第51話 内緒話と騒ぎの後 ※エリザベス視点※


※エリザベス視点※


 もう……サターニャは何をしてるのさ。


 サターニャがアレク様の仲間に喧嘩を売ってると『伝言メッセージ』で部下から聞いた僕は、転移魔法テレポートで直行した。

 クラーナの冒険者ギルドに直行できたのは、勿論来たことがあるからだよ。


 だって僕的にはサターニャがアレク様と一緒に行動するって聞いたときに、こうなることは予想はついてたからね。

 サターニャはいつも猫かぶりするけど、気持ちに嘘はつけないから。


 僕が到着したとき、サターニャと赤目女が言い争いをしてるところだった。


「ふーん……良く解ったわ。あんたがアレクを騙そうとする性悪だってことがね」


 ねえ、君。馬鹿なの? サターニャにそんなことを言ったら……


「取消しなさい……誰よりも一番お慕いしているこの私がアレク様を騙す? そんなことは絶対……」


「おい、サターニャ!」


「……アレク様!」


 だけどサターニャはアレク様に抱きしめられて、喧嘩のことなんか忘れてうっとりしてた。

 えー……アレク様、サターニャだけズルいよ。


 だからちょっと邪魔してやろうと思って、『不可視インビジブル』と『認識阻害アンチパーセプション』を解除して割って入った。


「サターニャ、それくらいにしない? アレク様が困ってるから」


「何なのよ、エリザベス。今回は私の番じゃ……」


「僕だって邪魔するつもりはなかったんだけど。忠告してあげるけど、サターニャのしてることは逆効果だよ。あのね……


 アレク様にとってこの子たちは僕たちと同じくらい大切だから、喧嘩しても困らせるだけだよ。


 それにサターニャが思ってるように3人ともアレク様のことが好きだけど、僕たちみたいに言葉と身体でアピールしないから、アレク様に気持ちが伝わる心配はないよ。

 だけど僕たちがアレク様に抱きついてるところを見せると、自分もって思うかも知れないじゃない。


 まあ、アレク様は僕たちの想いも『遺跡の支配者』のせいだって思ってるから、なかなか伝わらないんだけどね」


 サターニャも納得たみたいで、アレク様に謝って帰ることになった。

 これ以上赤目女たちと一緒にいると、また喧嘩してアレク様に迷惑を掛けることになるからね。

 僕だって同行したらこの子たちと喧嘩になると思うよ。

 だってアレク様と一緒にいたら、抱きつきたくなるのを我慢できないから。


「レイナは誤解してるみたいだけど。俺はサターニャに騙されている訳じゃないし、サターニャだってそんなつもりはないよ。

 サターニャが抱きつくのはわざとだけど、俺のことを配してくれているのも本当なんだ。

 こいつは暴走するところがあるけど、いつでも本気なんだよ」


 まだ納得しない赤目女に、アレク様はサターニャを庇って言ってくれた。

 サターニャがいつもアレク様のことのだけを考えてるって、解ってくれてるんだ。

 物凄く羨ましいけど、悔しくなんかないよ。

 だって僕のこともアレク様は解ってくれてるって、自信があるから。


 だから……僕はアレク様が大好きなんだ。


 最後は部下として好きとか言われちゃって、ちょっと落ち込んじゃった。

 解ってることだし、今は仕方ないけど……いつか僕の想いが本物だって伝えてみせるから。


 あの子たちにだって、サターニャにだって絶対に負けないよ。

 だってアレク様のハートを射止めるのは、アレク様の全てを知っている・・・・・・・・僕だからね。


※ ※ ※ ※


 サターニャはエリザベスと一緒に帰って行った。

 まあ、サターニャが納得してるなら俺としては構わないけどね。


「なあ、アレク。さすがに俺もおまえに一言言いたいんだがよ。少しはソフィアのことをな……」


「や、止めてよグラン! 何を言い出すの!」


「そうすっよ、グラン。デリカシー無さ過ぎっす」


「でも私的には折角だからソフィアも宣戦布告しておいた方が良いと思うわよ」


「止めてよ、メアまで! もう……アレクに私の気持ちがバレちゃうじゃない」


 ソフィアが真っ赤になって蹲ってる。

 いや、思いっきり聞こえてるんだけど。


 とりあえずチョップスティックのメンバーとエリスたちと一緒に夕飯を食べることになった。

 奥のテーブルを囲む俺たちから他の冒険者たちは距離を置いて、チラチラと遠巻きに見てる。

 まあ、俺とサターニャが仕出かしたら仕方ないし、特に気になる訳じゃない。

 もう俺は自分が元魔王だって隠すつもりはないから。勿論、関係ない奴にまでわざわざ言わないけどな。


「ねえ、アレク。さっきの2人だけど……ううん、何でもないわ」


「レイナ、そこまで言ったら同じじゃない。それに私だって気になるわよ」


「私も……ねえ、アレク。サターニャさんとエリザベスさんのこと、もっと詳しく教えてくれよ」


 俺の両隣にはレイナとソフィアが、向かいにはエリスが座っている。

 3人に囲まれて質問されたら、逃げ場がないだろ。いや、隠すつもりはないんだけど。


 他のみんなも興味津々という感じだから、テーブルを囲むように『防音サウンドプルーフ』を発動して俺は説明を始める。


「さっきサターニャとエリザベスが言ってたけど、2人とも俺の部下を取り纏める幹部なんだよ。あいつらのことは信頼してるし、俺よりずっと優秀だから、仕事は完全に任せてる」


「あのねえ……私が訊きたいのは、そう言うことじゃないんだけど」


「でも、レイナ。これでやっぱりそういうこと・・・・・・・・・・だって解ったわよね」


「え? エリス、どういうこと?」


「ソフィアにはさっきのことも説明する約束だったわね。つまり……あの2人は私たちと同じってことよ」


「え……えーと。サターニャさんとエリザベスさんのことは解った気がするけど。私たちと同じって……エリスも私と同じってこと?」


「当たり前じゃない。私だって……」


 うーん……会話について行けない。

 なあ、エリス。俺の顔を見て溜息をつくなよ。


「アレク、部下とか仕事とか言ってるけどよ。おまえは魔王を辞めたんだよな? 仕事って何をしてるんだよ」


 2人を部下として紹介した時点で、こういう質問をされることは想定していた。


「まあ簡単に言うと、この世界で何が起きているか情報を集めているんだよ。魔族軍や他の国の動きとか、前に話した俺が転生する前にいた世界の物語と、この世界で起きていることの何処が同じで何処が違うとかな」


 さすがに諜報部隊や『始祖竜の遺跡』の戦力のことまで詳しく説明するつもりはない。

 みんなのことを信用してない訳じゃないけど、過大評価されて何でもできると思われても困るからな。


「てっことはよ……魔族だから敵だって言うつもりはねえが、あの2人も魔族なのか?」


「いや、魔族じゃない。俺は魔族からも情報収集してるけど、部下に魔族はいないよ」


 全員自我に目覚めたモンスターだけどな。


 みんなは冒険者だからか、俺に気を遣っているのか、それ以上細かいことまで詮索しなかった……ライラ以外は。いや、別に大したことじゃないけど。


「情報収集と言えば、アレクは盗賊ギルドにも手を回してるんじゃないかニャ? 金払いの良いパトロンがいるって話を最近良く聞くんだけどニャ」


 ライラの推測は間違ってない。諜報部隊を組織するまでは盗賊ギルドが俺の主な情報源だったし、今も諜報部隊を通じて利用しているからな。


「だったら私も一枚噛ませて欲しいニャ。知り合いに優秀な盗賊が一杯いるから、絶対役に立つニャ」


「ああ、そう言うことか。別に構わないけど」


 何か普通にみんなと会話してる……いや、もっと色々とわだかまりがあると思ってたんだよ。

 元魔王だってカミングアウトしたから、もうみんなと一緒にいることなんてできないと思ってた。


「ねえ、アレク……」


 声の方を向くと、レイナが唇を噛みながら俺を見つめていた。


「いきなり騒ぎになって、言うのが遅くなっちゃったけど……ごめん。あのときはいきなり切り掛かろうとして……私が間違ってたわ……」


 ときどき言葉を詰まらせながら、レイナは続けた。


「あんたが悪い奴じゃないって解ってた筈のに……魔王だって聞いて頭に血が上って……許してなんて言えないけど……

 でも……ずっと謝りたかったの。アレク、ごめんなさい……」


 こんな風に謝られるなんて、思ってもいなかった。

 だから掛ける言葉がみつからない。


「もう良いよ、レイナ。俺の方こそごめん……みんなにも改めて言うけど、ごめん。

 魔王だってことを隠して、みんなを騙していて……」


「ううん、アレク。私の方こそ、あのときは止められなくて……」


「それは私もだよ……ア、アレク、な、何もできなくてごめんね……」


 声は聞こえなくても他の奴らに見せたくないから、周りを『闇の壁ダークウォール』で囲んで視界を閉ざした。後で何を言われても構わない。


「何だよ、これじゃ酒が注文ができねえだろ。なあ、ガルドの旦那」


 グランがニヤリと笑ってジョッキを掲げる。


「ああ、そうだな。アレク……その、何だ。これからもよろしくな」


 ガルドが照れ臭そうに言う。

 何だよそれ……勝手に決めつけてたのは俺の方か。

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