第32話 ロドニア伯爵


 魔族の領域にはモンスターが多い。

 だから馬車で陸路を移動していると、当然のように何度もモンスターと遭遇した。


「そいつは私に任せて。エリスは後ろを頼むわ」


「グラン、メアとカイのカバーをお願い」


 エリスたちとチョップスティックは、基本的にはパーティー単位で戦っていた。

 その方が上手く連携できるから問題ない。


 だけど戦闘になるとレイナが真っ先に飛び出すのはいつものことだけど、ソフィアまで影響されたのか一緒に先陣を切るようになった。


 今戦っているのは2体のアーマードマンティコア。獅子の身体に人間の顔、蠍の尻尾がある定番モンスターが鎧を纏ったタイプだ。

 レベルは30と結構な強敵だけど、レイナは2本の剣で敵の攻撃を捌きながら確実にダメージを与えている。


 ソフィアの方はちょっと苦戦したけど、カイが攻撃魔法で支援して何とか撃退した。

 レイナとソフィアは多少レベル差があるけど、それ以上にレイナのステータスはプレイヤーキャラの中でも突出しているからな。


 プレイヤースキルでも今はレイナの方が上だから、レイナに勝てないのは仕方ないけど……


「ふん! 私の勝ちね」


「私だって……次は負けないから」


 2人とも、ちょっと対抗意識が強過ぎないか?


「ねえ、アレク。今の私の戦い方で不味いところがあったら教えて」


「私別に問題ないと思うけど……アレク、あとで模擬戦に付き合いなさいよ」


 いや、俺まで巻き込むなよ。


「アレク、何か苦労してるみたいだな。だけど自業自得だ、同情はしねえからな」


「何だよ、グラン。俺は何もしてないだろ」


「何もしてねえから悪いんだって。なあ、ガルドの旦那」


「いや、俺は……ハッキリ言うが、この話には関わりたくないぜ」


「僕も同感だな。そういうのは面倒なだけだし」


 せっかく男が増えたのに、俺の味方はいなかった。

 いや、だから勘違いだって言ってるだろ。

 レイナもソフィアも強くなりたいだけだから。


※ ※ ※ ※


 陸路を2日ほど移動すると、ロドニア伯爵の城が見えて来た。

 城下町がある訳じゃなくて、城というよりも海辺の要塞という感じだ。


 城から直接壁に囲まれた港に繋がっていて、港には鉄板で船体を補強した4隻のガレアス船が停泊している。

 城にいる人数も考えると、正面から乗り込むには敵の数が余りにも多過ぎるな。


 ゲームのときと同じで、ラウル・ブラッドリーを監視していた魔族から、城へと続く秘密の地下道の情報は聞き出している。

 ロドニア伯爵が非常時に脱出するための地下道って設定だけど、これがなかったら話が詰むからな。


 だけど今回は向こうにも転生者がいるんだから、普通に考えれば地下道なんて潰しているだろう。

 もし潰さないとしても、モンスターを強化して待ち構えている筈……って思ってたんだけど。


 ゲームと同じ場所に移動すると、城から少し離れた海辺に地下道の入口を発見。

 俺たちが中に入ると、すぐにモンスターが襲って来た。


「おい、レイナ。今度は自重しろよ。先行し過ぎると連携が崩れるからな」


「ガルド師匠、解ってるわよ」


「私だって……グラン、隣をお願いね」


「ああ。守りは俺に任せろ」


 最初はクラーケン……といっても、そこまで巨大な奴じゃない。

 体長5メートルほどのイカを2つのパーティーで連携して片づける。


 海洋系のモンスターが暫く続いて、何度か回復魔法を使いながら進む。

 俺を除いても30レベル台が10人いるからな。

 ゲームのときよりも全然余裕で、出口の前にする門番のところまで辿り着いた。


 門番はメタルガーゴイル2体。全身金属でVITが高くレベルも35と今まで戦った中では最強クラスで、ゲームのときは苦戦したけど……


「イマイチ歯ごたえがないわね。これじゃアレクの出番がないわ」


「こっちも楽勝だったぜ。なあ、ソフィア」


「うん。そこまで強く感じなかったわ」


 まあ人数も多いし、レベリングしたから当然だな。

 そう。今回のイベントに絡んでいる魔族側の転生者は、地下道を塞ぎもせずにモンスターすら強化していないんだよな。


「この扉を抜けると城の中だな」


 扉の先に罠を仕掛けてあるとか……いや、それがないことも確認済み・・・・だ。

 『不可視インビジブル』と『認識阻害アンチパーセプション』が使える諜報部隊を潜入させたし、俺自身もイベントが始まる前に確認している。

 特に今回は魔族の大部隊に待ち構えられると面倒だから、今現在も諜報部隊が潜入して監視している。

 つまり俺はロドニア伯爵の戦力から兵士の配置、城の中の状況まで全部把握しているのだ。


 だからこそ、向こうが何の手も打ってこないことが余計に不気味だ。

 まあ、ガーランドに転生した奴のような馬鹿もいるからな。

 自分の手でメインキャラたちを殺したいとか考えているかもしれない。


 ゲームのときは城の中に入ると、ロドニア伯爵の部屋まで大した敵とは遭遇しなかった。

 ロドニア伯爵は部下と群れるのが嫌いで、自分がいる城の中心部には専用の召使と側近以外は立ち入らせないという設定だからだ。

 そして今回も扉の向こうに敵が待ち構えていないことは解っている。


「みんな、解ってると思うけど油断するなよ」


「ええ。解っているわ」


「当然よ」


「私だって……アレクと一緒に戦うために頑張って来たんだから」


 それでも一応警戒して、俺が先頭で扉を抜ける。

 扉の先はロドニア伯爵の城の中心部で、やはり近くに魔族の姿はなかった。


 ラウルを監視していた魔族はロドニア伯爵の部屋の場所までは知らなかったし、伯爵が部屋にいるとは限らないけど。

 俺は当然場所も、今ロドニア伯爵が部屋にいることも知っている。


「とりあえず上に向かうか。偉い奴の部屋が上にあるのは定番だろ」


 すんなりとロドニア伯爵がいる場所に辿り着くと、みんなに不審に思われるかも知れないけど。時間を掛けると魔族の軍勢を呼ばれる可能性があるから、最短ルートでロドニア伯爵の部屋に向かった。


 途中で遭遇した召使は非戦闘員だから魔法で眠らせて放置した。


『ロドニアは今も部屋の中にいるんだよな?』


『はい。動きはありません』


 念のために『伝言メッセージ』で確認してから、階段を上って最上階にあるロドニア伯爵の部屋の前に立つ。


「たぶんここだな。準備は良いか?」


 みんなが頷くのを確認して扉を開けると、一斉に部屋の中へ雪崩れ込んだ。


 広々とした部屋には品の良い調度品が並んでいて、部屋の奥の長椅子には、3つ目で2本の長い角を持つ美形が気怠そうに凭れ掛っていた。


「やあ。君たちが来るのは解っていたけど、私が想像していたよりも到着が早かったね」


 バレス・ロドニア伯爵――今回のイベントに絡む転生者は、イケメンスマイルで俺たちを迎えた。


「何を訳の解らないことを……私が叩き切ってやるわ!」


 レイナが飛び掛かろうとするが、バレスはいきなり両手を上げると。


「私は降伏するよ。だから早まらないでくれないか」


 笑顔のまま宣言した。

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