第47話 支配者と女狐 ※クエス視点※


※クエス視点※


 アレク様は誤解されているみたいですけど……


 勿論、私もアレク様が言われた投資という言葉の意味も、それが報酬と戦利品を辞退するための詭弁だということも解っています。

 ですが私に投資されるということは、私を買うことには違いないですもの。


 私を買ったアレク様が、私にどんなことをされるのか……エリザベス様を見ていたから、色々と想像してしまったんです。


 アレク様と初めて会って、角と翼のある本当の姿を見たとき……私は一瞬で恋に落ちてしまいました。

 だって仕方ないじゃないですか。私は強い殿方が好きなんですから。


 貴族として生まれた私は、誰にも言えませんでしたけど。私は幼い頃から白馬に乗る王子様ではなく、強い殿方に憧れていました。


 ですからアレク様の力強い姿を一目見たとき、心が躍りました。

 はしたない話と思われるかも知れませんが……この方に全てを奪われてみたいって。


 それでも私にはイルマーハ辺境伯の娘としての責任がありますから、アレク様への想いを隠しながら冷静に接しようと努めて来ました。

 ですがアレク様が魔族軍の指揮官とモンスターを軽々と壊滅させたとき……もう我慢の限界だったんです。


 お父様やお兄様たちでも全然敵わなかった敵を蹂躙するアレク様に……私も蹂躙されてみたいって思ってしまいました。

 私の全てを奪って欲しいと、思ってしまったんです。


 ルミナス砦を取り戻したときも、アレク様はモンスターを一瞬で壊滅してしまいました。

 その姿に私は心を躍らせながら、魔族軍と戦いました。


 アレク様が見守ってくれるから怖くないと……いいえ、本当のことを言えば、アレク様に滅茶苦茶にされたいと思いながら戦っていました。


 ですが戦いが終わるとアレク様は直ぐに帰ると言われました。

 私は報酬の件で話があるので残って欲しいとお願いしましたが、結局2週間後に再び会う約束をして貰うのが限界でした。


 アレク様と別れてからの2週間……私は戦後処理を懸命にこなしましたが、頭の中はアレク様のことを一時も忘れたことなどありません。


 アレク様と再び会うときまでに、どうすればアレク様のお傍にいることができるのか。アレク様のために何ができるのか。どうしたら私を滅茶苦茶にして頂けるのか……そんなことばかり考えていました。


 そして再びアレク様とお会いして、私は凄く嬉しくてたまらなくて……

 戦利品のことは下心があった訳ではなく、魔族軍を蹂躙したアレク様に当然権利があると思い……全てを奪うことこそアレク様に相応しいとは思いましたけど。


 エリザベス様は私の気持ちに気づいているようで、私に見せつけるようにアレク様に密着していました。

 エリザベス様に私は確かに嫉妬しましたけど……そうじゃないんです。


 私はエリザベス様のようにアレク様の隣にいたいのではなく……私の全てを支配し、蹂躙して頂きたいんです。


 アレク様が人族も他の種族も関係なく、この世界と人々を守りたいと言われました。

 シャルナも守りたい対象だから、報酬も戦利品も復興のために使って欲しいと。


 アレク様、ズルいですよ。そんな格好良いこと言われたら……

 私は自分の身体が熱くなるのを感じながら……

 ですが報酬も戦利品も要らないなら、アレク様に何も奪って頂けない……

 私はアレク様に全て奪われたいんですって、言ってしまいそうになりました。


 ですからアレク様が私に投資したいと言われたときに飛びついてしまったんです。

 私はアレク様に買われる……アレク様に支配される……奪われる。

 もう色々と想像してしまって、思わず興奮してしまいました。


 ですが私が想像したように全てを奪って頂くには……

 契約書に何を書くべきかと、私は必死に考えました。


※ ※ ※ ※


 エリザベスは戻って来ると、クエスの赤い顔を見てジト目になった。

 クエスの騎士たちも残念な奴を見る顔をしてる……いや、そんなんじゃないからな。


「ふーん……ねえ、金髪貧乳エルフの君。君の狙いくらい僕は気づいているからね」


「はい。エリザベス様が全てご存じであることは私も承知しています。

 私にエリザベス様のお邪魔をするつもりがないことも、ご存知ではありませんか。

 それとエリザベス様には遠く及びませんが、私は着痩せするタイプですので、決して貧乳ではありません」


「なるほどね。君が理解しているなら、僕は構わないよ」


 何の話をしてるんだよ? まあ、それより契約を成立させる方が先だ。

 形としてはイルマーハ辺境伯領に対して俺が投資する契約書にして、条項の打ち合わせをしていると。


「アレク様。投資して頂く身として、幾つかご提案があります」


 なんだ。さっきは自分が買われるとか言ってたけど、クエスも投資だと理解してるじゃないか。

 クエスの提案は以下だ。


 1つ目はクエスが作った復興計画書を、俺が査定すること。計画書が仕上がるまで何度もリテイクして完璧にする。


 2つ目は計画書が仕上がった後も、俺とクエスは月に1度直接会って、進捗状況について確認し、問題があれば都度計画を修正すること。


 3つ目は復興とは別に、イルマーハ辺境伯領を発展させるために、既存の産業の改善案と新規産業案をクエスが併せて作る。

 こちらも俺が査定して復興計画同様に進めることだ。


 うん。やっぱりクエスは真面目だよな。

 だけど俺は復興とか産業とか完全に素人だからな。俺が口出ししても上手く行くとは思えないけど。


「アレク様に投資して頂くのですから、私は誠心誠意を尽くして参ります。アレク様もどうかよろしくお願い致します」


 まあ、ここまで言われたら断る訳にいかないからな。


「じゃあ、月に1回シャルナに来れば良いんだな」


「アレク様、ありがとうございます。ですが計画書が出来上がるまでは、もっと綿密に打ち合わせが必要かと思います。

 出来上がった後も、復興と発展では方向性が異なりまので、打合せは個別に行う必要があります。

 ですので、アレク様にはもっと頻繁にお越し頂きたく思っております」


 いや、どうせ俺は全部クエス任せで、細かいことを言うつもりはない。1度に両方の話をした方が効率的じゃないのか?

 だけど計画書を作るのも報告を纏めるのもクエスだからな。クエスのやり方に合わせるべきか。


「解ったよ。お互いの都合を合わせる必要があるからな、クエスにもこれを渡しておくよ」


 俺は『伝言の指輪メッセージリング』をクエスに渡した。


「指輪……アレク様、ありがとうございます!」


 クエスは嬉しそうに『伝言の指輪』を胸に抱きしめる。


「なあ、変な勘違いはするなよ。それは連絡を取るためのマジックアイテムだからな」


「はい、承知しました。ですが指輪には違いありませんので……」


 指輪に意味があることくらい俺も知ってるけど、唯のマジックアイテムだからな。


「ねえ、クエス……君って女狐だよね」


「嫌ですわ、エリザベス様。私は弱者ですので必死に考えているだけです」


 2人とも笑顔だけど、何か空気が変だな。

 まあ、喧嘩をされるよりマシだけど。


 クエスの案を盛り込んだ契約書を作り、俺とクエスがサインをした。

 これで俺が復興資金を奪わないことは確定だから問題ないな。


 用が済んだから直ぐに帰ろうと思ったが、クエスが昼食を用意していると言うので一緒に食べることになったんだけど……


「はい。アレク様、あーん」


「おい、エリザベス……何やってるんだよ?」


「えー! アレク様、良いじゃないですか」


 悪戯っぽく笑って、エリザベスは舌を出す。

たけど、それだけじゃ収まらなかった。


「あの……アレク様。その、私のも食べて頂けますか……」


「なあ、クエス……おまえまで何やってんだよ?」


 2人が差し出すフォークに、俺の目が点になる。

 いや、マジで意味不明だ。おまえら、何がしたいんだよ?


「エリザベス様も……(アレク様の弱点に)気づいていますよね?」


「勿論そうだけど……君は本当に女狐だね(サターニャにも報告しておいた方が良いかな)」


「お褒め頂き、ありがとうございます」


 何か2人が結託してるみたいなんだけど……頭が痛いな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る