第37話 これからのこと


 『始祖竜の遺跡』の最下層まで移動してから、俺が不在にしていた間のことについてアギト、ロンギス、サターニャから報告して貰う。

 いや、報告を訊くまでもなく……最下層の様子が変わり過ぎだろ。


 最下層の中心部は元々高い天井を活かした巨大な広間と化していて、一番奥には天井まで届きそうなほど背もたれの高いクリスタル製の玉座があり、入口から玉座までフカフカの赤い絨毯が敷き詰められている。


 さらに壁には品の良い彫刻が施されており、床は大理石。天井には黒い翼と羊のような2本角……アレクを美化した天井画。

 絨毯の左右に居並ぶ最下層の戦士モンスターたちが掲げるのは、赤地に黒と金で刺繍した軍旗で刺繍されてるのも……たぶん俺の姿だ。


「おい、おまえら……これはどういうことだよ?」


「はい。アレク様が好きにしろと仰いましたので……お気に召しませんでしょうか?」


 アギトが沈痛な顔で俺を見る。いや、確かにそう言ったけどさ。


「悪くないと思うけど……いや、そうじゃなくて。ああ、素晴らしいよ」


 『太古のエンシェント神の騎士団ゴッズナイツ』の団長にそんな顔を去れたら、文句なんて言える筈がないだろ。

 だけど、せめて天井画だけは止めて欲しかった。


 まあ、誰かを招く訳でもないし。俺が恥ずかしさを我慢すれば良いだけの話だ。


 アギト、ロンギス、サターニャの順番に報告を受けた。

 アギトは主に『始祖竜の遺跡』の設備面の充実と、適材適所を考えたメンバーの入れ替えを行っていた。

 設備的にはこの広間とか俺の部屋とか訓練用の闘技場とか……『始祖竜の遺跡』がどんどんダンジョンじゃなくなって来ている。

 メンバーについては、俺は階層ボスというだけで各階層指揮官にしたけど、そのうち半分がすでに入れ替わっていた。


「アレク様が決められたことを変えてしまい、申し訳ありません」


「いや、別に構わないよ。アギトの方が俺よりも戦士たちを良く見ているからな」


 ロンギスは戦士たちをさらに鍛え上げていた。

 エボファンは自分よりもレベルの高い相手から『鍛錬』を受けると多少は経験値が入る。

 だけどロンギスのやり方はもっと実戦形式で、実際にHPを削り合わせるのだ。

 HPを削った方が『鍛錬』するより経験値が入るから、おかげで戦士たちのレベルが上がっているし、プレイヤースキルもさらに上がっていた。


「俺たち3人も散々真剣勝負タイマンしましたから、強くなった自信はありますよ。だからアレク様、俺と殴り合いステゴロしてくださいよ」


「解ったよ、ロンギス。後で付き合ってやるから」


 最後にサターニャだけど、戦闘面とは別に女性の戦士たちを組織化していた……メイドとして。

 俺の身の回りの世話をするメンバーを募ったところ、大量に応募があったらしい。

 その中からサターニャが厳選した戦士たちが揃いのメイド服を聞いてる……いや、リアルエボファンの世界にもメイドはいるし、美人揃いだけど。何でメイド?


「アレク様。私、サターニャ・ヘルスカイアがメイド長を兼任し、アレク様のお世話を全てさせて頂きたく思いますが……駄目でしょうか?」


 艶やかな藍色の髪で口元に牙が覗く美女が、上目遣いでお願いする。


「うわー……サターニャ、なに猫かぶりしてんの。僕、完全に引いたよ」


「黙りなさい、エリザベス……ぶっ殺すわよ」


「おい、2人とも……サターニャ、メイドのことは全部任せるから好きにしろよ」


「アレク様、ありがとうございます! これでアレク様の全てが……」


「いや、そういう意味じゃないから」


 エリスたちやチョップスティックのメンバーと一緒にいるのも楽しかったけど、こいつらと話していると飽きないよな。


 報告が終わるとロンギスと約束通りに模擬戦をやった。

 何故かアギト、サターニャ、エリザベスの3人も加わることになったけど。


 それから5人で食事をして……どうやって憶えたのかメイドたちが作った料理は美味かった。

 ちなみに食材は戦士たちが『始祖竜の遺跡』の外に出て狩りをしたり、外のモンスターを倒して得た金で購入したそうだ。

 俺はアギトたちに大量の金を渡しているけど、それは軍資金だからと手を付けなかったらしい。


 まあ『始祖竜の遺跡』にいる限り、ダンジョンコアからエネルギーを供給されるから、こいつらも食事なんて不要なんだけど。食べる楽しみを覚えることは良いことだからな。

 さらには風呂だ。『始祖竜の遺跡』の最下層に大浴場が作られていた。

 しかも混浴とか……俺が魔法で壁を作って、強制的に2つに分離したけどな。


 そして極めつけは俺の寝室だ。天蓋付きの巨大なベッドと趣味の良い調度品は良いとして……なんで左右の隣がサターニャとエリザベスの部屋で、互いに行き来できる扉まで付いてるんだよ。

 当然、扉は多重結界で永遠に封印したけど。


「全く、あいつら何を考えてるんだよ……」


 寝室でベッドに横になって身体を伸ばす。

 アレクは眠る必要なんてないけど、ここなら一人になれるし。

 俺は一応『始祖竜の遺跡』の支配者だからな、さすがにアギトたちや戦士たちの前でだらしない格好はできない。


「さてと、これからどうするかな……」


 レイナたちとは別れたけど、俺は『始祖竜の遺跡』に引き籠もるつもりはない。

 エボファンの物語メインストーリーに絡む3つ目のイベントまで、まだ2ヶ月はあるし。 

 少なくとも間接的には物語に参加して楽しもうと思っている。


 それまでの間も、一応幾つか候補は考えている。

 エリザベス率いる諜報部隊に色々と調べさせているからな。


「そう言えば……」


 エリスとソフィアからは、すでに『伝言メッセージ』が届いていた。


『アレクは馬鹿よ……全部自分で背負うことないのに。でも貴方が決めたことだから、私は応援するわ。また必ず一緒になれるって信じてる……あ、違うの。友達としてね』


『アレクが魔王だと知って、みんなビックリしただけだからね。すぐに誤解が解けるから……アレク、早く帰って来てね』


 2人には『伝言』の礼と、少なくとも暫く冷却期間が必要だと思うとだけ伝えた。

 だけど本音を言えば、そんなに簡単に和解できるとは思っていない。

 レイナとガルド、グランは魔族に家族を殺されているからな。

 もう辞めたとはいえ、アレクは魔王だったんだから。


 自分で決めたことで、全部解っていた筈だけど……

 それでも、こんな風に俺自身が感じるとは想像していなかった。


 知らなかったよ……俺ってメンタル、滅茶苦茶弱かったんだな。

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