第48話 予想外
結局、クエスとは計画書が完璧になるまで毎日のように会うことになった。
何かハメられた気もするけど……クエスは真面目だから、そんなことないか。
まあ、
そうは言っても、俺としては夜の方が都合が良いので、クエスのところに行くのは毎回夜だった。
それでも7時とか8時で、夜中という訳じゃない。
だけどクエスは早く寝る習慣なのか、いつも寝間着姿だった。
使用人たちはもう休ませているから、直接自分の寝室に来て欲しいって言うし……いや、変なことはしてないからな。
「アレク様……このような格好はご不快でしょうか?」
「いや。夜に来るのは俺の都合だし、別に構わないよ」
最初の日にそう言ってしまったから、次からも文句は言えなかった。
たけどシルクの生地がなんか凄く薄くて、ボディーラインが……おい、おれは何考えてんだよ。
クエスは計画書を査定してくれるお礼だと、毎回夜食まで用意してくれた。それも手作りでだ。
いや、美味いんだけど。毎回は悪いから断ろうとしたら、悲しい顔をされたので諦める。
何か最近、俺は色々と負けてる気がするな。
そうこうしているうちに時間が経って、エボファンの
俺は諜報部隊を使って情報収集を欠かさないから、イベントに繋がる状況は全部把握してる。
今度のイベントは再び聖王国クロムハートで起こる。
ゲームのときは最初のイベントでガーランドが生き残るから、今回のイベントに再び参戦した。
だけど今回は、すでに死んでいるんだよな。
「まさか、おまえが代わりに参戦するとはな」
「私も予想外でしたよ。ですが考えてみれば、実力から言って当然の人選じゃないですかね」
俺は『楽園』密売の黒幕だった魔族の伯爵バレス・ロドニアのところに来ている。
顔だけイケメンでセクハラ野郎のこいつは嫌いだけど。結局素直に『楽園』を全部処分して、儲けた金も差し出したから、殺すまではしなかった。
あれからも俺は魔族軍の情報源として、たまにバレスに会っている。
今回はバレスに付けてる諜報員から、こいつが魔族軍の指揮官としてイベントに参加するって『
バレスはすでに自分の城を発っていて、配下を率いて聖王国付近に向かっている最中だ。
こいつは185レベルだから、エリスたちの敵になるとちょっと面倒だけど。
「なあ、バレス。おまえ、解ってるよな?」
「勿論ですよ、
私は手を出さず、部下とモンスターに戦わせますから、適当にあしらって下さい。
それで上手く行きましたら……『始祖竜の遺跡』のアイテムを頂きたいのですが」
バレスが従順になったのは、エリザベス配下にした俺が『始祖竜の遺跡』を
『遺跡の支配者』のギミックまでは知らないようで、俺がエリザベスを力ずくで支配したと思っている。
いや、何で俺がそんなことを知ってるかって言うと、バレスから俺やエリザベスや『始祖竜の遺跡』のことを何度もしつこく質問された諜報員に話を聞いたからだ。
おかげでバレスの思惑は解ったけど、キレた諜報員からバレスを始末させて欲しいと頼まれたよ。
「『始祖竜の遺跡』のアイテム? 何の話だ? 俺が持ってる筈がないだろ」
勘づかれたからといって、俺は素直に認めるつもりはない。
「またまた、アレク様は……勿論、私は他の誰にも言いませんよ。ですので……」
「まあ、『始祖竜の遺跡』産じゃないけど。おまえが上手く立ち回れば、それなりのマジックアイテムくらいやるよ」
「なるほど……
いや、勝手に勘違いするのは構わないけど。俺は『始祖竜の遺跡』のアイテムをやるとは言ってないからな。
「バレスは自分で『始祖竜の遺跡』に挑まないのか?」
「アレク様、何を言ってるんですか。ゲームじゃないんですから、私はそんな無謀な真似はしませんよ」
ゲームのときにバレスは『始祖竜の遺跡』を攻略しようとして、『
だから『始祖竜の遺跡』のモンスターの凶悪さは良く解っている。
今のバレスは所詮185レベルだからな。『始祖竜の遺跡』に行ったら瞬殺されるだろう。
「なあ、話は変わるけどさ。おまえはカストロとまだ会ってないのか?」
「ええ、新魔王とは会ってませんよ。興味もないですし」
俺の代わりに魔王になったカストロ・オルスタッシュ――は旧親魔王派の1人で、壮年の良識的な人物だ。
だけど良識的と言っても、そもそも旧親魔王派は他種族との戦争を推し進める側だからな。旧反魔王派と上手くバランスが取れるだけの話だ。
ちなみにカストロは105レベルで特別強い訳じゃない。政治力で魔王になったタイプだ。
ちなみにバレスはカストロに興味がないのは、レベルが低いからじゃなくて、女じゃないから……やっぱりこいつは女なら誰でも良いのか。
「バレスは、ジェリル・スレイアのことをどう思ってたんだよ?」
「ああ、アレク様が殺したメスゴリラのことですね。ジェリルは私の趣味じゃないですよ」
「へー……そうなんだ。おまえは女なら誰でも良いと思ってたよ」
「失礼なことを言いますね。私は美人と可愛い子と可憐な子と凛々しい子が好きなんです。女性なら誰でも良いって訳じゃありませんよ」
「いや、それって……見た目さえ良ければってことか?」
「アレク様、当たり前じゃないですか。見た目以外の何処に、興味があるって言うんですか?」
こいつは女子を敵に回すタイプだな。
まあ、セクハラ野郎って時点でアウトだし、エリスたちも駄目出ししていたからな。
「バレスと今度会うときは戦場だな。しつこいようだけど、下手だけは打つなよ」
「任せてください。アレク様の方こそ、気紛れで私を殺さないでくださいよ」
肩を竦めるバレスは、俺が殺意を懐いていることに気づいている。
「ああ、俺はおまえが嫌いだし信用もしてないけど。使える奴とは思ってるよ」
「私もアレク様に従うのはメリットがあるからですからね」
エリスたちを厭らしい目で見るこいつを、俺は許すつもりはない。
バレスは俺とは戦いたくなくて、金やアイテムが欲しいから従ってるだけだ。
嫌な関係だけど、俺は働いた奴には正当な報酬を払う。
俺もバレスも納得ずくでやってるんだよ。
※ ※ ※ ※
バレスと別れた後、俺は聖王国に向かった。
勿論イベントに参加するためだけど、その前にやることがある。
エリスとソフィアとは『
だけど……今度のイベントで会おうって言われてるんだよな。
正直に言えば、俺はレイナにどんな顔で会えば良いのか解らない。
ガルドやグランにだって、あいつらも魔族に家族を殺されているからな。
一緒にパーティーを組むとか……前みたいに仲間として接して貰える自信がないんだよ。
まあ、なるようにしかならないし。みんなと一緒に行動しなくても、イベントには参加するからな。
エリスやソフィアたちが危なくなったときも、俺が直接手を出さなくても、諜報部隊のメンバーを使えば良いし。
「アレク様は、あまり御気分が優れないようですね。まさか……エリザベスではなく、私が御一緒しているからですか?」
藍色の艶やかな髪で、八重歯のように牙を生やした美女が悲しそうな顔をする。
「そんな筈ないだろ。ちょっと考えごとをしてただけだよ」
彼女は『
サターニャが俺と一緒にいる理由は、エリザベスだけ外で俺に会っている上に、シャンパルーナに同行までしてズルいと言われたからだ。
悲しそうな顔をされると、断れなかった。
「サターニャ。先に言っておくけど、下手な口出しや手出しはするなよ」
「勿論、承知しておりますわ。エリザベスのようにアレク様を困らせることなど、決して致しません」
サターニャってさ、あからさまにエリザベスへの対抗心を見せるよな。
エリザベスとタイプは違うけど、サターニャも……いや、まだ何もしないうちに決めつけるのは良くないよな。
とりあえず、牙があるのも獣人がいるこの世界では珍しくないし。悪目立ちさえしなければ良いんだけどさ。
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