第43話 出陣
翌日からも俺とエリザベスは通常運転だった。
食事も世話も要らないとクエスに事前に言っておいたから、察しの良い彼女は余計なことはしなかった。
おかげで義勇兵が集結するまでの2日間は部屋にドッペルゲンガーを残して『始祖竜の遺跡』に戻ってアギトたちと模擬戦をしたり、各地の諜報員からの情報を整理したりと時間を無駄にすることなく過ごすことができた。
そして3日後。クエスの指揮の元に5,000人余りの義勇兵が集結した。
予想通り数だけの寄せ集めで、武器や装備すら十分じゃない。それでも士気だけは高いようだな。
大森林の村から出発して翌日、シリルたち冒険者と合流する。
4日前に来たときよりも人数が増えているのは、他の街に応援を頼みに行った冒険者が知り合いを連れて戻って来たからだ。
洞窟にいた冒険者たちは魔族軍の見張りと有事の際にクエスたちを逃がす担当で、
他の冒険者たちは今も応援を頼みに各地で動いている。
普通に考えれば、無謀な上に報酬が貰えるかも怪しいシャトラの奪還に冒険者が加担するなどあり得ないだろう。
だけどシリルたちは自腹を切る覚悟で、各地の冒険者たちに声を掛けて回っていた。
どうして、そこまでするのか。その理由はクエスがいるからだ。
「冒険者の皆さん、ありがとうございます。皆さんのおかげで助かりました。
ですが後は私たちの問題ですので、貴方たちはどうか安全な街に向かってください」
シャトラからエルフたちが脱出するのにシリルたちが協力したときに、クエスはそう言って冒険者たちを引き留めなかった。
クエスの父親であるイルマーハ辺境伯と兄たちは、市民を逃がすために魔族軍と戦って戦死したが、彼らは冒険者たちに戦うことを強制しなかった。
それどころか市民を逃がすことに協力する彼らに頭を下げて感謝の言葉を述べたのだ。
父と兄たちの遺志を継いだクエスも、市民を守るのは領主であるイルマーハ家の義務だと覚悟を決めており、その責務を他者に押しつけたりはしない。
そんなクエスだから、彼女支えるために多くのエルフたちが義勇兵に志願し、シリルたち冒険者も損得勘定ではなく動いているのだ。
俺としても、心を動かされて戦うみたいな熱い奴らは嫌いじゃない。
だから今の時点で合流できていない冒険者たちが、シャトラでの戦いに間に合うように手を貸すことにした。
義勇兵たちのペースに合わせるから、シャトラまでは1週間ほど掛かる。
俺とエリザベスは
その間俺たちは諜報部隊に指示して、まだ合流できていない冒険者たちにクエスとシリルたちがシャトラに向かったことを告げて回った。
彼らの現在地を特定するのはレベルMAX
そして翌日にはシャトラに到着するというタイミングで、俺はもう一つ仕掛けを施すことにした。
シャトラにあるイルマーハ辺境伯の元居城に再び潜入。
ジェリル・スレイアがいる部屋に向かうと『
今の
「よう、ジェリル・スレイア。いや、ジェリルに転生した奴って言うべきだな」
「貴様も転生者かい……だけど、どうやって侵入したんだい?」
190cm以上あるジェリルが、自分の身長よりも長い赤銅色の大剣を構える。
殺意と猜疑心を込めて俺を睨みつけると、いきなり斬り掛かって来た。
まあ、普通に避けたけど。
「自分の手の内を晒す筈ないだろ。それと今日のところは、おまえと戦うつもりはない。俺は宣戦布告をしに来たんだよ」
喋っている間に、ジェリルが何度も斬り付て来る。
その度に避けながら、俺は話を続けた。
「明日、俺はエルフたちを率いてシャトラを奪還しに来るからさ。おまえも全力で戦ってくれよ。
だけど街を壊すとお互いデメリットしかないからさ、シャトラの外で戦わないか」
「糞、ちょこまかと動きやがって……何を勝手なことを言っているんだい。こっちは籠城した方が有利だろうが」
「だったら街ごと叩き潰すまでだ。だけどエルフごときを恐れて籠城するとか、おまえってジェリルに転生したくせに小心者なんだな」
「安い挑発を……そんな手に乗るかい!」
「まあ、勝手にしろよ。じゃあ、明日おまえを叩き潰しに来るからな。よろしく」
俺は
まあ、こんなもので十分だろ。もし明日ジェリルがシャルナに籠城しても、少し距離を置いて布陣を敷けば、我慢できずに釣り出されるだろう。
この一週間、ずっとジェリルを観察して性格は解ったからな。
エリザベスが文句を言ったのに連れて来なかったのは、俺も学習したからだ。
もしエリザベスが一緒だったら、何度も俺に切り掛かったジェリルを殺していたかも知れない。
今殺すのは不味いからな。
クエスやシリルたちの想いを無にするほど、俺は空気の読めない男じゃない。
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