第33話 降伏の条件
美形の魔族バレス・ロドニア伯爵はゲームでは序盤で倒される敵キャラだけど、イケメンキャラとして人気が高かった。魔王アレクよりも全然……
いや、そんなことはどうでも良いけど。
「私は降伏するよ。だから早まらないでくれないか」
バレスは今回のイベントに絡む転生者なのに、いきなり降伏して来た。
「あんた……ふざけてるの?」
「いやいや、勇者レイナ・アストレア殿。私は真面目に降伏すると言ってるんだよ。
配下の魔族軍には手出しをさせず、『楽園』の取引も終わりすることを、この私バレス・ロドニアの名に懸けて誓いうよ。だから、それで手打ちにしないか?」
「ふざけないでよ……何を企んでるの。それに、どうして私の名前を知ってるのよ」
レイナたちもチョップスティックのメンバーも臨戦態勢で武器を構えている。
だからバレスは不利だと降参したように見えるけど……こいつのレベルは185だ。
俺は『
だから普通に考えれば11対1でも勝つのはバレスだろう。
「みんな、とりあえず手を出すなよ。なあ、バレス……おまえは何を考えている?」
「おや、君も転生者なのかい? 見たことがある顔のような気もするけど……それにしても大人数だね。この中に転生者は何人いるんだ?」
バレスは一切敵意を見せずに、気楽そうに話を進める。
「転生者って……サリア村を襲撃した魔族も言ってたけど、私の名前を知っていることと関係あるの?」
ガーランドのときは戦いが激しかったこともあって、転生者の話は有耶無耶になったけど。ここまでストレートに言われると、話がややこしくなるから止めて欲しいな。
「レイナ。良い機会だから、転生者のことは後でキチンと説明するよ。だから、先にバレスと話をさせてくれ」
「……解ったわよ。約束だからね」
俺はみんなを身振りで下がらせて、バレスの前に進み出る。
「メインキャラじゃなくて、君がリーダーなのか。羨ましい立場だね」
「あのさ、そう言うのは良いから。俺は『鑑定』が使えるから、おまえのレベルを知ってるんだよ。その上で訊くけど、本気で降伏するっていうなら理由を教えてくれないか」
「理由かい? 私もエボファンが好きだからね。バレス・ロドニアに転生したから敵役を演じたけど、メインキャラの邪魔をするつもりはないんだ。だから城に攻め込まれたら降伏するって、最初から決めていたんだよ」
俺もその気持ち解る……って思わず言いそうになったけど。
こいつを信用するのは、まだ早いな。
「じゃあ、『楽園』の採掘場を破壊して構わないよな。鍵はおまえが持ってるだろ」
「ああ、勿論だよ。だったら今から君たちが抜けて来た地下道を通って、採掘場に行こうじゃないか」
バレスは気楽に請け負うと、階段を下りて地下道へと向かう。
何か仕掛けて来ないかと警戒しながら、俺がバレスの後ろを歩いて、みんながその後に続いた。
地下道を抜ける間もモンスターは襲って来なかった。
バレスがモンスターを支配しているからだ。
魔族にはモンスターを支配する能力があり、レベルが上がるほど支配力が増す。
地下道を海側の入口から出て、さらに30分ほど移動した。
俺たちは
『楽園』の採掘場は石碑のような建物の地下にあり、建物の壁と扉は魔法で強化してあるから、ゲームのときはバレスの鍵がなければ絶対に中に入れなかった。
バレスは鍵を開けると、俺たちを建物へと導く。
中は一繋がりの広い部屋で、中央にある階段がそのまま採掘場に繋がっている。
「奥の方に埋まっている紫色の鉱石が『楽園』の原石だ。砕けばそのまま麻薬として使える。
採掘場を破壊するのは全然構わないけど、もし知らなかったら危険だから一応説明しておこう。
『楽園』は引火性が高いから、魔法で破壊するなら外から打ち込んだ方が良い」
バレスが言っていることは本当で、ゲームのときはレベルの低いプレイヤーキャラでも簡単に破壊できるようにするための設定だった。
バレスのことを警戒しながら、火属性魔法が得意なカイが第5階層の攻撃魔法を放つと、採掘場が爆発して建物も崩れ始めたので急いで脱出する。
地盤沈下化が起きて、魔法で強化された筈の建物も完全に崩壊した。
ゲームのときは過剰演出だと思ったけど、リアルだともっと派手だな。
「さあ、これで私は『楽園』を生産することはできなくなった。城にはまだ在庫があるけど、それも処分しに行くかい?」
「いや、それはおまえの責任で処分してくれ」
在庫の場所は把握しているし、城には諜報部隊を潜伏しているからな。
バレスに任せた方が本心を測ることができる。
「ほう……私のことを信用してくれるのかい? そんな感じじゃない気もするけど……了解したよ。約束は必ず守るから」
バレスに転生した奴は掴みどころがなくて、どこまで本気なのか解らない。
だけど『楽園』の採掘場を破壊したのは事実だし、在庫も大して残ってないからな。
これで『楽園』に関しては粗方解決したけど、市場に出た分がまだ残っている。
ギスぺル側の密売ルートも後で潰しておくか。
「じゃあ、これで手打ちということで構わないね。私はファンの1人として、君たちのこれからの活躍を祈っているよ」
このままバレスと別れれば、城にいる魔族軍と戦うリスクはない。
だけど、みんなが納得していないの解っている。
「いや、待てよ。おまえが『楽園』の密売を仕掛けたことで死者が出ているんだし。
ウルキア公国とギスペルの関係だって悪化してるんだから、このまま無罪放免という訳にはいかないだろ」
「それって……もしかして降伏した私を殺すってことかな? 私としてはお勧めしないけど、どうしてもって言うなら仕方ない」
バレスは笑っているけど、殺意がタダ漏れしている。
みんなもそれに気づいて、即座に臨戦態勢に入った。
「いや、そういう意味じゃなくて。俺とおまえの2人で『楽園』に関する責任の取り方について話し合おうってことだよ」
「なるほどね……解ったよ。私も君とはじっくり話をしたいと思っていたところだ」
俺とバレスの話は纏まったけど、みんなが納得した訳じゃない。
「アレク、あんた……勝手に話を決めないでよね。あんた1人で何をするって言うのよ」
レイナが俺を睨んでいる。レイナが俺のことを心配してるのは一応解っているつもりだ。
「レイナ、俺は大丈夫だからさ」
「そうね。アレクのことなら心配する必要はないわ」
「私もそう思うよ……やり過ぎないか心配だけど」
エリスとソフィアがフォローしてくれた。
2人に言われて、レイナも渋々納得したようだ。
「へえ……君はみんなに慕われているんだね。本当に羨ましいよ」
バレスの殺意が増したように感じたのは、俺の気のせいじゃないな。
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