第45話 決戦


 翌日。エルフの義勇兵5,000人と冒険者たちは、シャトラの街から少し距離を置いて布陣を敷いた。

 布陣の先頭にいるのは、勿論俺とエリザベスだ。

 シャトラの外壁の上からは、俺たちの姿が見えているだろう。

 さてと……ジェリルはどう動くか?


 あいつの性格なら、あれだけ挑発したから自分から仕掛けて来ると思うけど。

 籠城されると面倒だな。街を壊さずに魔族軍だけ倒すって……まあ、向こうが下手に暴れなければ出来るけどさ。


「アレク様……あの脳筋女は、見た目通りに馬鹿でしたよ」


 シャトラの街の門が開いて魔族軍が出て来た。

 先陣を切るのはジェリル・スレイアと、奴の取り巻きモンスターたちだ。

 種類はバラバラだけど80レベル台のモンスターたちは、攻撃役としても壁役としても使える。

 回復役の天使系モンスターも後ろに控えさせているから、万全の布陣ってところか。


 ちなみにジェリルは220レベル。かなり頑張ってレベルを上げたよな。

 ジェリルほどじゃなくても、魔族に転生した奴らが揃ってレベルが高いは、魔族の領域の方がレベルの高いモンスターが多くて、ダンジョンの難易度も高いからだ。


 それでもジェリルに比べれば、取り巻きはそこまでレベルが高くない。

 ガーランドやバレスのときもそうだったけど、魔族に転生した奴だけが突出してレベルが高いんだよな。

 まあ、理由は大体想像がつくけど……ダンジョンに同行させた奴らを、使い捨てにしたんだろう。


 エボファンの経験値は単純な人数割りではなく、貢献度によって分配される。

 削ったHPやラストダメージを与えた数だけで貢献度を決める訳じゃなくて、仲間に掛けたバフや回復魔法、敵に掛けたデバフや敵のタゲを取るとか。戦闘中の様々な行動に対して貢献ポイントを算出して、ポイントの比率で経験値を割り振るのだ。


 魔族に転生した奴らは、自分が支配したモンスターを盾役や回復役として大量に同行させたと思う。数がいれば死んでも問題ないからな。

 同行したモンスターにも経験値が割り振られるけど、貢献度が低ければそれほどじゃなし、戦闘中に死んだら奴には経験値が割り振られない。

 それにエボファンはフレンドリ―ファイヤーが可能だから、貢献度が高い奴は戦闘中に殺してしまえば良い。

 始末したモンスターの経験値も入って2倍お得だ……俺は絶対にやらないけどな。


「貴様の挑発に乗ってやったぞ……あたしを挑発した代償がどれだけ高いか、思い知らせてやるためにな」


 ジェリルは不敵に笑うが。


「おいエリザベス、勝手に攻撃するなよ……ああ、ジェリル悪いな。良く聞いてなかったから、もう一度言ってくれるか」


 いや、マジで半分はエリザベスに釘を刺すためだけど。残りの半分はジェリルをさらに挑発するためだ。


「き、貴様……その度胸に免じて、あたしの最強の魔法で殺してやるよ。『流星雨メテオレイン』!」


 ジェリルが魔法を発動すると、遥か上空に白熱する巨大な岩の塊が出現する。

 『流星雨』は第10界層魔法であり、ルミナス砦を半壊させたのはこいつの仕業だ。


 ちょっと挑発し過ぎたか。急速に巨大化しながら頭上に落ちて来る巨大な岩に、エルフの義勇兵と冒険者たちはパニックに陥る。

 それでもクエスは青い顔をしながらも取り乱していないし、シリルも唇を噛んで必死に恐怖に耐えている。

 だけど、そこまで慌てる必要はないけどな。


「『魔法解除ディスペル』」


 俺が魔法を発動すると『流星雨』は一瞬で消滅した。

 エルフと冒険者たちは何が起きたのかと、呆然とした顔で空を見上げる。


「き、貴様は……いったい何をしたんだい?」


「いや、普通に『魔法解除』しただけだけど」


「ふざけるんじゃないよ! 『流星雨』に『魔法解除』が効く筈がないだろう!」


 まあ、ジェリルが言いたいことも解る。

 『魔法解除』は攻撃魔法を解除することはできない……魔法のレベルを上げないと。


「その認識は間違ってるよ。属性レベルと固有魔法レベルをMAXに上げれば、大抵の魔法なら解除できるからな」


「簡単に言うんじゃないよ! そこまで上げるのに、どれだけのスキルポイントが必要だって……えっ、まさか本当に……」


 これだけ驚かれるとちょっと気持ち良い。

 だけどジェリルはエルフと冒険者たちを皆殺しにしようとしたんだからな、その責任は取らせてやるよ。


「『魔力弾エナジーボルト』」


 俺が発動したのは第1階層の攻撃魔法だけど、当然ながらレベルはMAXだ。

 無数の魔力の塊がジェリルの周囲に降り注いで、取り巻きのモンスターたちを消滅させる。


「ジェリル、おまえさ……自分だけレベルを上げたと思ってるのか? 甘いんだよ」


 俺は『転移魔法テレポート』でジェリルの隣に移動する。見える範囲なら転移魔法はこういう使い方もできるんだよ。

 『魔力弾』をジェリルに当てなかったのは、見逃すためじゃない。

 まともに死体を残した方が、魔族たちに恐怖を与えて降伏させるのに都合が良いからだ。

 付き従っただけの兵士まで、全滅させるつもりはないからな。


「貴様……ふげるんじゃないよ!」


 ジェリルは自分の身長よりも長い赤銅色の大剣を引き抜いて切り掛かって来た。

 俺は避けると同時に剣を抜いて、ジェリルの首を切り落とす。

 一撃でHPをゼロにすれば、こういう芸当もできるんだよ。


 何が起きたのか理解していない魔族たちに、俺はジェリルの首を掲げて宣言する。


「ジェリル・スレイアは討ち取ったが、まだ俺と戦うのか? 死にたいなら相手になるけど」


 それでも襲い掛かって来る奴を、俺とエリザベスは片っ端から仕留めていく。

 逃げ出す奴まで殺しはしないけど。


「『集団麻痺マスホールド』」


 処遇を決めるのはクエスだからな。とりあえず捕まえておく。


「なあ、おまえたちも戦わないのか?」


 エルフと冒険者たちに声を掛けても、呆然としている彼らは何も応えなかった。

 まあ、ちょっと派手にやり過ぎたからな……仕方ないか。

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