第38話 それぞれの想い ※エリス・レイナ視点※


※エリス視点※


 アレクが突然自分は魔王だと正体を明かして、私たちの前からいなくなった。

 ソフィアたちチョップスティックのメンバーとも、それから気まずくなって……

 どちらからという訳じゃないけど、2つのパーティーは別々に行動することになった。


 アレクの気持ちは知っていたから、いずれこうなることは解っていた。

 だけど突然過ぎて……気持ちの整理がつかない。

 アレクは強い人だから1人でも生きられるし、沢山の配下がいるって聞いているから大丈夫だと思う。

 だけど私は……ううん、私も頑張らなくちゃ。


 レイナを責めるつもりはなかった。

 私にそんな資格はないし、魔族に両親を殺されたレイナに何も言えないもの。

 それにレイナは絶対に認めないけど、レイナ自身が自分を責めていることに気づいていたから。


「エリス、後ろは任せたわよ。ガルド師匠、カバーをお願い!」


 ウルキア公国に戻った私たちは、再び『バレアレスの大迷宮』に向かった。

 アレクは正体を明かす前にバレス・ロドニアのレベルを教えてくれた。

だから、これから私たちだけで戦うには、もっとレベルを上げなくちゃ駄目だって思ったの。


 言い出したのレイナだけど、みんなそう思っていた。

 だけど『バレアレスの大迷宮』に行くのは、レベルを上げることだけが目的じゃないことも解っている。

 モヤモヤした気持ちに整理を付けるために……ううん、誤魔化したいだけかも知れない。

 それでも、じっとしているよりはマシだから。私たちは『バレアレスの大迷宮』の攻略に没頭した。


※ ※ ※ ※


※レイナ視点※


 アレクが魔王だなんて……ふざけるんじゃないわよ!

 私やガルド師匠より強くて、こんな凄い人と一緒に戦えるんだって……浮かれていた自分が恥ずかしいじゃない!


 あいつが魔王だと知った瞬間。私は頭に血が上って、気がつくと剣を抜いていた。

 エリスが止めなかったら、絶対あいつに切り掛かっていたと思う。

 だって、あいつは私の家族を殺した魔族の王だから……

 私は魔族を殺すために生きているんだから。


 なのに、アレクがいなくなっても全然スッキリしないのは、あいつを殺せなかったから?

 あいつに全然相手にされないほど、私が弱いから?

 あいつ騙されていたことが悔しいから?

 もう……全部違う気がして、訳が解らないわ!


 あいつのことを考えてもイライラするだけだから、何も考えずにできることをしようと思った。

 だから私たちは『バレアレスの大迷宮』に向かった。戦いの中なら、余計なことを考えないで済むから。


 そう思っていたけど、戦いながらもあいつのことを思い出してしまう。

 あいつに戦い方を教えて貰ったから?

 あいつがずっと隣にいたから?

 あいつが隣にいれば、どんな敵にも勝てる気がした……

 うっ……今さらこんなことを考えるなんて、ホント最悪!


「ねえ、レイナ……少しだけ話をしても良い?」


「あいつの話以外ならね」


 エリスとあいつは同じ転生者同士だし、仲が良かった。

 ベタベタするとかじゃなくて、互いを信頼している感じだった。

 だからエリスがショックを受けているのは知ってるけど……自分の方があいつのこ・・・・・・・・・・とを知ってる・・・・・・って態度がムカつくのよ。


「ごめんなさい。彼の話なんだけど……レイナが嫌なら日を改めるわね」


「明日も明後日もこれからだってずっと……あいつの話なんて聞きたくないわよ!」


 エリスは良い奴だし、八つ当たりする気なんてなかった。

 だから、あいつの話なんてしないでよ。


「解ったわ……もうしないから」


 エリスは寂しそうに肩を落として、私の前から立ち去ろうとする。

 ああ……私の方こそ最悪だ。


「ごめん、エリス……私はどうかしてるのよ。あれからずっと……」


「まあ、喧嘩はストレス解消になるからガンガンするニャ」


 突然割り込んで来たのはライラだ。


「あんたねえ……盗み聞きするなんて、本気で怒るわよ!」


「うん? 暗殺者の私にそんなことを言われてもニャ。

 売られた喧嘩は買うけどニャ、今のレイナは口だけだからニャ」


 ニヤニヤ笑うライラに、私はカッとなった。


「ライラ、ふざけるんじゃないわよ! 良いわ、相手になってあげる!」


「ちょっとレイナらしくなってきたニャ。ゴチャゴチャ考えないで、自分の気持ちに素直なのがレイナの良いところニャ。だから自分が間違ったと思ったら、素直に認めるニャ」


「あんた……何が言いたいのよ?」


 私が睨みつけても、ライラは全然平気だった。


「レイナも本当は解ってる筈ニャ……あ、金貨が落ちてる」


「え?」


 思わず下を向いた瞬間、ライラの蹴りが頭にヒットした。


「この……何すんのよ! ライラ、卑怯よ!」


「だから私は暗殺者なんだから、卑怯も何もないニャ。それにレイナは相手になるって言ったから、もう喧嘩は始まっているニャ」


「こいつ……絶対に泣かせてやる!」


「大口は勝ってから吐くニャ!」


 私とライラは互いにHPがなくなって、ボロボロになるまで殴り合った。


「レイナは……やっぱり強いニャ」


「ライラ、あんたこそ……素早くて、捕まえるのに苦労したじゃない」


 床の上に寝そべる私たちに、セリカが呆れた顔で回復魔法を掛ける。

 HPが残っていればすぐに回復するけど、怪我まで負うと簡単には回復しない。

 自分でも本当に馬鹿な事をやったと思う。

 だけど今はイライラした気持ちが消えて、自分は単純だって気づいた。

 ホント、笑えるわ……嫌な意味じゃなくて。


「セリカ、ありがとう。もう大丈夫だから」


「レイナ、駄目よ。まだ怪我が治ってないじゃない。何日かダンジョン攻略を休んで、怪我を直さないと」


「HPがあるから大丈夫よ。今の私は思いっきり戦いたい気分だから」


 イライラしてるとかじゃなくて、もっと強くなりたい。


「レイナがようやく素直になったニャ。でもボロボロなんだから、明日くらい休めば良い二ャ。何で明日もダンジョンに行くニャ?」


「決まってるじゃない。今度あいつと会うときまでに、びっくりするくらい強くなってやるためよ。だから一日だって休んでなんかいられないわ!」


 こういうときにガルド師匠は何も言わない。黙って見守ってくれている感じで、さすが師匠だと思う。


「レイナ。それじゃ……」


 エリスが泣きそうな顔で私を見ている。


「うん……ごめん、エリス。私が間違ってたわ。転生者のあいつは好きで魔王になった訳じゃないし、もう魔王を辞めて魔族と戦っているんだから、私たちの敵じゃないわよね」


「えっと……これは余計なことかも知れないけど。アレクは相手が魔族だから戦っている訳じゃないわ。

 魔族だからとか他の種族だとか、そんなことはアレクには関係なくて。自分が許せないと思うことする相手と戦っているのよ」


「ふーん……エリスはホント真面目ね。でも、それで構わないわよ。私はあいつが馬鹿なことをやるとは思わないから」


 やっぱりエリスの方がアレクのことを解ってる……悔しいけど今はね。

 だけど私だって負けるつもりはないから……え? 私は何を考えてるの?

 まあ、良いわ。とりあえず、それは置いておいて……

 

 あいつに会ったら、どうやって謝ろうかな?


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