第44話 どうして、こうなったの? ※ソフィア視点※
※ソフィア視点※
ねえ。どうして、こうなったの?
アレクが自分は魔王だってみんなに言ったあの日。レイナがキレて、アレクに斬り掛かろうとした。
私は突然のことに何も出来なかったけど、エリスは身体を張ってレイナを止めてくれた。
その後エリスとレイナが言い争いになって、結局アレクはみんなを騙していた自分が悪いと言って、いなくなっちゃた。
私は泣きながら止めたけど、アレクは聞いてくれなかった。
あのとき、私は思っちゃった……やっぱりアレクに一番近いのはエリスなんだなって。
だってエリスだけはアレクの想いに気づいてたみたいで、アレクがいなくなるって言っても何も言わなかった。
他のみんなが反対しなかったのとは全然意味が違うことくらい、私にも解るよ。
アレクが言った『ごめん』だって、私に言ったのとエリスに言ったのでは意味が違う。
そんなの……アレクを顔を見れば解ったよ。
私の方がアレクと先に会ったのに……
他の女の子と仲良くならないで言ったのに……
アレクはいなくなった後も、私たちに色々してくれた。
船に戻ると、船を自動で動かすマジックアイテムが置いてあって、使い方もアレクが『
船がカタルナに着いたときも、知らない人がアレクからのプレゼントだって、チョップスティックの人数分の
アレクがしてくれたことは嬉しいけど……
そんなことよりも、私はアレクの傍にいたいよ。
エリスたちとは何となく気まずくなったから、カタルナで別れた。
それから私たちはアレクと一緒に行く筈だった『バレアレスの大迷宮』に向かった。
理由は何となく……ていうのは嘘。もしかしたらアレクに会えるかなって思って。
私が行きたいって言ったら、グランたちも一緒に来てくれた。
だけど結局アレクはいなかった……当たり前だよね。
アレクは自分から離れて行ったんだから、そんなに簡単に会える筈ないよ。
でも、アレクがいないと寂しいよ。
エリスがアレクの一番かも知れないけど……
鬱々した気持ちのまま、私は『バレアレスの大迷宮』の攻略を始めた。
初めて行くダンジョンだから1階層から。
レベル的には余裕だけど、フロアが広いから時間が掛かる。
楽しい筈の冒険なのに、私は全然楽しくなかった。
「なあソフィア、らしくないぜ。おまえ、いつまで落ち込んでるんだよ?」
5階層で最初のフロアボスを倒した後、グランに言われた。
「グラン、何言ってるの。私は落ち込んでなんかないよ」
「嘘つけ。原因はアレクだろ」
そうだけど……どうしてグランはデリカシーがないの。
「俺もアレクが魔王だって知って、最初はムカついたけどよ。
考えてみりゃ、アレクが俺の親父や爺さんを殺した訳じゃねえし。あいつがいい奴だってことくらい、みんな解ってるからな」
「私は初めからそう思ってたよ。だけど、みんなは違うって思ったから……」
「だから、そういうのがソフィアらしくねえって言ってんだよ。おまえはいつもマイペースで空気なんか読まねえだろ」
う、酷い……グランは私のことそう思ってたんだ。
「その言い方はないっすけど。グランが言いたいのは、落ち込んでるくらいなら、アレクを追い掛けて行けってことっすよ」
シーラがニヤニヤしながら割り込んで来る。
「そうね。別に『バレアレスの大迷宮』に拘ってる訳じゃないしね。ソフィアの行きたいところに付き合うわよ」
「僕は初めからアレクのことを責める気はなかった。レイナは何を言ってるんだって思ってたくらいだ」
メアとカイまで私のことをけし掛けるけど……みんな、解ってないよ。
「でも、アレクの一番はエリスだから……」
「「「はあ?」」」
え、何? みんながジト目で見てる。
「ソフィア、おまえなあ……そんな理由でウジウジしてたのかよ。アレクに告白して振られた訳じゃないんだよな?」
「そ、そうだけど……」
「だったら、なんで戦う前に敵前逃亡するっすか? それこそソフィアらしくないっすよ」
そんなこと言わないでよ……私は解っちゃったから。
「ねえ、ソフィア。正直に答えて。貴方は本気でアレクのことが好きなのよね?」
メアが真面目な顔で私を見る。
「え……そんなこと……」
「ふーん。本気じゃないんだ」
「違うよ! 本気に決まって……あ!」
メア、何を言わせるの。恥ずかしくて堪らないよ。
「だったらソフィア、自分に素直になりなさいよ。貴方はエリスに負けてないから。私が保証するわよ」
「そうっすよ。顔だって可愛いし、ソフィアにはエリスにない武器があるっすから」
シーラはニヤニヤ笑って私の胸を見る……まあ、少しは自信あるけど。
「なあ、ソフィア。俺たちはアレクがいなくなるのを止めなかったけどよ。俺たちだって、またあいつと一緒に冒険したいって思ってるんだ。
だから、おまえも自信を持ってアレクに気持ちをぶつけろよ。俺たちが応援しているからよ」
「グラン……みんな……ありがとう」
私はみんなに勇気を貰った。
そうだよね、まだ諦めるのは早いよ。
素直にお礼を言うとグランが照れ臭そうにしてたけど、今日はいっぱい褒めたい気分だよ。
「とりあえず、メシでも食いに行こうぜ」
『バレアレスの大迷宮』は街から離れているから、ダンジョンを管理している公国の建物に冒険者が利用できる宿泊施設や食堂がある。
食堂はあんまりデザートが充実してないからイマイチなんどけど、今日は文句を言うつもりはないよ。
「あれ? あんたたちも来てたんだ」
聞き覚えのある声に振り向くと、レイナだった。
エリスや他のみんなも一緒だけど……
「レイナ、それにライラも……その顔、どうしたの?」
2人の顔は痛々しい痣と傷で一杯だった。
どんなことをしたら、ここまで怪我をするんだろう。
「そんなに強いモンスターと戦ったの?」
「ああ、怪我のことね。大したことないわよ。そんなことより……」
レイナは不意に真顔になって。
「アレクのことで、あんたたちにも迷惑を掛けたし、嫌な気持ちにさせたわよね。アレクに剣を向けるなんて、私が間違ってたわ。あいつが悪い奴の筈がないのに……だから、ごめん」
頭を下げて謝られて、私はちょっとびっくりした。
プライドの高いレイナがこんなに素直に謝るなんて。
「まあ、レイナも反省してるし。許してやって欲しいニャ」
「ううん。許すとかそんなんじゃなくて。私は何も出来なかったから、謝られる資格なんてないよ」
私は思わずエリスの顔を見る。
エリスはどう思っているんだろう。
「ソフィア、私たちのせいで貴方たちに迷惑を掛けたのは事実だから。
だけどレイナが言ったように、私たちは考え直したの。アレクに謝って、もし許してくれたら、また一緒に冒険したいって思ってるわ」
やっぱりエリスはリーダーなんだって思う。
レイナ1人を責めたりしないで、あのときだってレイナを説得しようとした。
やっぱりエリスには勝てないかも……
ううん! 弱気になったら駄目だよね!
私はみんなに勇気を貰ったんだから!
「ねえ、エリス。私たちも同じ気持ちだよ。私だって何も出来なかったことをアレクに謝って、一緒にいたいよ」
「そうね」
エリスが優しく笑う。
同性の私が見ても眩しいくらいの笑顔だ。
「でも私たちがアレクに会いに行くのは、もう少し先になるわ」
「え? どういうこと?」
「ソフィアもアレクからバレス・ロドニアのレベルを聞いたわよね」
「えっと、確か180……」
「185レベルよ」
割って入って来たのはレイナだ。
「あんな奴がまた出てきたら、私たちじゃ勝てないわよね。でも私はアレクに守って貰うばかりなのは嫌なのよ。
だから今度アレクに会うときまでに、あいつがびっくりするくらい強くなってやるわ」
レイナたちは『バレアレスの大迷宮』に来てからずっとダンジョンの中にいたんだって。
みんなダンジョンの経験者で直ぐに下の階層に行っちゃったから、今日まで私たちと会う機会がなかったみたい。
「次のイベントにはアレクも参加する筈だから。それまて私たちはこのダンジョンで鍛えるつもりよ」
「だったら……私も頑張って強くなるよ」
私だって、アレクと一緒に戦いたいから。
「強くなるのは良いと思うけど、ソフィアまで私たちに付き合うことないわよ。
求めるものはみんな違って良いと思うし、自分の考えで進めば良いんじゃないかしら」
それって弱くても良いってこと?
確かにエリスのレベルは私と同じくらいなのに、アレクと一緒に歩いてるって気がする。
だけど今までみたいに楽しいばかりの冒険をしてたら、エリスには絶対に勝てないよ。
「なあ、ソフィア。強くなるのは俺も賛成だがよ。俺たちは俺たちのやり方で良いんじゃねえか」
グランが私の肩を叩いてニヤリと笑う。
「楽しむことで見えてくるモノだってあるさ。強さには色々種類があるからな。
冒険を楽しみながらだって強くなれるって、俺たちで証明してやろうぜ。
なあ、ガルドの旦那……俺たちだって、負けねえからな」
「うん……グラン、そうだよね!」
またグランには勇気を貰った気がする。
私1人じゃ駄目だけど、みんなと一緒だから頑張れるんだよ。
「まあ、お互い頑張ろうぜ」
「ガルド師匠、何当たり前のこと言ってんのよ」
こうして私たちは暫く『バレアレスの大迷宮』の攻略を続けることになった。
アレクに会える日は少し遅くなりそうだけど……みんなと一緒に私は頑張るよ。
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