第34話 事件の結末


 俺はバレス・ロドニアと2人で話をするために奴の城に向かった。

 みんなは先に船を止めてある場所まで戻ることになった。

 200レベル超え設定のアレクなら、余裕で追いつけるからな。


 道中は2人とも無言で、再び地下道を通ってバレスの部屋に戻ると……奴の態度が豹変した。


「君は色々と勘違いしてるみたいだけど。転生したのが魔族でなかったら、君のポジションにいるのは私だからね」


 バレスは3つ目で俺を睨みつける。


「いや、仮定の話は良いからさ。さっさと本題に移るぞ。

 『楽園』の密売を仕掛けた責任はキチンと取らせるし、レイナたちに手を出すなら俺が相手になるからな」


 俺が気になったのはバレスの目つきだ。

 ファンとか言いながら、レイナたちを見る目が何かやらしい。


「ああ、そう言うことか……ところで君は、メインキャラの誰かともうやった・・・のかい?」


「いや、おまえさ……バレスはイケメンだけど、おまえの性格は最悪だな」


「君こそ何を言ってるんだよ。せっかくエボファンの世界に転生したんだから、メインキャラたちとやりたいと思うのは当然だろう?

 この世界は力が全てなんだ。4人纏めてだってどうにでも出来るだろう」


 全然話にならない……マジでムカつく。

 同じエボファン好きとして、こいつの気持ち解ると思った自分に腹が立つ。


「おまえさ……もう黙れよ。でないと殺したくなるから」


「いやいや……言うのは勝手だけど、君は自分の立場を理解した方が良いよ。

 君も『鑑定』を使ったなら解っているだろう。私のレベルは185で、私が一言言えば魔族の軍勢が押し寄せる。だから、君に勝ち目なんかないんだよ」


「へえー……たかが185レベルの癖に、随分と自信があるんだな」


 俺は仮面を外して素顔を晒す。


「え……もしかして、君は魔王アレクに転生したのかい?」


「ああ、そうだけど。アレクのレベルくらい知っているよな。その上で俺とやり合うのか?」


 こういうやり方は趣味じゃないけど、力の差を教えるには手っ取り早いからな。


「いや、ズルいって思うけれど……だったら仕方ないか。

 アレクは人間の姿にもなれるって設定だから、それで君は上手くやってるんだろう。本当に羨ましい限りだね」


 アレクの設定に関しては、こいつも解ってるみたいだな。

 だけど、こいつの言っていることは全然理解できない。


「上手くやってるって、どういう意味だよ……ふざけるな。レイナだってエリスだってセリカだってライラだって、この世界で自分の意志で生きてるんだ。おまえがみんなを侮辱するなら……今すぐ殺すぞ」


 俺は本気だ。バレス・ロドニアに転生した奴が好き勝手なことを言うなら、容赦するつもりはない。


「ああ、解ったよ。私も頑張ってレベルアップしたけど、さすがに魔王アレクには勝てないからね」


「何だかなあ……そういうレベルの問題じゃないから。ねえ、アレク様。この頭の悪い奴を始末する機会を僕に与えてくださいよ」


 突然現れた金髪碧眼の美女は、太古のエンシェント神の騎士ゴッズナイトの1人で、諜報部隊の指揮官。ノーライフクイーンのエリザベス・ドラキュリーナだ。


「彼女は誰だ……そんなプレイヤーキャラ、私は知らないぞ?」


 エリザベスを見る目がやらしい。こいつは女キャラなら誰でも良いのか。

 エリザベスもバレスの視線に気づいていて、ゴミを見るような目をしている。


「だから、馬鹿は黙りなよ。アレク様に失礼じゃないか」


「いや、エリザベス。まだこいつとの話は終わってないからな」


「え……エリザベスって、まさか太古の神の騎士団なのか?」


 バレスに転生した奴も、結構なエボファン廃人みたいだな。

 だけど、こいつに共感するところは何もない。


「なあ、バレス。獣人を使ってウルキア公国に2つ目の密売ルートを作ってたけど、あれは俺たちの裏をかいて密売を続ける為だよな」


「まあ、間違ってないかな。メインキャラに降伏すると、最悪私は失脚するかも知れないからね。

 失脚しても悠々自適な生活が送れるように、できるだけ金を溜め込んでおきたかったのさ」


 バレス・ロドニア伯爵の求心力は『楽園』の密売による財力だ。

 ゲームではさらにウルキア公国とギスペルに紛争を起こさせて、両国が弱ったら征服することで力を伸ばそうとしていた。


 だけどバレスに転生した奴は、あくまでも金を稼ぐだけで、本気で紛争を起こす気はなかったみたいだな。結果として紛争が起きたら、放置するつもりだったんだろうが。


「じゃあ、バレス。おまえの責任の取り方だけどさ。『楽園』で稼いだ金を全部寄越せよ。おまえの罪を償うために、俺が有効利用してやる」


「ちょっと、待ってくれないか! せっかく稼いだ金を取られたら、私がしたことの意味がなくなるだろう」


「おまえはバレスを演じただけよな。だったら、金なんて要らないだろ。おまえのせいで被害が出たんだから、金は被害者のために使ってやる」


 麻薬中毒者の治療や社会復帰をさせる施設とかか、この世界にそんなモノはないだろうけど。

 泡銭として無駄遣いさせるくらいなら、教会にでも寄付して慈善活動に使って貰うか。


「おまえの損失は『楽園』を除けばゼロに近いよな。

 だけどそれは俺が見逃したからで……何なら今から、おまえの城と部隊を壊滅させてやろうか」


「そ、そんな……」


 自分で言いながらヤクザの台詞だなと思ったけど、

俺はこいつを簡単に許すつもりはない。


「それと監視役としておまえの城に俺の部下を常駐させるからな。

 俺たちのことを魔賊軍にタレ込むとか、他に悪巧みをするとか……まあ、好きにすれば良いよ」


 絶望の縁に落ちるバレスを見ても、俺は何とも思わなかった。

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