第4章 聖王国編2

第49話 再会と対決


 エボファンの物語メインストーリーに絡む3つ目のイベントは、これまでよりも規模がでかい。

 今回のイベントが引き金になって、魔族と他種族連合が本格的に戦争を始めることになるからな。


 だけどガーランドの件や、ジェリルがシャルナを占領した件とか、そもそもアレクが魔王を辞めたこととか、ゲームと違うことが幾つも起きている。

 バレスも魔族軍として参戦することだし、ゲームと同じように展開するとは限らないな。


「この街でアレク様は、下界の者たちとお会いになられるのですか」


 雑然とした街並みを眺めながら、サターニャが顔をしかめる。いや、下界って……

 今、俺たちがいるのは聖王国の北の都市クラーナだ。

 街の規模はクルセアの半分くらい。建物の形も色もバラバラで、路地も入り組んでるから雑然とした感じがする。


 ここからさらに北に聖王国の守りの要であるカスバル要塞があり、その先は魔族の領域だ。

 魔族と聖王国との紛争は過去に何度も起きている。

 だけどこれまでは魔族軍がガーランドのように無理矢理山岳地帯を越えることはなく、普通に北から攻めて来たからカスバル要塞が戦場になった。


 今回のイベントで魔族軍は大規模侵攻を仕掛けて来るから、人数的に山越えは難しい。

 だから今回戦場になるのもカスバル要塞だ。

 まあ、それは置いておいて……


 俺はエリスとソフィアと『伝言メッセージ』でやり取りしてるから、2つのパーティーがもうクラーナに着いていることは知ってる。

 泊ってる宿屋も解ってるし、冒険者ギルドで待ち合わせもしてるんだけど……


「アレク様、失礼します」


 サターニャが突然俺と腕を組む。エリザベスみたいに胸を押し付ける訳じゃなくて、もっと控えめな感じだ。


「おい、サターニャ、どうしたんだよ?」


 サターニャは頬を染めながら、上目遣いで甘えるように俺を見る。


「あの……アレク様の御気分がまた優れないようでしたので。差し出がましいようですが、人肌に触れた方が気分が紛れると思いまして……駄目でしょうか?」


 う……サターニャにはエリザベスとは違う意味で攻撃力があるよな。

肉体ではなく、精神的に攻め込んで来る感じだ。


「いや、駄目じゃないけど。サターニャには気を遣わせたな」


「いいえ。私はお慕いするアレク様のことを24時間考えていますので、これくらい当然のことですわ」


 だけど正直に言えば、サターニャは重いんだよ……さすがに本人に言うつもりはないけど。


「じゃあ、サターニャ。エリスたちと待ち合わせしてる冒険者ギルドに向かうからな」


「はい、アレク様。御一緒させて頂きます」


 俺とサターニャは腕を組んだままクラーナの街中を歩く……いや、もう腕を放して良いよな?

 エリザベスもそうだけど。サターニャの見た目は絶世の美女だから、普通に街を歩くだけで目立つんだよ。しかも腕を組んでるから、やたらと男からの敵意を感じる。


「なあ、サターニャ……」


「アレク様、如何されたんです? まだ御気分が優れませんか?」


 心から心配してるって感じの顔をされると、離れてくれとは言えないよな。


「いや……何でもない」


 だからそのまま冒険者ギルドに向かったんだけど……失敗だった。


※ ※ ※ ※


 エリスたちとチョップスティックのメンバーが、イベントが始まるまで近くのダンジョンを攻略していることは聞いていた。

 クラーナから一番近いダンジョンでも徒歩だと1日以上の距離があるけど、風の馬ウインドホースを使ってるから普通に日帰りできるんだよな。


 冒険者ギルドに着いたのは午後4時だからか、みんなはまだ帰ってない……いや正直に言うと、俺は心の準備をするために先に冒険者ギルドに来たんだよ。

 そうすれば2つのパーティーと会うタイミングもズレて、全員と一緒に対峙することもないからな。


「サターニャ。今後のこともあるから、おまえも冒険者として登録しておくか」


 メイド長を兼任するサターニャには『始祖竜の遺跡』の食料の管理も任せている。

 食料を調達しに外に出ることがあるから、冒険者登録しておいた方が何かと便利だ。


「はい、アレク様。私もこれでアレク様と同じ冒険者になれるんですね」


 サターニャがモジモジしながら頬を赤くする。いや、意味が解らないんだけど。

 周りの冒険者たちは、思いきり俺とサターニャに注目している。

 だけど俺は無視して、ギルド職員にサターニャの登録を頼んだ。


「ええと……この方が冒険者になるんですか? いいえ全然問題なんか……むしろ光栄です!」


 ギルド職員は女なのにサターニャに見惚れていた。

 サターニャが無視したから、登録は直ぐに終わったんだけど。


「へえー……サターニャちゃんって言うんだ。俺はC級冒険者のカインズだ。登録したての初心者だろ? ならベテランの俺が手取り足取り教えてやるよ」


「待てよ、カインズ! こんな下心丸出しの奴より、この俺の方が……」


「おいおい、C級冒険者どもが抜け駆けするなよ。サターニャさんのエスコートはB級冒険者のスタッカートに任せて貰おうか」


 周りの冒険者たちが俺の存在を無視して、先を争ってサターニャに話し掛ける。

 いや、俺は別に良いんだけどさ……


「アレク様……」


 サターニャの目が座ってる。


「まあ、仕方ないか……でもサターニャ、殺すなよ」


「はい、アレク様」


「おまえ、何を言って……」


 B級冒険者のスタッカートは、最後まで言うことができなかった。

 サターニャに殴られて、天井に頭を突っ込んだからだ。

 他の冒険者たちもサターニャが瞬殺……いや一瞬で片付けた。


「あのさあ……まだ俺たちに用がある奴はいるか?」


 遠巻きに俺たちを見てる他の冒険者たちに告げる。

 その中の1人が余計なことを言った。


「て、てめえ……女の影に隠れやがって……」


「おい、サターニャ」


 今度は本当に瞬殺しそうだったから止める。

 だけどこういう馬鹿は、俺が1人になったところを狙って来るんだろうな。

 他にも同じような馬鹿がいそうだし。面倒なことになる前に実力の違いを見せてるか。


「なあ、ギルド職員さん。向こうから絡んできたんだから、俺たちは正当防衛だよな」


「は、はい……そうですが?」


 なら遠慮する必要はないな。

 俺は馬鹿の前に一瞬で移動する。いや、普通に移動したけど、アレクのステータスだと見える筈がない。

 反応する前に指先で軽く弾くと、馬鹿の全身が床にめり込んだ。


「アレク様……素敵です!」


「サターニャ、そういうのは良いから……他に文句がある奴はいるか?」


 冒険者たちは慌てて目を反らして、誰も何も言わなかった。まあ、こんなもんだな。


「なあ、職員さん。床の修理代はこれで足りるよな」


 金貨が詰まった袋を渡すと、怯えていた職員の態度が一変する。


「は、はい! お気遣いありがとうございます!」


 まったく現金な奴だよな。と俺が思ってると……


「よう、アレクじゃねえか。久しぶりだな」


 予想していたよりも早くグランが帰って来た。てことはソフィアも……

 そんなことを考えていると、サターニャが突然俺の腕に抱きついた。


「どうしたんだよ、サターニャ。なんで俺と腕を組でるんだ?」


「いえ、またアレク様の御気分が優れないようですので……駄目でしょうか?」


 そうか。自覚はないけど、俺はグランに対して身構えてるんだな。

 だけどサターニャ、さっきより密着してないか?


「どうしたの、グラン……え? アレク!」


「もう、あんたたち何やってるのよ。あれ、アレクじゃ……」


 次はソフィアとレイナが一緒に入って来た。

 え? 何で帰るタイミングが一緒なんだよ?

 その後に入って来たのは……


「アレク、久しぶりね。ところで……そのひとは誰?」


 密着する俺とサターニャを見て、エリスは微笑むけど……目が全然笑ってなかった。


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