第46話 契約

すみませんが、45話を修正しました。


――――――――――――


 派手にやり過ぎたと反省したからからな。

 ルミナス砦を占拠していた魔族軍の方は、モンスターだけを先に討伐して、あとはエルフの義勇兵と冒険者たちに任せた。


 主力のほとんどがシャルナにいたから、砦に残っていた魔族は500人程度だ。

 砦も半壊しているから、籠城される心配もない。

 それでも義勇兵と冒険者に犠牲者が出たけど、自分たちで砦を取り戻したことに意味があるんだろう。


 シャルナで捕虜にした魔族の処遇は、クエスに任せた。

 クエスは家族を殺されているし、イルマーハ辺境伯に仕えていた騎士と兵士のほとんどが壊滅している。

 だから魔族を皆殺しにしても仕方ないと思ったけど、結局隊長クラスだけを処刑して、残りは解放することになった。


 感情に任せて皆殺しにしなかったのは、為政者として正しい判断だろう。

 結果としてかも知れないけど、魔族が殺したの騎士と兵士であり、市民を虐殺した訳じゃないからな。

 捕虜にした奴にまで皆殺しにしたら、遺恨が残って復讐の連鎖に繋がる。


※ ※ ※ ※


 ルミナス砦を取り戻した後、俺とエリザベスは直ぐに『始祖竜の遺跡』に戻った。やることやったからな。

 だけど2週間後、再びシャルナに戻って来た。

 とりあえずの戦後処理を終えたクエスと、約束の報酬について話をすることになっていたからだ。


「アレク様。この度のご助力に、心よりお礼を申し上げます。私たちがシャルナとルミナス砦を取り戻すことができたのは、全てアレク様の御力によるものです。本当にありがとうございました」


 クエスは深々と頭を下げる。後ろの騎士たち頭を下げるけど、感謝と言うより怖がってるみたいだ。

 さすがにあれだけ力を見せつけたからな。いや、別にわざとやった訳じゃないから。


「まあ、礼はそれくらいで良いよ。俺は堅苦しいのは苦手なんだ。

 それよりもクエス嬢……いや、もうクエス殿下って言った方が良いな。殿下はこれからの方が大変なんじゃないか」


 クエスは辺境伯の爵位を継承することになる。

 だけど前イルマーハ辺境伯と、シャンパルーナ王は不仲だったからな。何か茶々を入れて来るかも知れない。

 そもそも復興の問題もあるし、これからが大変だろうな。


「そんな! アレク様に敬称を付けて呼んで頂くなど滅相もございません。私のことは、その……クエスと呼び捨てにして下さい」


 いや、そこまで気にすることか?

 何故かクエスの顔が赤いし……いや、それよりさ。

 ジェリルやモンスターたちを目の前で散々殺しまくったのに俺を恐れないとか、クエスも本当に肝が据わってるよな。


「領地のことも折角アレク様に取り戻して頂いたのですから。復興させる喜びこそありますが、それを大変などとは思いません」


 俺を見る瞳がキラキラしている。

 クエスは本当に真面目と言うか、良い奴だよな。

 

「ちょっと君、馴れ馴れしくない? アレク様を敬う態度は合格だけど」


 エリザベスがクエスを牽制する。

 うん? 今、何か突っ込むところあったか?


「いいえ、エリザベス様。決してそのような意図はございません」


「ふーん……なら良いけど。アレク様は僕のモノだからね」


 クエスに見せつけるように、エリザベスは俺の腕に抱きついて胸を押し付ける。

 クエスは笑顔だけど、空気が冷えた気がする。


「なあ、エリザベス。俺はいつからおまえのモノになったんだよ? 余計なことを言って話の邪魔をするなら、強制送還だからな」


「嫌だなあ、アレク様。僕の可愛い冗談ですよ」


 エリザベスは上目遣いで悪戯っぽく笑う。

 さらに密着して強く胸を押し付けると、クエスの顔から表情が消える。

 無表情の美少女って、怖いんだけど。


「じゃあ、クエス・・・。今回の件の報酬の話だったな」


「は、はい。アレク様……ありがとうございます!」


 いや、呼び捨てにしたくらいで何で喜ぶんだ?

 エリザベスもジト目で見るなよ。


 今回の話は報酬の1,000億Gギルの支払い方のことだと思ったけど、その前にジェリルと魔族たちから取り上げた戦利品を全部俺に差し出すと言われた。


「いや、待てよ。装備とモンスターからドロップしたアイテム以外は、ほとんどがシャルナで略奪した物だよな。それを俺が貰う訳にはいかないだろ」


「いいえ。アレク様の御力あっての勝利ですから、全てアレク様の物です。もしお邪魔になるでしたら、私たちが売却して代金をお渡します。

 報酬の1,000億Gについては、大変申し訳ありませんが、直ぐに用意はできません。

 まずは半年後に100億G。その後は年に100億Gの10年払いでお願いできませんでしょうか?

 勿論、財政的に余裕ができれば、その分前倒しでお支払いします」


 魔族が略奪した物を全部差し出した上に、毎年100億Gを払うとか。辺境伯領の財政的に大丈夫なのか?

 いや、金額を提示したのは俺だけどね。


「なあ、クエス。この際だから正直に言うけど、俺は金なら余っているんだよ。

 本当は報酬だって要らないから、分割で全然構わないし。戦利品はおまえたちが好きに使ってくれ」


 俺の発言に騎士たちがどよめく。まあ、太っ腹な発言だからな。

 だけどクエスは引き下がらなかった。


「お気持ちは大変嬉しいのですが、私たちはアレク様より多大なる恩義を受けた身です。

 報酬の支払いを遅らせて頂いた上に、戦利品まで頂くことなどできません」


 クエスは本当に真面目だな……誰かを思い出すよ。

 だけど復興資金を奪うなんて、俺の趣味じゃないんだ。


「クエス、俺と2人で話をしないか。エリザベスも悪いけど下がってくれ」


「えー……僕にまで内緒の話をするんですか? だったら代わりに、後で思いきり甘えさせて下さいよ」


「却下だ。なあ、エリザベス……これ以上ふざけるなら……」


「解りましたよ。アレク様は意地悪ですよね」


 エリザベスと騎士たちが退室すると、俺は『防音サウンドプルーフ』を発動する。

 『防音』のレベルもMAXだから、これで誰にも聞かれる心配はないな。


「あの……アレク様。お話って……」


 クエスは何故か顔を赤くして、口調も少し砕けた気がする。

 いや、俺は鈍感ラノベ主人公じゃないから何となく察しがついてるけど。クエス、それは吊り橋効果から来る勘違いだからな。


「クエス。俺はシャンパルーナに侵攻した魔族軍が気に入らないから手を貸すって言ったよな。

 もっと正確に言えば、大した理由もないのに自分勝手に人を殺すジェリル・スレイアが許せなかったんだ。

 だからシャルナを取り戻すという大義名分を得て、ジェリルを倒すことができたから、俺としては満足なんだよ」


 クエスは真剣な表情で俺の話を聞いている。

「俺はこの世界が好きなんだ。魔族とか他の種族とか関係なく、この世界と人を守りたい。自分の理屈で魔族やモンスターを殺し捲った俺が言うのもなんだけどさ」


「そんな! アレク様は違います! アレク様は私たちを救って下さいました!」


「まあ、俺が好きでやったことだけどな。それよりさ、俺にとってはシャルナも守りたい対象の1つだから、報酬も戦利品も要らないから復興のために使ってくれよ」


「ですが、アレク様……」


 俺だってクエスが簡単に納得しないことは解っていた。

だからじっくり話をするために、2人きりになったんだよ。


「どうしても払うと言うなら、こうしないか。俺は報酬と戦利品の全てをクエスに貸す……つまり、おまえに投資するってことだ。

俺はクエスの為政者としての才能を買ってるんだよ。だからおまえが領主として成功することに賭ける。利息は……そうだな、今後おまえが得る税収の5%でどうだ?」


 まあ、詭弁だけどな。5%が高いか安いかは正直良く解らない。

 だけど利息で得た金をシャルナで使えば還元できるから、財政的にはそれほど痛まないだろう。

 クエスなら俺の詭弁に反論すると思ったけど……何故か沸騰するほど真っ赤になった。


「え……アレク様が私を買う……」


「おい、ちょっと待てよ! おまえ、何か誤解してるだろ」


「私が……アレク様のモノに……」


 いや、全然話を聞いてないし。


「……もう良いや。契約成立ってことで構わないな?」


 クエスはコクコクと頷く……何だよ、聞こえてるじゃないか。

 だけど、とりあえず復興資金を奪わないことが優先だからな。

 誤解は後で解けば良いか。

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