色の瞳が極寒の光を帯びる。
「取消しなさい……誰よりも一番お慕いしているこの私がアレク様を騙す? そんなことは絶対……」
「おい、サターニャ!」
「……アレク様!」
サターニャの台詞が途中で途切れたのは、俺が抱き締めたからだ。
こいつが本気で殺意を放てば、それだけで死人が出る。
たとえ勇者のレイナだろうと例外なのか解らないし、俺はサターニャにそんなことをさせたくなかった。
恍惚とした顔で俺を見つめるサターニャに、苦笑する。
「おまえさあ……」
「サターニャ、それくらいにしない? アレク様が困ってるから」
突然の乱入者に、みんなが視線を集める。
「エリザベス、何でおまえまでいるんだよ」
「この状況について、部下から報告を受けたからですよ。でも、アレク様。僕は長居をするつもりはありませんから……サターニャ、ちょっと顔を貸してくれるかな」
「何なのよ、エリザベス。今回は私の番じゃ……」
「僕だって邪魔するつもりはなかったんだけど。忠告してあげるけど、サターニャのしてることは逆効果だよ。あのね……」
エリザベスはサターニャに耳打ちする。
何を話しているのか解らないけど、サターニャの表情が変わっていく。
「え……そうなんですの?」
「あのねえ、サターニャ。頭の良い君なら、僕が言ったことが本当だって解るよね」
「……確かに。そう考えるべきですわね」
サターニャは納得した顔になると、俺から身体を放して深々と頭を下げる。
「アレク様、申し訳ありませんでした。アレク様と御一緒させて頂いたことに、少々浮かれ過ぎていました。自分からお願いしておいて何ですが、私はこれでお暇させて頂きたいと思います」
「おい、サターニャ……本当に良いのか? おまえが
「アレク様のお気持ちは嬉しいのですが……これ以上アレク様を困らせたくありませんので」
殊勝な顔のサターニャに、俺はちょっと申し訳なく思う。
「ねえ、アレク……どういうことか意味が解らないんだけど」
突然現れたエリザベスのせいで、完全に蚊帳の外に置かれたレイナが睨んでいる。
エリスとソフィアも当惑している顔だ。
俺もエリザベスがサターニャに何を話したかは知らないけど、1つだけ言えることがあるし、言っておくべきだと思う。
「レイナは誤解してるみたいだけど。俺はサターニャに騙されている訳じゃないし、サターニャだってそんなつもりはないよ。
サターニャが抱きつくのはわざとだけど、俺のことを配してくれているのも本当なんだ。
こいつは暴走するところがあるけど、いつでも本気なんだよ」
サターニャは本気で俺を想ってくれている。いや、俺だってこれだけストレートに言われたら解るよ。やり過ぎだとは思うけどね。
でもそれは『遺跡の支配者』による強制的支配のせいだから、サターニャは何も悪くないし。俺も勘違いするつもりはない。
「アレク様……私のことをそこまで想ってくださるなんて……」
サターニャが泣きそうな顔で俺を見てる。
いや、そんな大げさなことじゃないだろ。俺も恩には恩で報いたいと思ってるって。
「ねえ、サターニャ。僕が言った通りでしょ」
「そうですわね……エリザベス、今回のことだけは感謝しますわ」
「だけどサターニャ、解ってるよね? アレク様は僕たちの想いを解ってくれているけど、想いが伝わってる訳じゃないって」
「ええ。私だってそこまで馬鹿じゃありませんわ」
2人が何に納得したのかは解らないけど、いつにもなく仲が良さそうだから構わないか。
「ねえ、アレク……つまり、あんたはその女が好きってこと?」
レイナは全然納得してないな。まあ、そうだよな。
「ああ。俺はサターニャもエリザベスも好きだよ。俺の大切な部下だからね」
俺がそう言うと、何故かみんながジト目になった。
「はぁ……そういうことね。私もようやく理解したわ」
「え? レイナ、どういうこと?」
「ソフィアには後で私が説明してあげるわ。サターニャさんも苦労してるんですね」
ソフィアだけは戸惑っているけど、これまで静観していたグランやガルドたちまで残念な奴を見るような顔をしてる。
何でそんな顔をするんだよ。まあ、話が収まったみたいだから良いけどさ。
「そう言えば、エリザベスの紹介がまだだっな」
エリザベスは突然乱入して来たから、レイナたちに紹介する予定じゃなかったけど。話が収まったのはエリザベスのおかげだし、紹介しておくか。
「アレク様、ありがとうございます……僕はエリザベス・ドラキュリーナ。サターニャと同じアレク様の配下を纏める副統括の1人で、サターニャは文句を言うと思うだろうけど、僕の方がアレク様を愛してるって自信があるよ」
エリザベスは宣戦布告するようにレイナたちに宣言する。
「エリザベス、貴方……」
「だからサターニャの言いたいことは解ってるよ。だけど僕もサターニャと同じ気持ちだってことは言っておかなくちゃね」
レイナたち3人はエリザベスの宣言に、それぞれ違う反応をした。
「フン……良い度胸じゃない。受けて立つわよ!」
いや、レイナ。喧嘩する訳じゃないよな?
「え……またライバルが増えたの?」
だからソフィア、勘違いだって。
「エリザベスさんも大変ですね。気持ちは解ります」
「ありがとう。君はエリスだったよね。君とは友達になれそうな気がするよ」
エリスとエリザベスが結託してる……まあ、良いけどね。
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